ビデオ戦争
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ソニーのベータマックスが「U規格と同等の性能確保」を意識し、基本録画時間を1時間(後のβIモード)として画質を堅持、U規格と同じ形態によるフルローディングとして機能性を維持していた[注 1]のに対し、VHS方式では家庭用途を意識して、小型軽量、低廉なテープ、市場調査の結果、基本録画時間を2時間と設定した。βTモードの画質は、VHS標準モードと比べ、S/N、解像度は数値は同等であったが、視覚的には勝っていた。録画時間で劣るベータマックスは、すぐさま2倍モードに相当する「βII」モードを開発・搭載することでVHS方式に対抗したが、2倍モードの構造的問題(H並びが合わないなど)から、再生処理を本来規格から変更せざるを得ず、βIIモードの再生処理を基本とした「ベータ方式」として規格を再構築し、これを各社が採用する形となった(最初期のβIをソニー以外の各社がサポートしない理由となっている)。ベータマックスの記録モードの基本が、テープ速度を半減したβIIモードになったことから、画質面ではS/N比は3dBほど劣化し、VHSにやや劣ることになった。機能面ではVHSはノイズレススロー再生や、ドロップアウト補正機能を初期においてリリースし、ソニーも高機能化を意図した製品を投入した。

一方でVHS方式はユーザーにはベータマックスよりも録画時間が長い点が受け入れられ、メーカーには使用部品数が少なくコストの面でニーズに合致していた[2]。販売店の多かったVHS陣営は1978年度には生産台数でベータ陣営を抜き、1982年には毎日新聞が「ベータに敗色」と見出しをつけて報じるなど、「VHSの勝利」という認識が拡がった。

ソニーはベータの苦境を見て、1984年(昭和59年)に4日間連続の新聞広告で「ベータマックスはなくなるの?」「ベータマックスを買うと損するの?」「ベータマックスはこれからどうなるの?」といった問いかけに「答えは、もちろん「ノー」。」「もちろん発展し続けます。」というキャッチコピーを入れ、最終日に「ますます面白くなるベータマックス!」という展開で終わる新聞広告を行ったが、4日間継続して読み続けないと、消費者に意図が上手く理解できない構成だった[注 2]

東芝・三洋などベータ陣営のメーカーもVHS方式の併売をはじめ、程なくベータ方式の新規開発を取りやめ、VHSへ完全に鞍替えした。ベータ方式の規格主幹であるソニー自身も、1988年昭和63年)にVHSの併売に踏み切り、ベータ方式は事実上の市場撤退となった[2][注 3]。こうしてVHS規格のビデオデッキは世界的に普及することとなり最盛期の全世界での普及台数は9億台以上に達したといわれており家庭用ビデオ規格の代名詞となった[2]

ソニーは、市場でのVHS普及後もベータ方式の開発・販売を続けていたが、2002年平成14年)8月27日に、同年12月31日でベータデッキの生産終了を発表、市場からの完全撤退となった。
VHS普及の要因

VHS勝利で幕を閉じた理由として、以下が挙げられる。

販売戦略による要因

1976年の発売当初から、日立製作所、三菱電機、シャープ、松下電器など、家電メーカーがこぞって採用していた。なお、国内では初号機、2号機に限って、ビクターが国内メーカーへ
OEMを行った。翌1977年には、各社が独自性を持った製品を多数発売をはじめた。

メーカー系列店での購入が主だった当時、結果としてVHS陣営のメーカーの系列店の方が多く、購入しやすかったこと。VHSデッキの方が重量も軽く、後に松下幸之助は「ベータは配送を待たなければならないが、VHSは消費者が持ち帰れる大きさであった」と回想している[注 4]


技術的要因

両規格の基本構造である回転2ヘッドヘリカルスキャンは、1959年(昭和34年)、ビクターの発明であった。なお、低域変換カラーの漏話除去の技術はソニーの特許であった。

VHSでは、精密なヘッドブロックの供給を受ければ、本体はカセットデッキの組み立て精度があれば生産できる事を、開発の絶対条件としたころから、多数のメーカーが参入しやすかった。

ベータ方式は、機械構造はUマチックのスケールダウンとし、クロームテープ使用による性能向上、クロスカラー低減アジマス損失記録が基本技術であったが、VHS方式は小型化が可能なパラレルローディングと、酸化鉄テープ使用が大きな相違点であった。これにより、大幅な小型軽量化と、テープ価格も低廉に抑えられた。またベータの交流1モーターの重く時代遅れのメカニズムに対し、VHSは小型DCサーボモーターを使用、硬いクロームテープを使うベータ方式は、ヘッド寿命が短いといったデメリットも存在した。

開発メーカーのビクターにおいては、ノイズの出ないスロー、スチル製品が初期から販売され、三菱電機の協力による正逆高速サーチが加わり、特殊再生において優位性があった。ドロップアウト補正でも、VHSは先行した。

ベータ方式に比べ部品数が少なく、精密な調整箇所も少なかったため、各メーカーの参入が容易で量産や低価格化がしやすかったこと[注 5]。小型軽量化が容易であり、ポータブルビデオ市場で、多数のメーカーが自社で生産を行ったが、ベータでは、アイワなどソニー系のメーカーが製品化したことはあったが、大半はソニーのOEMに留まった。

基本規格の録画時間が長く、長時間モードも含めて有利だった[注 6]監視カメラなどのタイムラプスビデオ市場においては、基本設計に余裕のある、テープ長の長いVHS方式の独壇場で、ベータは勝負にならなかった。

ベータ陣営がVHS陣営に先駆けて投入したPIカラー方式、アジマス記録の各技術が、消費者にとって決定的な差別化とならなかったこと。性能重視が裏目に出たケースも存在した[注 7]。ベータHiFi移行、ベータ方式は初期のテープとの互換性がなくなったが、VHSは最後まで互換性を維持した。

ベータはテープの表示を長さ(フィート)で表したために録画可能時間が分かりにくい、記録フォーマットやノイズリダクションシステムによっては再生対応機種が限られる[注 8]など、煩雑・難解な要素が存在し、普及期に混乱を招いた。一方VHSはS-VHS発売においても、酸化鉄テープを踏襲したことから、テープは下位互換という形で、S-VHSテープでVHS記録も可能であり、価格も低廉であった。


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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