ブラック・スワン_(映画)
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一緒に住む母親エリカ(バーバラ・ハーシー)は元バレリーナで、今では絵画を描く日々を送っているが、自分が果たせなかったバレリーナとしてのをニナに託すステージママとなっており、彼女に対して過剰なほどの愛情を注いでいる。

ニナの所属するバレエ団は次の公演『白鳥の湖』の上演準備に入り、バレエ団のフランス人の演出家トマ(ヴァンサン・カッセル)はこの演目のプリマ主役)を選ぼうとしていた。『白鳥の湖』の主役「白鳥の女王」は、純真で無垢な「白鳥」と、官能的で邪悪な「黒鳥」の二役を一人で踊るため、相反する事柄を一人で表現する実力が必要である。トマは年を取ったプリマバレリーナのベス(ウィノナ・ライダー)を白鳥の女王役には用いず、新人のリリー(ミラ・クニス)やヴェロニカ(クセニア・ソロ(英語版))、そしてニナを候補者に挙げ、ニナにプリマとなる機会が巡って来る。

しかし、ニナの生真面目で几帳面な気性は白鳥役には向いていたが、黒鳥を表現し切れず、トマはヴェロニカを主役に選ぼうとする。ニナは再考を懇願しにトマの所へ行くと、トマに突然キスをされ、ニナは思わず彼のを噛んでしまう。ニナに意外な面があることに気付いたトマは考えを翻し、ニナを主役に抜擢する。バレエ団は次の公演の為に宴会を開き、トマはバレエ団のプリマ・バレリーナだったベスの引退を発表し、さらにその場でニナを新しいスターとして招待客に紹介した。

ニナは華々しいデビューを飾るが、ロビーでトマを待っていた所にベスが現れ、トマを性的に誘惑してプリマ・バレリーナの座を得たのだろうと詰られ、驚愕を受ける。その後、トマのアパートに招待された彼女は、黒鳥を演じる為に性的な喜びを追求することが必要だと忠告を受ける。

次の日から過酷な練習が始まるが、ニナは性的に魅了するような情熱に欠けているとトマに責められ、やがて精神的に疲れ幻覚妄想に悩まされるようになり、代役として控えているリリーが、自分がせっかく射止めた主役の座を奪おうとしているようにも思えてならなくなってくる。

ある夜、ニナは母親と諍いを起こし、リリーに誘われクラブへと飲みに出かける。酔った勢いでニナは麻薬を使い、男性と性行為に興じる。その後ニナとリリーはニナのアパートに帰ったが、また母親と言い争いになってしまう。ニナはリリーと二人だけで自分の部屋に閉じ篭り、リリーと性行為に耽り、やがて寝込んでしまう。翌朝ニナが目を覚ますと彼女は一人で、一緒にいるはずのリリーはどこにもいなかった。練習場に駆け付けて見ると、その練習はリリーが白鳥の女王役を踊る形で始まっていた。ニナはリリーに対して、なぜ起こしてくれなかったのかと怒りをぶちまけるが、リリーは昨晩はクラブで出会った男性と一夜を過ごしたと言う。アパートでの二人の出来事はニナの妄想であった。

ニナの幻覚や妄想は日増しに酷くなり、『白鳥の湖』の開演を翌日に控えた前夜、トマと舞台裏で性行為をしているリリーが徐々にニナ自身に変身して行くという幻覚症状に襲われる。帰宅後も母親が描いた数多くのが自分のことを嘲笑っているように見えてしまう。さらに自分の身体までも鵞鳥のように化かすと、遂にニナは気を失ってしまう。

いよいよ公演が始まる日の夕方ニナが目覚めると、体調を崩し舞台に出られないと劇場に連絡した、と母に告げられる。ニナは母を乱暴に振り切り、劇場へ向かう。劇場ではリリーが白鳥の女王を踊る準備を進めていた。ニナはそんな経緯を無視し、「代役は不要」とトマに告げると白鳥として踊る準備を整えた。

第一幕は順調に滑り出したかに見えたが、やがてニナは幻覚を見始め、仕舞いには王子役のバレエ・ダンサーがニナを受け損ない落としてしまう。すっかり憔悴して楽屋に戻ると、そこには黒鳥の化粧をしているリリーの姿があった。そして眼前でリリーがニナ自身の姿へと変容する幻覚を見ながら、彼女と揉み合いになり、割れた鏡の破片でリリーを刺殺してしまう。ニナはリリーの死体を隠し、第三幕を踊る為、黒鳥として舞台に登場した。

ニナはまるで身も心も黒鳥となったかのように、情熱的にそして官能的に踊り、観客は総立ちで拍手をしてニナを褒め称えた。舞台を下りると、ニナはトマと抱き合い口付けを交わす。しかしニナが楽屋で待機していると、そこにニナの踊りに感動したリリーが激励の言葉をかけに現れた。この時、ニナはリリーと争ったことは現実ではなく幻覚だったこと、鏡の破片で刺したのもリリーではなく、自分自身だったということに気付く。

