ファゴット
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キー機構は楽器の全長近くにわたり、キーの数は30前後とかなり多い。ファゴットの全高は1.34メートルに及ぶが、管が二重に折り曲げられていることを考えると鳴っている全長は2.54メートルである。若いあるいは小さい奏者のために作られた短いファゴットも存在する。
材質

現代の初心者用ファゴットは一般的にカエデ製であり、セイヨウカジカエデサトウカエデといった中程度の硬さのものが好まれる。より安価なモデルはポリプロピレンエボナイトといった材質でも作られる。これらは主に学生および屋外用である。金属製ファゴットは過去に作られたが、1889年以降は主要な製造業者によって生産されていない。
リードファゴットのリードは通常長さ約5.5センチメートルで糸が巻き付けられている。リードの基部周りの縛りの詳細。

リード製作の技は数百年間にわたって実践されてきており、知られている最初期のリードの一部はファゴットの前身であるドゥルシアンのために作られていた[11]。現在のリード製作の方法は一連の基本的手法から成る。しかしながら、個々のファゴット奏者は自分の演奏スタイルに特別合致するように自分のリードの製作まで自分で行う。市販されているリードに関しては、多くの会社および個人があらかじめ作られたリードを販売しているが、奏者は自身の演奏スタイルに合うように購入したリードを調整する必要を感じることが多い。

現代のファゴットのリード(ダンチクの茎から作られる[12])は奏者自身が製作することが多いものの、初心者のファゴット奏者はリード製造会社からリードを購入したり、教師によって作られたリードを使用する傾向にある。リード作りはまず、節から節までの長さの茎(ケーン)をケーンスプリッターと呼ばれる道具を使って3つあるいは4つに縦割りする。次にケーンは余分な部分が切り取られ(トリミング)、望ましい厚さに削られる(ガウジング)。この時皮は付いたままである。水に浸した後、ガウジングされたケーンは適切な形状に切り取られ(カッティング)、皮側から削っていくことで望ましい厚さまで薄くされる(プロファイリング)。これはやすりを使って手作業で行うことができる。さらに頻繁には、機械やこの目的のために設計された道具を使って行われる。プロファイリングされたケーンは再び水に浸された後、中央で半分に折り曲げられる。浸す前に、リード製作者はナイフを使って皮に平行線を軽く刻んでいるだろう。これによって、形成段階でケーンが円筒状をとるようになる。

次に、最終的な形成過程を手助けするために真鍮製針金を1重、2重、または3重に巻き付けて(あるい輪っかで)縛る。これらの輪の正確な位置はリード製作所によって幾分違いがある。次に、縛られたブランクリードを保護するために太い綿またはリネンの糸を巻き付け、円錐形の鉄製マンドレル(英語版)(火で炙ることもある)を2枚のブレードの間にすばやく挿入する。特殊な1対のペンチを使って、リード製作者はケーンを押し付け、マンドレルの形状に一致させる(加熱されたマンドレルによって生成される蒸気によりケーンは永続的にマンドレルの形状をとるようになる)。このようにして作られた空洞の上部は「スロート」(喉)と呼ばれ、その形状はリードの最終的な演奏特性に影響を与える。下部のほとんど円筒形部分はリーマーと呼ばれる特殊な道具を使って穴を広げられる。これによってリードがボーカルに適合するようになる。

リードが乾燥された後、針金はリードの周りに締め付けられるか(乾燥によってリードが縮むため)、完全に交換される。下部は密封され(Ducoといったニトロセルロースベースの接着剤を使うことができる)、次にリードの底部から空気が漏れないように、そしてリードがその形状を維持するように糸を巻き付ける(ラッピング)。ラッピング自身もDucoまたは透明マニキュア液で密封されることが多い。アマチュアのリード製作者はラッピングとして絶縁用テープを使うこともできる。ラッピングの膨らみは「トルコ人の頭(Turk's head)」と呼ばれることがある。この部分はリードをボーカルに挿入する際に便利なハンドルとして機能する。近年、より多くの奏者が時間と手間のかかる糸ではなく、より現代的な熱収縮性チューブを選んでいる。糸によるラッピング(十字模様の巻き付け方のため一般に「ターバン」と呼ばれる)は市販されているリードでは今でもより一般的である。

仕上げのため、ブランクリードの末端の折り曲げられた(前はケーンの中心だった)部分が切り落とされ、開口部が作られる。最初の針金より上のブレードの長さはおおよそ27 - 30ミリメートルとなる。演奏するためには、ナイフを使って先端にわずかな傾斜を作らなければならないが、専用の機械も存在する。リードの硬さ、ケーンの性状、奏者の要求に応じてリードナイフを使ったその他の調整が必要かもしれない。リードの開きも1つ目あるいは2つ目の針金をペンチで絞ることによって調整する必要があるかもしれない。リードのバランスを取るため、側面(チャネル)あるいは先端から余分な材質が取り除かれるかもしれない。さらに、もし低音の E のピッチが低い場合、非常に鋭利な鋏を使ってリードを1 - 2ミリメートル刈り取る(クリッピング)必要があるかもしれない[13][14]
歴史
起源ドゥルシアンランケットミヒャエル・プレトリウス『音楽大全』より。

音楽史家は一般的に、ドゥルシアンを現代ファゴットの前身であると考えている[15]。これは、2つの楽器が金属製クルック(ボーカル)に差し込まれたダブルリード、斜めに空けられた音孔、二重に折り曲げられた円錐形ボアなど多くの特徴を共有しているためである。ドゥルシアンの起源ははっきりとしないが、16世紀中葉までにはソプラノからグレートバスまで8つもの異なるサイズで利用可能だった。ドゥルシアンのフルコンソート(合奏団)は珍しかった。ドゥルシアンの主要な機能は、当時の典型的な管楽器合奏(音量の大きなショームあるいは小さなリコーダー)に低音を提供するためだったようである。これは、要求に合わせて強弱を変化させる素晴らしい能力を示している。それ以外の点では、8つの音孔と2つのキーを持つドゥルシアンの技法はかなり原始的であり、これは限られた数の調でしか演奏できなかったことを示している。

状況証拠は、バロックファゴットが、古いドゥルシアンの単純な改良というより、むしろ新たに発明された楽器だったことを示している。ドゥルシアンはただちには取って代わられず、バッハらによって18世紀になっても使い続けられた。そして、おそらく互換性の理由により、この時点から後のレパートリーはドゥルシアンの狭い音域を越える可能性は極めて低い。真のファゴットを開発したのは、マルタン・オトテール(1712年死去)である可能性が高い。オトテールは3つの部分からなるflute traversiere(横笛)およびhautbois(オートボア。バロック・オーボエ)を発明した人物かもしれない。1650年代のある時期に、オトテールが4つの部位(ベル、ベースジョイント、ブーツ、ウィングジョイント)に分かれるファゴットを考案したとする歴史家もいる。この構成によって、一体型のドゥルシアンと比較してボアを機械加工する際の精度が大きく向上した。オトテールはまた2つのキーを追加することによって、音域をB♭まで下に拡張した[16]。別の見方では、オトテールは初期ファゴットの開発に携わった数人の職人の一人であったとされる。


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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