フラッシュメモリ
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MLC・TLCは書き換え回数を経るにつれ中間の2値の差が小さくなり、ここでの誤りがエラーの原因になる。MLC・TLCの優位な点は大容量化である。2022年現在では各社から大容量のSSDが低価格で販売されており、HDDからの完全な換装もその速度を考えれば十分値段に見合うものになっている。

SLC (Single Level Cell):1個のメモリセルに1ビットを記憶、セルトランジスタのしきい電圧は2段階(消去が1つ、書き込みが1つ)

MLC (Multi Level Cell):1個のメモリセルに2ビットを記憶、セルトランジスタのしきい電圧は4段階(消去が1つ、書き込みが3つ)

TLC (Triple Level Cell):1個のメモリセルに3ビットを記憶、セルトランジスタのしきい電圧は8段階(消去が1つ、書き込みが7つ)

QLC (Quadruple Level Cell):1個のメモリセルに4ビットを記憶、セルトランジスタのしきい電圧は16段階(消去が1つ、書き込みが15)

SLC型

SLC型は1つの記録素子に1ビットのデータを保持する。

蓄積電荷量の検出を "Hi/Low" の2値で判断するため、記録素子の劣化やノイズといった多少の蓄積電荷量のバラツキは問題とならない。

書き換え可能な上限回数が多い

データ保持期間が比較的長い(5年から10年)

MLC(多値NAND)

MLC型、TLC型、QLC型といった多値NANDは、蓄積電荷量の検出を"Hi/Low"だけでなく、2つの間にいくつかの中間値を設定して、4値や8値、16値といった多値で判断する。記録素子の劣化やノイズによって少しでも蓄積電荷量に変動が生じると、保持していたデータは誤りとなる。その場合、フラッシュメモリ回路やそれを制御するコントローラ内の誤り検出訂正回路によって自動的に正しいデータに修正される(エラー訂正)。一般的に多値NANDの記録素子は、エラー訂正機能との併用が必須となり、SLC型と比べ多くの冗長エリアが必要となる。またこれらのエラー状況を監視する事により、「メモリーブロック不良」が検出され、代替メモリーブロックに切り替えられる。

例えばMLC型はSLC型と比べて書き換え可能な回数とデータ保持期間で劣るが、1セルあたりの記憶容量が倍増(4値の場合)する。同じセル数(体積)であれば大容量化が、同じ容量ならば低価格化(少セル化・小型化)が可能となり、大容量フラッシュメモリを安価に提供することが可能となる。長期間の使用や高信頼性を求めず、主に価格や小型化を重視するデジタルビデオカメラや個人用PCなどの民生用途に用いられる。
電源

消去・書き込みのためにVppとして別電源が必要なもの(二電源系)と、単一電源で動作するもの(単電源系)がある。単電源系はチャージポンプなどの昇圧回路を内蔵している。最近では、低容量のROM等には3.3V単電源のもの、携帯電話のROM用途には1.8V単電源またはCore 1.8V・I/O 3.3Vのものが多く使われている。(書き込まれたデータの保持期間は有限である。)
構造図フラッシュメモリのセルの構造



書き込み時

ソースをGNDに接続して、ドレインとゲートに高電圧を印加する。

ホットエレクトロンはソース側から浮遊ゲートと基板間のゲート絶縁膜をすり抜けて浮遊ゲートに留まる。(トンネル効果)




消去時

ソースを開回路状態に、ドレインに高電圧を印加し、制御ゲートをGNDに接続する。

すると、浮遊ゲート内の電荷はドレイン側に引き抜かれる。


制約
ブロック消去

フラッシュメモリの制約の一つは、ランダムアクセスにおいて、ビット単位の書き換えができないことである。
メモリーウェア

別の制限は、フラッシュメモリが、(大抵PまたはEサイクルで書き込まれる)消去サイクルの – プログラムの有限の(回)数をもっている、すなわちその回数には限りがあることである。最も商業的に利用されるフラッシュ製品は、記憶の完全な状態の品質低下が始まる前までに、おおよそ100,000のP/Eサイクルに耐えるよう保証されている。[4]

2012年12月に、マクロニックス (英語: Macronix)の台湾人の技術者らが彼らの2012年のIEEEの国際電子装置会議で発表する趣旨を開示した。その趣旨は、'自己治癒'(: self-healing)処理を使ってNANDフラッシュ記憶の読み込み/書き込みサイクルを10,000回から10億回へどの様に改善するかを説明するものである。その処理は、記憶素子の小さなグループを焼き鈍しできる基盤搭載型加熱器をもったフラッシュチップを使うものである。[5]少なくとも10億回の書き込みサイクルを与える、その組み込まれた熱的焼き鈍しは、通常の消去サイクルを、保存された充電を消すだけでなく、チップ内部の電子的に引き起こされたストレスを補修する、局部の高温度処理で置き換えるものだった。[6]将来有望なマクロニックスのブレークスルーはモバイル産業に有ったかも知れない、しかしながら、商業的な製品についての計画は無かった。[7]
読み出し混乱

