他の条件がすべて同じであれば、長い弦を張った長いピアノの方が響きがよく、弦のインハーモニシティ(非調和性)が小さい。インハーモニシティとは、倍音の周波数の、基本周波数の整数倍からの遠さである。短いピアノは、弦が短く、太く、固いため、弦の両端が振動しにくい。この影響は高い倍音に顕著であるため、第2倍音は理論値よりも若干高くなり、第3倍音はもっと高くなる。このようにして、短いピアノではインハーモニシティが大きい。短いピアノではダンパーペダルを踏んだときに共鳴する弦が少ないので、音色が貧弱である。一方、コンサート・グランドでは弦長があるため短いピアノよりも自由に振動でき、倍音が理想に近くなる。
一般的にはフルサイズのコンサート・グランドは大型なだけでなく高価でもあるため、専用ホールなどでの演奏会で用いられ、より小型のグランドピアノは学校の体育館・講堂や教室(音楽室)、ホテルなどのロビー、小規模なホール、設置場所を取れる一部の家庭(ピアノ教室を開いているようなところ)などで用いられる。
アップライトピアノ詳細は「アップライトピアノ」を参照アップライトピアノ ヤマハ製
アップライトピアノは、フレームや弦、響板を鉛直方向に配し、上下に延びるように作られている。グランドピアノよりも場所を取らないため、グランドピアノを設置するスペースの取れない家庭や、学校の教室、小規模の演奏会場などに広く設置されている。
グランドピアノでは、ハンマーが反動と重力によって自然な動きで下に落ちるのに対し、アップライトで一般的な前後に動くハンマーでは、反応のよいピアノ・アクションを製造することは難しい。これはハンマーの戻りをばねに依存せざるをえず、経年劣化するためである。またレペティションレバーという、ジャックをハンマーの下に引き戻す機構が、ほとんどのアップライトピアノには備わっていないため、連打性能に関しては決定的に劣る。
エレクトリックピアノ詳細は「エレクトリックピアノ」を参照
20世紀の中頃より、音響部分を電気回路に置き換えたエレクトリックピアノ(電気ピアノ)が登場した。
音色が独特であるため、アコースティックピアノの代用品として使用されるケースは稀であり、しばしば同じ楽曲作品内でアコースティックピアノとエレクトリックピアノの両方を使用し共存する楽曲も多い。
発音原理はアコースティックピアノと同じく、ハンマーで音源部を叩くことで音を得ているが、音響増幅をボディ部分の反響から得ているアコースティックピアノと異なり、音源部で鳴らした音を磁気やピエゾピックアップなどで拾い、アンプで電気的に増幅してスピーカーから出力している。アコースティックピアノとエレクトリックピアノは物理的な発音構造が基本的には同じであるので、他の楽器で例えるならアコースティック・ギターとエレクトリック・ギターの関係に近い。合成音ではなく実際に物理的な音源部を振動で鳴らしているため、電源を入れずとも演奏すれば小音量ながら生音は聞こえる。
音源部の素材や反響・共鳴方法はメーカーや機種によってまちまちであり、最もよく知られるエレクトリックピアノの一つであるローズ・ピアノは、各鍵盤ごとの音程を発音する金属片を弦の代わりに叩くことで原音を鳴らし、またその振動を別の金属板で共鳴させている。
ヤマハの製品のように、アコースティックピアノと同じく弦を使用するものもある。当然ながら音源部が同じため、弦以外の音源を使用する機種よりもアコースティックピアノに音は近く、この構造を持つCP-70やCP-80などはエレクトリック・グランドピアノとも呼ばれる。
また、アコースティックピアノにピックアップを搭載したエレクトリックアコースティックピアノとも呼べるハイブリッドモデルも存在するが、後述の電子ピアノにおけるハイブリッド機とは構造が異なり消音機能がある訳ではない。構造としては同じ音を電気的に出力するかしないかだけであるため、仮に消音処理を行なえばエレクトリックピアノとしての音も発音されなくなる。電源を通した場合も当然アコースティックピアノとしての生鳴りは残り、住宅事情や夜間演奏の対策になるものではない。
エレクトリックピアノは発声原理がアコースティックピアノと基本的には同じか、もしくは似通っているため、電子回路で音を生成・合成するエレクトロニックピアノ(アナログ電子ピアノ)や、デジタルピアノといった電子ピアノ類とは明確に区別される。
電子ピアノ詳細は「電子ピアノ」を参照
物理的な音源を用いずに、電子回路によって音を生成及び合成しているものは電子ピアノと呼ばれる。上位モデルではペダルや、実際のピアノの感触を再現した鍵盤、多様な音色、およびMIDI端子を備えている。とりわけ、コンサートなどで用いられることを想定した脚部分のない本体部分だけのものはステージピアノとも呼ばれる。
