フェニキア文字
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バルテルミは1756年にパルミラ文字について、ギリシア語との二言語碑文をたよりに固有名詞を比較することで各文字の表す音を明らかにし、それから本文を同系の言語であるヘブライ語シリア語の知識をもとに解釈することで一晩で解読に成功した。同様の方法でバルテルミはフェニキア語や帝国アラム語の文字も解読に成功した。バルテルミによる解読は古文字解読の最初の成功例であった[5]
成立詳細は「音素文字の歴史」を参照

フェニキア文字は多くの音素文字の源だが、さらにその源の最古の音素文字は紀元前2000年ごろに発明されたと考えられる[6]。発見されたものとしては、ルクソール近くのワディ・エル・ホルで発見された落書きや、シナイ半島のサラービート・アル・ハーディムで発見された文字があり(原シナイ文字)、紀元前1800年ごろのものと考えられている。

原シナイ文字の研究により、音素文字はエジプトのヒエログリフの知識を持ち、西セム語を母語とする労働者によって、ヒエログリフの字形をもとに頭音法の原理によってその文字が表すセム語の単語の最初の子音を取ったものという説が行われている。この説が立証されるには原シナイ文字の解読が正しいものでなければならないが、しかし現状では原シナイ文字の解読はすこぶる疑わしい[7]

原シナイ文字を継承し、充分な資料のある最古の文字はウガリット文字(紀元前14世紀ごろ)で、27子音字と声門破裂音で始まる3つの音節文字を持っている。

パレスチナにも、原シナイ文字を継承した紀元前17-15世紀ごろの文字がいくつか発見されており、原カナン文字と呼ばれる。これが、フェニキア文字へ移行した。この移行は連続性が強く、移行時期を確定できないが、便宜的に紀元前11世紀半ば以降のものをフェニキア文字と呼んでいる。

フェニキア文字では文字の数が22に減少し、字形は抽象的になった。書字方向は安定して右から左へ書かれるようになった[8]。最古のフェニキア文字による碑文のひとつに棺に刻まれたアヒラム碑文がある(紀元前850年ごろ)[9]
音素文字の拡散

現存するフェニキア文字の初期の碑文はフェニキア語を表記しているが、後にはアラム語ヘブライ語、およびモアブ語(メシャ碑文に代表される)などの言語を表すためにも使われた。アラム語やヘブライ語はフェニキア語よりも多くの子音を持っていたため、1つの文字で複数の子音を表記した[4]

フェニキア人による音素文字の採用は非常な成功を収め、さまざまな変種が地中海で前9世紀頃から採用された。さらには、ギリシア文字古代イタリア文字アナトリア半島の諸文字(リュディア文字リュキア文字カリア文字など)、イベリア文字へ発展していった。その成功の理由の一つは、音声的特徴にあった。フェニキア文字は一つの記号で一つの音を表す文字体系としては、初めて広く使われたものである。当時使われていた楔形文字やエジプト神聖文字等の他の文字体系では多くの複雑な文字が必要で、学習が困難であったのに比べて、この体系は単純だった。この一対一方式のおかげで、フェニキア文字は数多くの言語で採用されることになった。

フェニキア文字が成功したもう一つの理由は、音素文字の使用を北アフリカ欧州に広めた、フェニキア商人の海商文化であった[10]。実際、フェニキア文字の碑文ははるかアイルランドにまで見つかっている。フェニキア文字の碑文は、ビブロス (現レバノン) や北アフリカのカルタゴのような、かつてフェニキアの都市や居留地が多数あった地中海沿岸の考古学遺跡で発見されている。後にはそれ以前にエジプトで使われた証拠も発見されている[11]

文字は元来尖筆で刻み込まれていたので、ほとんどの形状は角張って直線的であるが、より曲線的なものが次第に使われるようになり、ローマ時代北アフリカの新ポエニ文字と発展していった。フェニキア文字は通常右から左に書かれたが、牛耕式(行が変わるたびに書字方向を変える)で書かれた文章もある。
文字の呼び名

フェニキア文字の各文字の名前は知られていないが、フェニキア文字から発展したギリシア文字・ヘブライ文字・シリア文字などは基本的に共通の呼び名を持っており、フェニキア文字でも同じような名前がついていたとされる。

文字の名のうちには、その起源が明らかなものもある。たとえばアレフはヘブライ語 ????? elef 「牡牛」と関係し、その字形()は牛の頭を正面から描いた形と見ることができる。カフはヘブライ語 ???? kaf 「手のひら」と関係し、その字形()は手のひらを描いたように見える。これらはもともとある物の絵を描いて、その絵によって表される語の最初の1音を表す文字として使われたという頭音法の原理によって作られたと考えられる。しかしまた起源の明らかでないものも多い。

研究者によっては、いくつかの文字の古い名前が異なっていたと考えた。たとえばアラン・ガーディナーは原シナイ文字のヘビの形をした文字を、ゲエズ文字で「n」の字をナハスと呼ぶことを根拠にヘブライ語 ?????? na?a? 「ヘビ」と結びつけて「n」を表す文字と解釈した。これによればフェニキア文字のヌン()「魚」は後に名前が変わったということになる。しかし、ダニエルズによるとゲエズ文字の文字名は16世紀以前にさかのぼらず、原シナイ文字の解釈に使うのは誤りである[12]
文字の一覧

画像文字文字名[13]意味[14]発音以下の文字体系で対応する文字
ヘブライ文字アラビア文字ギリシア文字ラテン文字キリル文字
𐤀ʼāleph
アレフ雄牛ʼא?Α αA aА а
𐤁bēth
ベト家bב?Β βB bБ б, В в
𐤂gīmel
ギメルラクダgג?Γ γC c, G gГ г
𐤃dāleth
ダレト扉dד?‎, ?Δ δD dД д
𐤄hē
ヘー窓hה?Ε εE eЕ е, Є є
𐤅[15]wāw
ワウ鉤wו?(Ϝ ϝ)[16],
Υ υFf[16],
V v, YyU u, W w)
(Ѵ ѵ),У у
𐤆zayin
ザイン武器zז?Ζ ζZ zЗ з
𐤇ḥēth
ヘト柵ḥח?‎, ?Η ηH hИ и, Й й
𐤈ṭēth
テト車輪ṭט?‎ ,?Θ θ(Ѳ ѳ)
𐤉yōdh
ヨド手yי?Ι ιI i (J, j)(І і, Ї ї, Ј ј)
𐤊kaph
カフ掌kכ?Κ κK kК к
𐤋lāmedh
ラメド突き棒lל?Λ λL lЛ л
𐤌mēm
メム水mמ?Μ μM mМ м
𐤍nun


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