フェアユース
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そのため、テレビ放送の私的使用のための家庭内録画が著作権侵害になるか否かにつき深刻に争われたことがある(Sony Corp. of America v. Universal City Studios Inc., 464 U.S. 417、いわゆるベータマックス事件)。

なお、文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約を批准しているアメリカ合衆国は同条約第九条第二項で示されたスリー・ステップ・テスト(英語版)に合致した条件で著作権制限規定を盛り込み、施行せねばならず、「特別の場合について」というベルヌ条約の定めを遵守しているのかという疑問が、学者から提起されることがあるが、加盟国からフェアユースについて異議が提出されたことはない[19]。また、学説の通説も「米国法のフェアユースはスリー・ステップ・テストに反しない」とする解釈が大多数を占めている[19]
1992年の改正

未公開であることを理由にフェアユースの成立を否定した、1985年のハーパー・アンド・ロー対ネイションエンタープライズ裁判(英語版)以降、未公開であることを決定的な理由としてフェアユースの成立を否定した下級裁判所の判決が相次いだため、「[4要素]を考慮してフェア・ユースが認定された場合、著作物が未発行であるという事実自体は、かかる認定を妨げない。」という文言が1992年の著作権改正法(英語版)で追加された[20]。これは未公表であることにより一律してフェアユースを認めないとなると、歴史研究の分野に悪影響を及ぼすとされたためである[21]
各種団体によるガイドラインの作成

「著作権法全体の中で最も厄介である」(the most troublesome in the whole copyright) と言わしめた[2]フェアユースの法理は法的予見性に問題があるため、アメリカ合衆国では各種の業界団体が著作物の利用に関する詳細なガイドラインを定めていることがある[22]。例えば教育目的の著作物の利用については教育機関、出版業者などにより Guidelines for Classroom Copying in Not-For-Profit Educational Institutions with Respect to Books and Periodicals や Guidelines for Educational Uses of Music というガイドラインが作成されている。一方で、エリック・J・シュワルツは、フェアユースとして許容される複製の量や方法を明文で規定することは不可能であろう、としている[18]
各国の法制化状況
欧州連合

欧州連合 (EU) では、米国著作権法のようなフェアユースの法理による、一般的な著作権制限の条項に対して否定的な立場をとり、個別列記の方式をとっている[23]。この方針は、2001年のEU情報社会指令に起因する。情報社会指令では、制限条項を21条件に限定しているだけでなく、EU加盟国の国内法でこの21条件以外を追加規定することを禁じている[24]。また、2019年にDSM著作権指令が成立したことから、EUでは制限条項を新たに3条件追加している[25]

フェアユースの法理を採用するかは、法的な安定性と柔軟性のどちらを重視するかに依存する。欧州各国のように限定列挙すれば、著作権者にとっては著作財産権の価値が高まると同時に、著作物の創作のための投資と回収の見通しが立ちやすくなる。一方で米国のように一般的な基準を設け、個別判断は裁判所に任せることで、著作物の内容や流通経路といった社会的・技術的な変化にも対応しやすくなるメリットが考えられる[26]。実際、フェアユースを導入している米国よりも、導入していない欧州の方が、インターネットを通じた著作権侵害の件数が多いとの指摘がなされている (2013年時点での比較)[23]

たとえば、Googleサジェスト機能 (オートコンプリート機能) が著作権法上の複製権侵害に該当するかについて、欧州各国の司法判断は分かれている[27]。楽曲を例にとると、一般ユーザがGoogle検索で「共有サイト、大量アップロード、高速シェア」などとキーワード入力すると、違法なデジタル楽曲シェアサイトが検索ヒットすることから、Googleが著作権侵害サイトにユーザを誘導してしまうおそれがある。これに対し、フランスではパリ大審裁がGoogle有利の判決を2011年5月に出している。これは、サジェストされた検索結果が必ずしも違法サイトに限らないとの理由からである[28]。スペインの最高裁もデ・ミニミスだとして、Googleのデータキャッシングが著作権侵害に当たらないと判示している。しかしベルギーでは同件について違法と判示されている[27]。著作権法の改正は常に技術革新の後追いとなるため、条文で公正利用の条件を個別規定するより、司法判断に託す方が公平性が保てるとして、フェアユースの欧州導入に賛成の意見もある[23]
イギリス

英米法を採用するイギリスにおいては、1988年著作権・意匠・特許法(英語版)第29条により、フェアディーリング(英語版)が法で定められており、「非商業目的のための研究」(第1項)または「私的学習」(第1c項)[29]において複製が認められている[29]が、商業利用は認められていない点でアメリカのフェアユースとは異なる。また、米国法で明文化されている4要件などの具体的要件は、英国法において明文化されていない。ただし、数々の判例により、以下の3要素を決定的要素として審判されている[30]
複製が著作権者の正規の販売を妨げるか

複製の量・割合

複製者が複製によって経済的利益を得るか

一方、司書や図書館員が図書館で業務を行う際は「1989年著作権規則(司書およびアーキビスト)(著作権を有する素材の複製)」 (The Copyright (Librarians and Archivists) (Copying of Copyright Material) Regulations 1989) に従う必要があり、これに反する行為をフェアディーリングの下、行なうことは禁じられている(第3項第a号)[31]


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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