ピアノ
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フレームおよびそれを支える木製[注 2]の胴体、足、弦、アクション機構などによりピアノの重量はパイプオルガンを除くほかの楽器に比べて桁違いに重く、アップライト・ピアノで200 kg?300 kg、グランド・ピアノでは300 kg以上、コンサート・グランドでは500 kgを超えることも珍しくない。このため、ごく少数のこだわりを持つ演奏家を除いてコンサートに自分のピアノを持参することはなく、会場にある楽器を使う。
鍵盤

標準的モダンピアノは黒鍵36、白鍵52の計88鍵を備える(A0からC8に及ぶ7オクターヴ短3度)。この音域のものは19世紀後半頃から作られ始め、第一次世界大戦後に標準となったものである。88鍵が標準的になったのは、この音域が楽音として人間が認識できる限度であるためだといわれている[12]。鍵そのものは、ほとんどの場合木でできており、表面にかつては白鍵は象牙を、黒鍵は黒檀を貼っていることが多かったが、現在では合成樹脂製付き板を使ったものが多い。また、近年では、象牙や黒檀の質感を人工的に再現した新素材(人工象牙、人工黒檀)などが採用されたものもある。

古いピアノには85鍵(A0からA7の7オクターヴ)のものも多く、また88鍵を越える楽器も存在する。ベーゼンドルファーの一部のモデルは低音部をF0まで拡張しており(92鍵)、C0まで拡大して8オクターヴ(97鍵)の音域を持つ1モデル(モデル290 “インペリアル”)も存在する。このような拡張部分は、不要時には小さな蓋で覆えるようになっているものや、拡張部分は白鍵の上面を黒く塗って、奏者の混乱を防ぐ措置がとられているものがある。これよりも最近に、オーストラリアのメーカースチュアート・アンド・サンズ社でも97鍵 (F0?F8)・102鍵 (C0?F8) ・更には108鍵(C0?B8に及ぶ9オクターヴ)の楽器を作っており、この108鍵のピアノは2018年9月に初めて作られたもので、2022年現在世界一広い音域を持つピアノとなっている。また102鍵 (C0?F8) の楽器はフランスのステファン・ポレロ社でも作られている。これらのスチュアート・アンド・サンズ社やステファン・ポレロ社などのモデルでは、拡張音域の鍵盤の見た目は他と変わらない。拡張音域は、主により豊かな共鳴を得るために追加されたもので、これらの音を使うように作曲されている楽曲は僅かである。

逆に、流しのピアニストたちが使う、65鍵の小さなスタジオ・アップライトもある。「ギグ」ピアノと呼ばれるこのタイプのピアノは、相対的に重量が軽く、2人で持ち運び可能であるが、響板部分はスピネット・ピアノやコンソール・ピアノよりも大きく、力強い低音部の響きを有する。「88鍵のピアノの音域外の音」も参照
アクション

鍵を押し下げるとハンマーが連動して弦を叩く仕組みをアクションという。アクション機構は伝統的に木材で作られてきたが、近年はごく一部のメーカーで炭素繊維を含ませたABS樹脂なども使われる。

鍵を押し下げた時に、ハンマーが弦の手前 2?3ミリメートルの位置にくると、ハンマーが鍵の動きから解放される。この動きを「レット・オフ」といい、このような機構をエスケープメントと呼ぶ。打撃による発音では発音体との接触時間を短くすることが重要な要素であるが、これを鍵盤の動きにかかわらず一定の条件で行うための仕組みであり、このエスケープメント・アクションを発明したことが今日のピアノの地位を築く出発点であった。弦とハンマーの間の距離は2?3 ミリの範囲内のいずれでも良いわけではなく、全鍵において可能な限り揃えられる必要があり、これをレット・オフ調整という。一部のメーカでは最高音部のレット・オフを 1ミリまで近づける方が充分な音色を得られることがある。この機構のため、鍵を押し下げるときに指に感じられる重さは、押し下げきる直前で軽くなる。鍵が軽くなってから鍵が深く沈むと、鍵が重く感じられる。