NANDフラッシュメモリーを読み出すのに用いられる方法は、(プログラム由来の)同じメモリブロック内での近くのセルが何度も変更することを引き起こしうる。これは'読み出し混乱'(: disturb)として知られている。
X線の影響

多くのフラッシュ集積回路はボールグリッドアレイ英語: ball grid array)の梱包として出荷され、そしてそうでないものはしばしば他のBGAの梱包の次のPCBにおいてマウントされる。BGAの梱包として搭載される、後者のPCBアセンブリ(英語: PCB Assembly)は、もしそのボールがその専用のパッドに専ら接続させるものであれば、またはもしそのBGAがやり直し(英語版)を必要とするならば、しばしばX線を当てられる。これらのX線はフラッシュチップ内のプログラムされたビットらを消しうる(プログラムされた0のビットは消された1ビットとなる)。消されるビット(1のビット)はX線の影響を受けない。[8][9]

幾つかの製造業者は現在X線防御SD[10]とUSB[11]メモリ装置を製造している。
保持期間

フローティングゲートに充電した電子によって情報を記憶するという構造のために、書き込まれたデータの保持期間は有限である。メーカーの公称値では、書き換えによって劣化していない状態(書き換え限度の10%以下)で3年以下(TLC/QLC)・5年(MLC)・10年(SLC)、書き換え限度まで達した状態から1年となっている[12][13][14]。これは環境の影響を受け、高温や放射線のあたる環境下においてはソフトエラー(英語版)が発生[15]して保持期間は通常よりも短くなる(条件次第では使用不能もありうる)。

NOR型であれば一般に20年程度の保持期間を持ち[16]、BIOSなどのファームウェアに使われている。ただし初期のフラッシュメモリ製品は既に20年以上が経過しており、保持期間が有限であることに変わりは無い。なお、これらの保持期間は最後に書き込んで以降の時間を示す[16]
寿命

フラッシュメモリの記憶素子は、動作原理上絶縁体となる酸化膜が貫通する電子によって劣化するため消去・書き込み可能回数が限られており、記憶素子単体の書き換え寿命は短命なものではQLCが数十回程度、TLCが数百回程度でそれぞれ限界、長くてもMLCの場合で数千回程度、SLCの場合で数万回程度である[17][注 2]。NOR型よりもNAND型の方が劣化が激しい。この記憶素子をそのまま記憶装置として使う場合、書き込みが特定ブロックに偏るため、未使用の記憶素子がある一方で特定の記憶素子だけが劣化によって寿命が尽きるという状況が発生する。現状の製品では、書き込みの偏り対策としてコントローラを搭載して消去・書き込みが特定ブロックに集中しないようにウェアレベリングをしている。これにより書き換え寿命は論理的には伸びる。正確な計算方法はメーカーによって複数あり、例えば製品の最大容量と書き換え可能な領域等によって寿命は変わってくる[18]

書き込み可能回数を超えると、ストレージとして認識することができなくなったり、正常な記録ができなくなったり、正常に記録することができたとしても記録内容を維持することができず、記録した内容が壊れたり消えてしまったりする確率が上昇する[19]

Intelの研究によれば、63nmから72nmのプロセスルールで製造されたMLC(2bit/セル)方式NANDフラッシュメモリ8Gbitチップの場合、1万回の書き換えでエラーの起きる確率が1ビット当たり100万分の1から1000万分の1程度(即ち8Gbitならばエラーの起きるビットは平均1000から100ビット)である[20]

フラッシュメモリは半導体製品であり、電子回路の構成部品として回路基板上に実装された形で製品化されているものが大半である。電子回路であるがゆえにフラッシュメモリそのものの故障以外に、電子回路の他の部品(コントローラチップなどフラッシュメモリ以外の実装部品も含む)の故障の影響で使用不能に陥ることもある。
ハードディスクからの転換詳細は「ソリッドステートドライブ」を参照

パソコン用デバイスとしてのフラッシュメモリは、当初ユーザーの操作で書き換え可能なBIOSを持ったマザーボードへの利用など表面に出ない用途だった。やがてUSBメモリなどによるフロッピーディスクの代替としての利用が始まり、書き換えに対する耐久性の向上(ハード的な技術向上やソフト的に書き換える部分を集中しないようにする工夫 - ウェアレベリング)、大容量化・低価格化・高速化が進み、徐々に大容量記憶装置としての役割を担うようになっていった。

2004年には、小容量ながらパソコンに内蔵してハードディスク (HDD) 同様ドライブとして使用できるソリッドステートドライブ(SSD)が登場。


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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