ニナはまるで身も心も黒鳥となったかのように、情熱的にそして官能的に踊り、観客は総立ちで拍手をしてニナを褒め称えた。舞台を下りると、ニナはトマと抱き合い口付けを交わす。しかしニナが楽屋で待機していると、そこにニナの踊りに感動したリリーが激励の言葉をかけに現れた。この時、ニナはリリーと争ったことは現実ではなく幻覚だったこと、鏡の破片で刺したのもリリーではなく、自分自身だったということに気付く。
第四幕(最後幕)舞台が始まり、ニナは結末を完璧に躍りこなした。最後の白鳥が崖から跳び下りて自らの命を絶つ場面を演じながら、ニナは観客の中に母がいて感動してすすり泣いていることに気付いた。観客はまた総立ちになり劇場全体に割れんばかりの拍手が響き渡った。観客席が感動に包まれ、リリーはニナを褒め称え、トマはニナを抱擁した。しかし、その直後、ニナはその場に崩れ落ちる。完璧なバレエを舞いきったニナは、恍惚とした表情で宙を見上げるが、その視界は徐々に白んで行くのだった。 ※括弧内は日本語吹替 アロノフスキー監督は多数の『白鳥の湖』関連作品を鑑賞し、そして白鳥と黒鳥の二重性を脚本に関連づけた[5]。 アロノフスキーは、『レスラー』と『ブラック・スワン』は元々一つの企画であったことから、これらを姉妹編と呼んでいる。彼は結局、「一つの映画にするにはあまりに多い」ため、レスリングとバレエの世界を切り離した。彼は2本の映画を比較し、「ある者はレスリングは最低の芸術と言い、またある者はバレエを最高の芸術と呼ぶ。しかし、私にとって驚くべきことは、これらの世界両方のパフォーマーがいかに似通っているかである。どちらでも、パフォーマー自身の身体を信じられないほど使って何かを表現している」と語った[6]。『ブラック・スワン』のサイコスリラー
キャスト
ニナ・セイヤーズ / ザ・スワン・クイーン - ナタリー・ポートマン(坂本真綾)
トマ・ルロイ / ザ・ジェントルマン - ヴァンサン・カッセル(森田順平)
リリー / ザ・ブラック・スワン - ミラ・クニス(小松由佳)
エリカ・セイヤーズ / ザ・クイーン - バーバラ・ハーシー(竹口安芸子)
ベス・マッキンタイア / ザ・ダイング・スワン - ウィノナ・ライダー(園崎未恵)
デヴィッド / ザ・プリンス - バンジャマン・ミルピエ
ベロニカ / リトル・スワン - クセニア・ソロ(英語版)(浅井清己)
ガリナ / リトル・スワン - クリスティーナ・アナパウ(英語版)(小林希唯)
マデリン / リトル・スワン - ジャネット・モンゴメリー
アンドリュー / シュータ - セバスチャン・スタン(川野剛稔)
トム / シュータ - トビー・ヘミングウェイ
製作・背景
構想
2010年にアロノフスキーは自身へのインタビュー上で、1998年のアニメ映画『パーフェクトブルー』と『ブラック・スワン』の類似性を指摘された影響は無いと述べたが[9]、その後に今敏から飛行機内で話す時間が出来た際に今から「明らかにパクリなシーンがありますよね?パクリじゃないですか?」と質問され「それはオマージュですから」と弁明した事があり、今は「オマージュって便利な言葉だな」と不快感を示している[10]。アロノフスキーは以前、『レクイエム・フォー・ドリーム』でバスタブのシーンを再創造するために『パーフェクトブルー』のリメイク権を購入し、また2001年に同映画の監督である今敏と対談を行っていた[11]。また今敏死後に発売された書籍『今敏アニメ全仕事』に哀悼のコメントを寄せている。
企画と撮影撮影が行われたニューヨーク州立大学パーチェス校の演技芸術センター
脚本がまだ執筆されていない2000年頃、アロノフスキーとポートマンは初めてバレエ映画について議論をした[6]。アロノフスキーは競合するバレエダンサーとのラブシーンに関してポートマンに話し、そして彼女は「私は、この映画がとても多くの方法で自分ともう一人の自分への芸術家のエゴとナルシズム的なかなりの魅力を探究していて、それが非常におもしろいと思った」と振り返っている[12]。アロノフスキーが『ブラック・スワン』の詳細なアウトラインをユニバーサル・ピクチャーズに提案した2007年1月、スタジオはプロジェクトを企画第一段階へと進めた[13]。プロジェクトは同スタジオではまとまらず、そしてアロノフスキーは代わりに『レスラー』を撮った。