アクションで次に重要な課題となったのは、エスケープした部品(ジャック)を如何に素早くハンマーの下に戻して次の打弦に備えるかであり、様々な方式のアクションが発明、改良されることになった。歴史的には大きく分けてウィーン式アクションとイギリス式アクションが存在した。モダンピアノのアクションは基本的にイギリス式アクションの系列である。

エラール・ダブル・パイロット・アクション、1790年頃

イギリス式のチェックを備えたダブル・アクション(1830年頃のブロードウッド社のスクエア・ピアノのアクション)

チッカリング社製スクエア・ピアノ、1870年頃のアクション

ウィーン式アクション概念図

ダブル・エスケープメントのイギリス式アクション概念図

ウィーン式アップライト・アクション概念図

イギリス式アップライト・アクション概念図

モダンピアノでは、アップライト・ピアノはジャックのみがエスケープするシングル・エスケープメント・アクションを用いているが、グランド・ピアノはジャックとレペティションレバーがエスケープするダブル・エスケープメント・アクション(原型はエラールが開発)を用いている。

ダブル・エスケープメント・アクションにはレペティションレバーという部品があり、これによって素早い連打を可能としている。これは、打弦後、鍵を押し下げる力をわずかに緩めた瞬間に、レット・オフの時にジャックとともに外れて(エスケープして)いたレペティションレバーがハンマーを持ち上げて維持し、ジャックの戻りをたやすくする機構である。これにより鍵の深さの半分まで戻すことで次の打弦が可能になる。

ダブル・エスケープメント・アクションの動き
1) ハンマー・シャンク, 2) ローラー, 3) レペティションレバー, 4) ジャック, 5) レペティションのばね, 6) ウィペン。
左:打鍵前。ジャックはまだローラーの真下にある。
中央:打鍵直後。ジャックはエスケープし、ハンマーとローラーは落下中。この状態では連打はまだできない。
右:鍵からまだ手を離していない状態。レペティションのばねがウィペンとジャックを下方向へひっぱり、その間、レペティションレバーがローラーより鍵盤側の位置でハンマーを持ち上げている。

一方、ハンマーが弦を横から叩くアップライト・ピアノでは、シングル・エスケープメント・アクションのために鍵が完全に戻らなければ次の打鍵はできない。ハンマーが戻るのを助けるバットスプリングと呼ばれるスプリングが付いているために、この力によってハンマーが戻りやすくなっているようにとらえられがちであるが、スプリングを外しても連打の性能には大きな変化はない。正しくアクション調整が行われたグランド・ピアノのアクションでは、毎秒14回程度の、アップライト・ピアノでは7回程度の連打が可能である。レペティションレバーの有無という構造の違いが、グランド・ピアノとアップライト・ピアノのタッチ、表現力の差に大きく影響を及ぼしている。グランド・ピアノのダブル・エスケープメント・アクションは、シュワンダー式アクションが主流だったが、1970年代以降スタインウェイ式アクションを採用するメーカが多くなった。

アクションにおいてハンマーとともに重要なのが、ダンパーと呼ばれる消音装置である。打鍵時以外はこれが弦に密着し、その振動を常に抑えている。鍵を叩くと、ハンマーがハンマーと弦の間(打弦距離)の1/3 ないし 1/2 進んだときにこのダンパーが弦から離れ始めるように調整される。これにより弦の自由な振動を可能とする。鍵を抑えている間中ダンパーは離れているが、鍵を離すと同時にダンパーが弦に戻り、弦の振動を止め、音が消える。ただし、ピアノの最高音部は、弦の鳴る時間が短いため、ダンパーを備えない。

弦に直接触れるハンマーヘッドは、一時樹脂製のものが用いられたこともあったが、今ではほぼ例外なく羊毛のフェルトでできている。ハンマーヘッドは長時間演奏されれば変形するが、音色に大きく影響するものなので、音程の調律ほど頻繁ではないが定期的に調整することが必要となる。具体的には、調律師など専門の技術者が「ファイラー」と呼ばれる表面にサンドペーパー(紙または布製#80?#800程度を数種類)を貼ったものでハンマーフェルトの表面を削り整形したり(ファイリング)、「ピッカー」と呼ばれる柄に針を数本取り付けた工具でハンマーフェルトを繰り返し刺して音色を整える整音(「ボイシング」または「ピッカーリング」とも呼ばれる)を行う。

