ファットマン
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これに対してMark 3は丸くずんぐりした形状であったため、『マルタの鷹』(ハメットの同名探偵小説の1941年の映画化作品)にて、シドニー・グリーンストリート(英語版)が演じたキャラクター「カスパー・ガットマン」から着想を得て、「ファットマン(太った男)」と命名された[5]

なお、イギリス保守党の政治家であるチャーチル首相にちなんだものとする俗説がある。

日本語では、「ふとっちょ(太っちょ)」[6][7]または「デブ」(『はだしのゲン』など)と翻訳されることもあるが、「ファットマン」の表記もある[8]
構造ファットマンの内部構造(全体)
AN 219 接地式起爆装置

対地測距用アンテナ

電源

起爆用コンデンサー

爆弾の前後の楕円部分を固定しているヒンジ

プルトニウムと爆縮レンズ

対地測距用レーダーと起爆用タイマーなどの制御装置

起爆制御装置

尾翼(20インチのアルミニウム製)

プルトニウムと爆縮レンズ内部の構造拡大
Clipファットマンの内部構造(起爆装置・爆縮レンズ等)

爆縮レンズには合計で2,500キログラムもの爆薬が使用されている。その内部にそれぞれ120キログラムのアルミニウム合金製プッシャーと天然ウラン球があり、中心には6.2キログラムのδ相プルトニウム合金が収められている。ファットマンの質量の半分以上を爆縮レンズの爆薬が占め、直径は137.8センチメートルもありファットマン(ふとっちょ)という名前の由来にもなっていた。これは当時の技術水準では必要な圧力を得るためにこれだけの分量が必要だったためである。コンポジションB/アルミニウム合金製プッシャー/天然ウラン中性子反射器/プルトニウム核 の順番に、密度比が1.65/2.71/19.05/19.8となっている。

後年では爆薬部分の密度を上げたり副臨界系を小さくすることで急速に小型化が行われ、最終的には100キロトンクラスの核兵器でも直径30センチメートル程度にまで小型化された。
構成部品
起爆電橋線型雷管
衝撃波は1ミリ秒につき8メートルも進むため、32個の雷管が点火するタイミングの許容誤差は0.1マイクロ秒以下になる。このため原爆用に新しい原理の雷管が新規に開発された。詳細は起爆電橋線型雷管の項目を参照。
起爆装置
起爆電源のために、5キロボルト1,000アンペアの大型の高圧オイルコンデンサが必要で、0.1マイクロ秒以下の誤差で作動させるために1マイクロファラッドの低キャパシタンスのスイッチ機構が必要である。これに電力を供給するための新型電池が開発された。コンデンサと電池だけで1トン近い質量があり、爆縮レンズの爆薬に次いで質量を占めている部品である。
爆縮レンズ
爆薬だけで2.5トンもあり、ファットマンの質量と体積の半分以上を占めている最大の部品である。詳細は爆縮レンズの項目を参照。
アルミニウム合金製プッシャー
爆薬と天然ウラン、プルトニウムの間の密度差があまりにも大きいため、爆縮による衝撃波の反射波が大きくなる。するとレイリー・テイラー不安定性などの流体力学的不安定性が大きくなって衝撃波の高い球対称性が崩れてしまうため、いったんアルミニウム合金製プッシャーで衝撃波を受け止めるようになっている。レイリー・テイラー不安定性が大きくなるとレイリー・テイラー波が発生して圧力が低下するのを防ぐ目的もある。
中性子反射体 兼 タンパー(Tamper)
核分裂物質から発生した中性子が外部に逃げてしまって連鎖反応が止まらないようにするため、中性子反射体が必要である。ファットマンでは天然ウランを用いており、中性子反射体としては厚さ3センチメートルで十分であるが、1ナノ秒の間に80回の連鎖反応を繰り返すまでは核分裂物質を一か所に留めておく必要がある。この押さえがタンパーである。核分裂物質を1ナノ秒間押さえ込むためにタンパーにはある程度の慣性質量が必要で、これを兼ねるために7センチメートルの厚さになった。後年の研究では、熱量の20パーセントは天然ウランによる副臨界系から発生したと言われている。
中性子点火器
この装置は、プルトニウムが核分裂反応を起こすために必要な最初の中性子線を出すための装置である。点火器という名称は燃焼(核分裂反応)を始めるために必要な火種となる中性子を出すための装置であることに由来している。構造は質量7グラムのベリリウム球の表面に楔形の溝15本を掘り込んで厚さ0.1ミリメートルの金メッキを施し、さらに11ミリグラムのポロニウム210をメッキしたものである。爆縮によって急にベリリウムポロニウムが混合されると、ポロニウムが放射したアルファ粒子ベリリウム原子に衝突し、束縛から解き放たれた中性子を放射する。
起爆過程ファットマンの起爆過程

.mw-parser-output .legend{page-break-inside:avoid;break-inside:avoid-column}.mw-parser-output .legend-color{display:inline-block;min-width:1.5em;height:1.5em;margin:1px 0;text-align:center;border:1px solid black;background-color:transparent;color:black}.mw-parser-output .legend-text{}  起爆電橋線型雷管が32個同時に起爆する。

  衝撃波は起爆した地点から放射状に広がっていく。

  早い爆薬:コンポジションB

  遅い爆薬:バラトール(32個の遅い爆薬の中で衝撃波がレンズの中の光のように屈折する)

  早い爆薬:コンポジションB

  アルミニウム合金製プッシャー(低密度の爆薬から高密度のウランに衝撃波が投射されると、その密度差からレイリー・テイラー波と呼ばれる低圧の波が発生して十分な圧力をプルトニウムに加えることが出来なくなる。これを抑えるために、いったん爆薬より高密度な軽金属に衝撃波を投射してからプルトニウムへ伝達している)

  中性子点火器が爆縮の衝撃波を受けるとポロニウム殻と内部のベリリウム球が急激に混合され、ポロニウム210が放射したアルファ粒子ベリリウムに衝突して中性子を10ナノ秒に1個の割合で周期的に放出する。


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