第四幕(最後幕)舞台が始まり、ニナは結末を完璧に躍りこなした。最後の白鳥が崖から跳び下りて自らの命を絶つ場面を演じながら、ニナは観客の中に母がいて感動してすすり泣いていることに気付いた。観客はまた総立ちになり劇場全体に割れんばかりの拍手が響き渡った。観客席が感動に包まれ、リリーはニナを褒め称え、トマはニナを抱擁した。しかし、その直後、ニナはその場に崩れ落ちる。完璧なバレエを舞いきったニナは、恍惚とした表情で宙を見上げるが、その視界は徐々に白んで行くのだった。
キャスト

※括弧内は日本語吹替

ニナ・セイヤーズ / ザ・スワン・クイーン -
ナタリー・ポートマン坂本真綾

トマ・ルロイ / ザ・ジェントルマン - ヴァンサン・カッセル森田順平

リリー / ザ・ブラック・スワン - ミラ・クニス小松由佳

エリカ・セイヤーズ / ザ・クイーン - バーバラ・ハーシー竹口安芸子

ベス・マッキンタイア / ザ・ダイング・スワン - ウィノナ・ライダー園崎未恵

デヴィッド / ザ・プリンス - バンジャマン・ミルピエ(英語版)

ベロニカ / リトル・スワン - クセニア・ソロ(英語版)(浅井清己

ガリナ / リトル・スワン - クリスティーナ・アナパウ(英語版)(小林希唯

マデリン / リトル・スワン - ジャネット・モンゴメリー

アンドリュー / シュータ - セバスチャン・スタン川野剛稔

トム / シュータ - トビー・ヘミングウェイ

製作・背景
構想

アロノフスキー監督は多数の『白鳥の湖』関連作品を鑑賞し、そして白鳥と黒鳥の二重性を脚本に関連づけた[5]

アロノフスキーは、『レスラー』と『ブラック・スワン』は元々一つの企画であったことから、これらを姉妹編と呼んでいる。彼は結局、「一つの映画にするにはあまりに多い」ため、レスリングとバレエの世界を切り離した。彼は2本の映画を比較し、「ある者はレスリングは最低の芸術と言い、またある者はバレエを最高の芸術と呼ぶ。しかし、私にとって驚くべきことは、これらの世界両方のパフォーマーがいかに似通っているかである。どちらでも、パフォーマー自身の身体を信じられないほど使って何かを表現している」と語った[6]。『ブラック・スワン』のサイコスリラーの要素について、女優のナタリー・ポートマンは、ロマン・ポランスキーの1969年の映画『ローズマリーの赤ちゃん』と比較した[7]が、アロノフスキーはポランスキーの『反撥』(1965年)と『テナント/恐怖を借りた男』(1976年)が最終的に映画に「大きな影響」があると語った[6]。また、俳優のヴァンサン・カッセルは、ポランスキーの初期作品、さらに、デヴィッド・クローネンバーグの初期作品と『ブラック・スワン』を比較した[8]

2010年にアロノフスキーは自身へのインタビュー上で、1998年のアニメ映画パーフェクトブルー』と『ブラック・スワン』の類似性を指摘された影響は無いと述べたが[9]、その後に今敏から飛行機内で話す時間が出来た際に今から「明らかにパクリなシーンがありますよね?パクリじゃないですか?」と質問され「それはオマージュですから」と弁明した事があり、今は「オマージュって便利な言葉だな」と不快感を示している[10]。アロノフスキーは以前、『レクイエム・フォー・ドリーム』でバスタブのシーンを再創造するために『パーフェクトブルー』のリメイク権を購入し、また2001年に同映画の監督である今敏と対談を行っていた[11]。また今敏死後に発売された書籍『今敏アニメ全仕事』に哀悼のコメントを寄せている。
企画と撮影撮影が行われたニューヨーク州立大学パーチェス校の演技芸術センター

脚本がまだ執筆されていない2000年頃、アロノフスキーとポートマンは初めてバレエ映画について議論をした[6]。アロノフスキーは競合するバレエダンサーとのラブシーンに関してポートマンに話し、そして彼女は「私は、この映画がとても多くの方法で自分ともう一人の自分への芸術家のエゴとナルシズム的なかなりの魅力を探究していて、それが非常におもしろいと思った」と振り返っている[12]。アロノフスキーが『ブラック・スワン』の詳細なアウトラインをユニバーサル・ピクチャーズに提案した2007年1月、スタジオはプロジェクトを企画第一段階へと進めた[13]。プロジェクトは同スタジオではまとまらず、そしてアロノフスキーは代わりに『レスラー』を撮った。2008年に『レスラー』を撮り終えた後、彼はマーク・ヘイマンに『ブラック・スワン』を執筆するように依頼した[6]


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