フワーリズミー
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伝記的情報を提供するアラビア語による一次史料は、イブン・アビー・ヤアクーブ・ナディームとイブン・キフティーである[5][7][8]

「フワーリズミー」は「フワーリズムの人」を意味するニスバ、つまり地名に由来する通り名である[9]。「フワーリズム」とはアラル海の南にあるヒヴァという町とその周辺の地方のアラビア語での呼称である[7](以下「ホラズム」と呼ぶ)。ホラズムは古代にはペルシア帝国の一地方であったが、680年にムスリムによる統治下に入った[10]。一般的にニスバはいささか多義的であり、自分自身がその場所出身である場合のほか、父や祖父が出身者である場合や本人がその場所で活躍したり長く住んでいたためにそのニスバがある場合もある[9]。イブン・ナディームとキフティーは「血統」や「家柄」を表すアラビア語 a?l を用いて、フワーリズミーがホラズムの a?l であると述べているため、直列的に父系を遡った先祖の誰かにホラズムから来た人物がいると推定される[7]

20世紀の科学史家のトゥーマー(英語版)は、9,10世紀の歴史学者タバリーの著作の中に、フワーリズミーに続けてマジュスィー・クトルッブリー(al-Majus? al-Qutrubbull?)というニスバが記載されていることを見出し、フワーリズミー自身はティグリス川ユーフラテス川に挟まれた、バグダードからそう遠くないクトルブルという場所の生まれであり、ホラズムは父祖の地だったのではないかという仮説を立てた[4][7][10]。さらに言えば「マジュスィー」はフワーリズミーがかつてゾロアスター教徒であったことも示唆する[7][注釈 1]

エジプトの科学史家ラーシェド(英語版)は、トゥーマーの仮説に対して、手写本の伝承誤り、誤記を指摘して反論した[4][11]。ラーシェドは、トゥーマーが根拠としたタバリーの手写本においては al-Khuw?rizm? al-Majus? al-Qutrubbull? という記載の al-Khuw?rizm? の後ろに wa が抜けていると指摘し[注釈 2]、この文章は「フワーリズミー」と「マジュスィー・クトルッブリー」という2人の人物について言及しているにすぎないと反論した[4][11]。ラーシェドはトゥーマーの仮説を楽しみながらも「専門の文献学者でなくともこのことに気付くのは容易」とした[4][11]

イブン・ナディームの書籍目録『フィフリスト』によるとフワーリズミーの著作はすべてマアムーンの治世代(813年-833年)に書かれている[7][8]。さらに10世紀の地理学者マクディスィー(英語版)は、カリフ・ワースィク(アラビア語版)が統治の初年(842年)にフワーリズミーを、コーカサス山脈を越えたところに住んでいる遊牧民のハザール人の族長のところへ派遣したという情報を伝えている[7]

しかしこの情報はムハンマド・ブン・ムーサー・フワーリズミーとムハンマド・ブン・ムーサー・ブン・シャーキルを混同したものとするのが一般的な解釈である[5][7]。このイブン・シャーキルという人物は、フワーリズミーと同時期に類似した分野で活躍したバヌー・ムーサー三兄弟の長男である[5]。この一般的な解釈に対して、20世紀の科学史家のダンロップ(英語版)は、バヌー・ムーサー三兄弟の長男ムハンマドとフワーリズミーとが同一人物だったのではないかという仮説を立てた[5]。根拠は上記マクディスィーの「混同」のほかにはクンヤの一致(バヌー・ムーサーの長男には「アブー・アブドゥッラー」のクンヤがあり、フワーリズミーにもイブン・ハッリカーンなど一部の文献が「アブー・アブドゥッラー」のクンヤがあるとする)、活躍分野(天文学、数学)と活動場所(バグダード)の完全一致などである[5]

フワーリズミーの没年についてはまったく手がかりがない[7][8]。タバリーは、カリフ・ワースィクが病気になったとき病床に天文学者たちを呼び、自分がこの先何年生きるかを占わせたという話を伝えている[7]。このとき「天文学者のムハンマド・ブン・ムーサー」が星占いの結果、閣下はあと50年生きますと答えたが、カリフはその後10日もたずに亡くなったという[7]。このできすぎた話が歴史的事実を伝えており、この「天文学者のムハンマド・ブン・ムーサー」が本項のフワーリズミーのことを指していると信じられる場合は、少なくとも847年(ワースィクの没年)までフワーリズミーが生きていたということになる[7]


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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