電子ピアノの音色生成や合成方法はアナログ・デジタルなど様々であるが、古くは1970年代にアナログシンセサイザーの技術を転用してピアノの音色再現を試みたエレクトロニックピアノが、1980年代にはデジタルシンセサイザーの技術を用いたFM音源による合成やサンプリング技術を利用して打鍵にあわせて音を再生するデジタルピアノが登場した。FM音源式はローズピアノなどの音色の再現がしやすく、サンプリング式は本物のエレクトリックピアノの音色をそのまま録音して収録できるため、メンテナンスや搬入に難の多い本物のエレクトリックピアノが駆逐される原因ともなった。特に90年代以降アコースティックピアノやエレクトリックピアノの代用として用いられているものはサンプリングタイプが多く、一般に単にデジタルピアノや電子ピアノと呼ぶ場合はこのタイプを指す。近年では通常のピアノを切り替えによって電子ピアノとしても使用できるサイレントピアノも登場している。サイレントピアノ類は、前述のアコースティックピアノとエレクトリックピアノのハイブリッド機とはまったく異なり、電子ピアノとして使用する場合は生音が消音され、デジタル音源によるサンプリング音が出力される。
電子ピアノは内部構造や発音原理がシンセサイザー類と同じであるため、ピアノの音色や打鍵感覚に重きを置いたシンセサイザーと見ることもできる。エレクトロニックピアノはアナログシンセサイザー、デジタルピアノはデジタルシンセサイザーとそれぞれ相同である。実際のところ、「電子ピアノ」と銘打っていてもデジタルピアノには一般的なシンセサイザーのようにピアノ以外の多彩な音色を備えている機種が多く、そういった機種ではピアノ的な打鍵の重さや細かいコントローラ類が省かれているのを気にしないのであれば、シンセサイザーとしても使用可能である。
多くのデジタルピアノでアップライトやグランドなどのアコースティックピアノ音色の他に、エレクトリックピアノの音色や、古い時代のシンセサイザーに搭載されていたピアノ音色うち、人気の高いものなども搭載されている。しかし、現在の技術水準ではアコースティックピアノの要である打弦されていない弦の共鳴による響きを完全に再現することは困難であり、物理モデル音源技術などを用いた開発が続けられている。 上に分類されないピアノの形態としては、かつて長方形をしたスクエア・ピアノがあったが、19世紀中頃から次第に姿を消し、現在は製造されていない。
その他デュオ・アート自動ピアノ、アメリカ・エオリアン社製
アーヴィング・バーリンは、1801年にエドワード・ライリーが開発した移調ピアノという特殊なピアノを使用した。これは鍵盤の下に備えられたレバーによって、望みの調に移調できるというものであった。バーリン所蔵ピアノのうちの1台はスミソニアン博物館に収められている。
20世紀現代音楽の楽器として、プリペアド・ピアノがある。プリペアド・ピアノは標準的なグランド・ピアノに演奏前にさまざまな物体を取り付けて音色を変えたり、機構を改造したものである。プリペアド・ピアノのための曲の楽譜には、奏者に対してゴム片や金属片(ねじ・ワッシャーなど)を弦の間に挿入する指示が書かれていたりする。
構造ピアノの構造の概念図グランド・ピアノの内部。ベーゼンドルファー製、2006年。中・高音部と低音部の弦がクロスしている。弦の本数は低音部から1本、2本、3本と増える。ベーゼンドルファー社グランド・ピアノ内部。一列にならぶ黒い部品がダンパー。高音部(画面奥)には設置されていない。グランド・ピアノの底、部分写真。響板と響棒が確認できる。アップライトピアノの内部構造。フレームと弦は鍵盤の上下にのびている。中・高音部と低音部の弦はクロスして張られている。アップライト・ピアノの内部構造。Jaschinsky製、1900年頃。Jaschinsky製アップライト・ピアノ内部(低音部)。ダンパーとハンマーヘッドが見える。手前はチューニングピンピアノのペダルペダル・ピアノ
以下では基本的にモダンピアノの構造を解説する。モダンピアノの基本的な構造は、鍵盤、アクション(ハンマーとダンパー(4))、弦(上図-16)、響板(15)、ブリッジ(12)、フレーム(1・14)、ケース、蓋(2・5)、ペダル(11)などからなる。打鍵に連動してダンパーがあがると共にハンマーが弦を叩いて振動させ、この振動は弦振動の端の一つであるブリッジ(駒)から響板に伝わり拡大される。またペダルによって全てのダンパーがあげられていると、打弦されていない他の弦も共鳴し、ピアノ独特の響きを作り出す。鍵から手を離すとダンパーがおり、振動が止められる。