ピレスロイド
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しかし、有機塩素系農薬の環境中での残留性・生物への蓄積性が問題となり、DDTが1973年アメリカ合衆国環境保護庁(EPA)によって製造禁止措置が実施された[3][注釈 2]。この結果、再び合成ピレスロイドも、疾患を媒介する虫の駆除のために、一般的に利用されるようになり、さらに、新規の合成ピレスロイドの開発も進んでいった。

日本などでは、蚊取り線香やスプレー式殺虫剤に合成ピレスロイドが利用される。一方で、中央アフリカなどでは、合成ピレスロイドを吸着させた蚊帳も利用されている。

しかしピレスロイド耐性の蚊が1996年に発見され、さらにダニ・トコジラミ・ゴキブリにも耐性種が発見されたため、製薬会社はオキサジアゾール(メトキサジアゾンなど)を配合するなどの対策を講じた[4]
特色

天然ピレスロイドのピレトリンは、光・酸素・アルカリに不安定で、環境中に揮発した後は速やかに分解・失活する短時間作用型の防虫剤であり、この性質は農薬としては欠点でもある。また除虫菊を原料とするのでは、天候に左右され大量生産は困難であるため、20世紀前半から合成ピレスロイドが研究され、実用化されるようになった。

合成ピレスロイドの実用化により、農薬・家庭内殺虫剤として、ピレスロイド系薬剤が広く利用されるようになり、エアロゾル剤(殺虫スプレー缶)、燻蒸剤、揮発製剤(防虫シート)、乳剤(防疫用・園芸用)と、多様な利用形態が開発されている。

ピレスロイドは、哺乳類や鳥類に対して、あまり毒性を発揮せずに[5]、昆虫などには強い毒性を発揮するという選択毒性を有するため、最も身近に利用されている殺虫剤である。害虫駆除のためのピレスロイドの利点を列挙すると、速効性、忌避効果(嫌がってピレスロイド濃度の高い部分に近づかない)、フラッシングアウト(隠れている虫を追い出して殺す効果)、安全性(人間など、恒温動物に対して有害性が極めて低く、光や酸素で速やかに分解されるため、残効性が無い)が挙げられる[5]
天然ピレスロイド
ピレトリン

ピレトリン (Pyrethrin)は1919年1923年に山本の構造決定の報告があるが、1924年にスイスのヘルマン・シュタウディンガーレオポルト・ルジチカによって、殺虫活性物質の主成分の構造が決定され、彼らによりピレトリンと命名された。

ピレトリンは混合物で、ピレトリン I とピレトリン II が含まれ、いずれも殺虫作用を持つ。昆虫類の神経には強力に作用するが、哺乳類や鳥類に対する作用は比較的弱く、昆虫の致死に必要な濃度程度では、哺乳類や鳥類に対しては事実上作用を示さないため、除虫菊としての使用を含め、人畜用の防虫剤として古くから利用されてきた。しかしながら、光や空気酸化により速やかに失活するので、作用時間が短い。また、ヒトであっても、皮膚に直接塗布した際などに、アレルギーを誘発する場合がある。

なお、哺乳類や鳥類に対して全くの無害というわけではない。ヒトの場合でも、高い濃度で大量のピレトリンに曝露されると、皮膚の紅斑皮膚炎丘疹掻痒などの皮膚症状、気管支喘息傾眠、血管運動神経性の鼻炎アナフィラキシー様反応、口唇のしびれ感、吐き気下痢耳鳴り頭痛、情動不安、協調運動障害、間代性痙攣、知覚麻痺、衰弱など神経症状が現れる場合がある。重篤な場合は、中枢性の呼吸停止により、死亡に至る場合がある。また、劇症のアレルギーであるアナフィラキシー様反応などに陥った場合も、放置すると危険である。

ピレトリン I (Pyrethrin I) ? IUPAC名は (1R,3R)-2,2-ジメチル-3-(2-メチル-1-プロペニル)シクロプロパンカルボン酸 (1S)-2-メチル-4-オキソ-3-(2Z)-2,4-ペンタジエニル-2-シクロペンテン-1-イルエステル、CAS登録番号は121-21-1。空気中で速やかに酸化を受け失活する。

ピレトリン II (Pyrethrin II) ? IUPAC名は (1R,3R)-3-[(1E)-3-メトキシ-2-メチル-3-オキソ-1-プロペニル]-2,2-ジメチルシクロプロパンカルボン酸 (1S)-2-メチル-4-オキソ-3-(2Z)-2,4-ペンタジエニル-2-シクロペンテン-1-イルエステル、CAS登録番号は121-21-1。空気中で速やかに酸化を受け失活する。

シネリンシネリン 構造式

1945年に除虫菊から再発見されたピレスロイドである。ピレトリンと同様な作用を持つ。皮膚に直接塗布してアレルギーを誘発する例がある。大量のシネリンに曝露されると、紅斑、皮膚炎、丘疹、掻痒などの皮膚症状、喘息、傾眠、血管運動神経性鼻炎、アナフィラキシー様反応、口唇のしびれ感、吐き気、下痢、耳鳴り、頭痛、情動不安、協調運動障害、間代性痙攣、知覚麻痺、衰弱など神経症状が現れる場合がある。重篤な場合は中枢性の呼吸停止により死に至る場合がある。