技術が進歩した近年では、電気ピアノのように同じような発音原理を持ちながら電気的に増幅するものや、電子的に発音するピアノに類する楽器も登場している。

ピアノは鍵盤と同じ数(前述の通り現在の標準的ピアノでは88)の音高を持つが、1音あたりの弦の数は音高により異なり、最低音域では1本、低音域では2本、中音域以上では3本張られ(その境界は機種によりまちまち)、弦の総数は200本を超える。各音の弦は複数弦でも単一のハンマーで同時に叩かれるが、グランド・ピアノの弱音ペダルを踏むとハンマーを含めた鍵盤の機構すべてが物理的に横方向にずれ、中音域以上では叩かれる弦の数が3本から2本に減り、低音域では2本の場合はそのうち片方の弦のみが、1本の場合もその弦の端の方のみがハンマーで叩かれるので音量が低下する。

弦はミュージックワイヤーと呼ばれる特殊な鋼線(ピアノ線の中でも、特に高品質なもの)で、低音域では質量を増すために銅線を巻きつけてある。音域ごとの弦の仕様に関しては、具体的には次のようなものがある。

低音域は低い方から「1音あたり1本、銅巻き線あり」「1音あたり2本、銅巻き線あり」、中音域以上は「1音あたり3本、銅巻き線なし」(多くの機種)

低音域は低い方から「1音あたり1本、銅巻き線あり」「1音あたり2本、銅巻き線あり」「1音あたり3本、銅巻き線あり」、中音域以上は「1音あたり3本、銅巻き線なし」(一部の機種)

弦長は、一般に長いほうが豊かな音色になる(その分張力を増さねばならない)といわれ、限られた寸法の中で最長の弦長を確保するために、弦を2つのグループに分け、各グループ内の弦は同一平面上に張られるが、段差を持った2枚の平面が角度を持って交差するようになっていることが多い(オーバー・ストリンギング)。弦はフレームに植えられたチューニングピンで張られるが、1本あたりの張力は70?80kg重程度で、全弦の張力の合計は20トン重にも及ぶ。ピアノが現在の音量を出せるようになったのは、この張力に耐える鋼製のミュージックワイヤーと鉄製のフレーム(現在は一体の鋳物)が使われるようになってからである。

現在[いつ?]のピアノではオーバー・ストリンギングのために、音が濁るという欠点が存在する。ドイツのDavid Klavinsは、この問題を解決するために1987年にKlavins Piano Model 370を発表した[13]。このピアノは弦を平行に配置するために高さは3.7m(名前の由来となっている)、総重量20トン以上にも上る巨大なもので、共鳴板はグランドピアノの二倍以上あり、階段の上にアップライト型の鍵盤が配置されている。Model 370は2012年現在も世界最大のピアノである。ちなみにこの楽器はオルガン同様据え付けとなっているためコンサートなどには使用できず、ほとんど映画などの音源収録のみに使われている。
響板・大屋根(反響板)「響板」も参照

響板・響棒は弦の下に位置し、ブリッジを通じて伝えられた弦の振動を空気に効率良く伝える。響板は柾目に木取りされておりその方向はブリッジの長さ方向に一致させるのが一般的である。響棒は響板のブリッジに対して反対面に位置し、やはり柾目に木取りされている。響棒は響板木目方向に対して、つまりブリッジの長さ方向に対しても交差する方向に配置される。響板を支える骨組みの役目を果たすが、響板・響棒材を伝わる音は木目方向と木目横断方向ではおよそ4:1となるために、響板の柾目横断方向への振動の伝播を助け、響板全体に振動が均質に伝わるように工夫されてもいる。

グランドピアノでは弦を覆う上蓋(大屋根)がついており、これを持ち上げることによってより豊かな音量を出すことが出来る。これは支え棒によって斜め約45度に固定される。これにより音が指向性を帯びる。演奏者から見て右側が開くため、演奏会場では客席に向かって音を発するように、客席から向かって左側に鍵盤が置かれる。


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