ブラック・ジャック
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少年誌において実験作を執筆したり、青年誌に進出したりするなどして方向性を模索するが、1970年には青少年向けの性教育を意図して執筆した『やけっぱちのマリア』が糾弾を受け、1973年には虫プロ商事虫プロダクションが倒産し、まさにどん底にいた。

そんな中『週刊少年チャンピオン』編集部は、手塚に漫画家生活30周年記念作品(ただし、1973年当時手塚はデビュー28年目である)として「かつての手塚漫画のキャラクターが全部出る作品」の企画を依頼する。編集部内で『週刊少年チャンピオン』編集長の壁村耐三が担当編集者の岡本三司に「死に水をとろうか」と相談をもちかけたくらいの状況に追い込まれていた手塚はこれを了承する。手塚は以前に『鉄腕アトム』「ひょうたんなまず危機一発」(1965年)において同様のスターシステムでのオールスターを執筆していた。

間もなく、かつての手塚漫画のキャラクターが次々にブラック・ジャックという外科医にかかるという大体のプロットが出来上がる。ブラック・ジャックというキャラクターには医学生だった頃の手塚自身が反映され、また劇画ブームに対抗する(あるいは取り込む)意味でアウトサイダー的な存在として描かれた。『手塚治虫漫画40年』(秋田書店)によると「手塚漫画は正義の味方的な主人公が多いので、あえて、アウトサイダーな男の生き様を子どもにもわかるように描こうと考えた」。初期構想ではブラックジャックはあくまで狂言回しであり、メインはオールスターの方にあった。連載が安定化した後も時々ブラックジャックが狂言回しになるのはこのためである。

担当編集者の岡本によると「最初の予定では、4・5回連載して最後は無人島でエンディング…」「一種のバラエティ番組的なニギヤカシ作品のはずだった」ことからあまりやる気が出なく、手塚にタイトルが決まったか聞いた際に「ブラック・ジャック」と言われ「先生、サブタイトルじゃなく本タイトルを教えてくださいよ」と失言するくらいのゆるい扱いであり[8]、いざ連載が始まっても、巻頭カラーもなく、地味な扱いが続いた。

連載開始の当初は人気が低く、ほぼ最下位であり、担当編集者の岡本は編集長の壁村から「どうする?」と聞かれ困ったというが、その後、じりじりと順位を上げ、50話「めぐり会い」で2位に浮上、以降は軌道に乗った[8]

なお、『週刊少年チャンピオン』編集長の壁村耐三は、反応がなければ3回で辞める約束だったともいい、手塚自らが「これが最後」と持ち込んだ企画だったとも証言[9]しており、編集者と編集長という当事者同士の間で話が全く食い違っている。なお秋田書店自体は前述の『手塚治虫漫画40年』で、編集部が企画を持ち込んだ説を取っている。

当時の『ドカベン』『がきデカ』『マカロニほうれん荘』といった超ヒット作には及ばなかったものの、10年間にわたり安定して柱となり、『週刊少年チャンピオン』の黄金時代を支えた[10]。「人生という名のSL」で定期連載は終了するが、その後も『週刊少年チャンピオン』誌上で散発的に13本発表された(最終作品は「オペの順番」)。

手塚の息子である手塚眞によると、誰にも立ち入りを許さなかった手塚の仕事部屋に、担当編集者が無断で入ったことに怒った手塚が連載終了を宣言したという[11]。これとは別の理由として、ロボトミーの描写に関する抗議事件の後、医学的な整合性について指摘を受けて描きづらくなったことを生前の手塚が書き残している[12]

単行本は秋田書店の少年チャンピオンコミックスにまとめられたのが最初で、その後も愛蔵版や手塚治虫漫画全集にも収められ、文庫版はミリオンセラーを達成し[13]、1994年から始まった1990年代のマンガ文庫のブームの火付け役になった[14][15]

アメリカ合衆国では1995年からVIZ社が発行した月刊漫画雑誌『MANGA VISION』に連載された[16]

2023年11月、本作の連載50周年を記念して、『週刊少年チャンピオン』52号にて「TEZUKA2023 ブラック・ジャック 機械の心臓-Heartbeat Mark II」が掲載された[17]。本作は手塚プロダクション所属のメンバーなどのクリエイターや、本作を学習したAIを使用して描かれ、手塚の新作を制作するプロジェクト「TEZUKA2023」の一環として制作が行われた読み切りである[17]
医学描写

本作には、医学的リアリティと大胆なフィクションが並存しているが、これは医学的事実よりも物語性を優先した、手塚の作劇術の一環である。異星人やミイラ幽霊感情と自我を持つコンピュータを「手術」するなどという突飛な設定の話も存在する。架空の病気(「99.9パーセントの水」に登場する寄生生物など)も登場したほか、双子の体内にあったもう一人分のや内臓からピノコを人体として組み上げて動き回れるようにするといった一部の描写も、現代の医療技術を超越している。


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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