シネリンI (Cinerin I) ? IUPAC名は (1R,3R)-2,2-ジメチル-3-(2-メチル-1-プロペニル)シクロプロパンカルボン酸 (1S)-3-(2Z)-(2-ブテニル)-2-メチル-4-オキソ-2-シクロペンテン-1-イルエステル、CAS登録番号は25402-06-6。空気中で速やかに酸化を受け失活する。

シネリンII (Cinerin II) ? IUPAC名は (1R,3R)-3-[(1E)-3-メトキシ-2-メチル-3-オキソ-1-プロペニル]-2,2-ジメチルシクロプロパンカルボン酸 (1S)-3-(2Z)-(2-ブテニル)-2-メチル-4-オキソ-2-シクロペンテン-1-イルエステル、CAS登録番号は121-20-0。空気中で速やかに酸化を受け失活する。

ジャスモリンジャスモリン 構造式

ジャスモリン(Jasmoline)のアルコール成分は、ジャスミンの香り成分であるジャスモン(英語版)の4位に、ヒドロキシ基が付いたアルコールである。他のピレスロイドと同様に殺虫作用を持つ。

ジャスモリン I (Jasmoline I) ? IUPAC名は (1R,3R)-2,2-ジメチル-3-(2-メチル-1-プロペニル)シクロプロパンカルボン酸 (1S)-2-メチル-4-オキソ-3-(2Z)-2-ペンテニル-2-シクロペンテン-1-イルエステル、CAS登録番号は4466-14-2。

ジャスモリン II (Jasmoline II) ? IUPAC名は (1R,3R)-3-[(1E)-3-メトキシ-2-メチル-3-オキソ-1-プロペニル]-2,2-ジメチルシクロプロパンカルボン酸 (1S)-2-メチル-4-オキソ-3-(2Z)-2-ペンテニル-2-シクロペンテン-1-イルエステル、CAS登録番号は1172-63-0。

合成ピレスロイド
アレスリンアレスリンI (R = ?CH3)
アレスリンII (R = ?COOCH3)詳細は「アレスリン」を参照

アレスリン(Allethrin)はピレトリンの構造を元に、初めて全化学合成によって創造された殺虫剤で、構造が異なるアレスリン I、アレスリン II が知られている。なお、いずれも立体不明の混合物として合成および命名されているので、アレスリンと呼んだ場合は、8種の異性体混合物を指す。

アレスリン I (Allethrin I) ? IUPAC名は 2,2-ジメチル-3-(2-メチル-1-プロペニル)シクロプロパンカルボン酸 2-メチル-4-オキソ-3-(2-プロペニル)-2-シクロペンテン-1-イルエステル、CAS登録番号584-79-2。150℃以上で分解せずに揮発する。光、空気、アルカリに不安定。

アレスリン II (Allethrin II) ? IUPAC名は 3-(3-メトキシ-2-メチル-3-オキソ-1-プロペニル)-2,2-ジメチルシクロプロパンカルボン酸 2-メチル-4-オキソ-3-(2-プロペニル)-2-シクロペンテン-1-イルエステル、CAS登録番号497-92-7。光、空気、アルカリに不安定。

その他の合成ピレスロイド

D-テトラメトリン
(別名フタルスリン)C19H25NO4、分子量331.4、CAS登録番号7696-12-0。

レスメトリン C22H26O3、分子量338.5、CAS登録番号10453-86-8。

フラメトリン C18H22O3、分子量286.4、CAS登録番号、CAS登録番号23031-38-1。

フェノトリン C23H26O3、分子量350.45、CAS登録番号26002-80-2。疥癬の治療のために外用する場合がある。

メトフルトリン C18H20F4O3、分子量 360.34、CAS登録番号240494-70-6。

トランスフルトリン C15H12Cl2F4O2、分子量371.15、CAS登録番号118712-89-3。

シフェノトリン C24H25NO3、分子量 375.47、CAS登録番号39515-40-7。

ベラトリン C18H21ClO4、分子量 375.47、CAS登録番号70-43-9。

エトフェンプロックス(別名ベクトロン)C25H28O3、分子量376.49 CAS登録番号80844-07-1。菊酸エステルでなくエーテル構造を持つ。

モンフルオロトリン C19H19F4NO3、分子量 385.35、CAS登録番号609346-29-4。

ペルメトリン C21H20Cl2O3、分子量 391.29 CAS登録番号52645-53-1。疥癬の治療のために外用する場合がある。

シフルトリン C22H18Cl2FNO3、分子量 434.29、CAS登録番号68359-37-5。毒劇法劇物に指定されている。

テフルトリン C17H17ClF7O2、分子量 418.74、CAS登録番号79538-32-2。毒劇法で毒物に指定されている。

ビフェントリン C23H22ClF3O2、分子量 422.87、CAS登録番号82657-04-3。毒劇法で劇物に指定されているものの、2%以下は普通物である。

シラフルオフェン C25H29FO2Si、分子量 408.58、CAS登録番号105024-66-6。


D-テトラメトリン

レスメトリン

フラメトリン

ペルメトリン

シフェノトリン

ブラトリン

エトフェンプロックス

シフルトリン

(毒)テフルトリン

(劇)ビフェントリン


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