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これは20世紀になってエルヴィン・パノフスキーによってはじめて解決されたものである。ジョットは作品「大祭司カヤファの前のイエス[5]」ではじめて自らの透視図法を利用した。それは現代の画法幾何学と同じものではないが相応の奥行き感を表しており西洋絵画における大きな前進であった。ジョットの透視図法は精密の度を増してゆき(「礼拝堂の眺め[6][7]」)[8]、また、ジョットを承けたアンブロージョ・ロレンツェッティは、遠ざかる平行線を一点で消失するように描いている(「聖告[9]」)[10]

遠くにあるものが小さく描かれる、あるいは、描き手から遠ざかる平行線が互いに近づくといった表現は、イタリア以外の地域でも認められる(ロベルト・カンピンメロードの祭壇画」、ヤン・ファン・エイクアルノルフィーニ夫妻像」「ルッカの聖母[11])。初期フランドル派の作品はイタリアへと輸出され、フィレンツェのルネサンス遠近法に影響を与えた。
数学的な基礎

ジョットから100年後の1400年代初め、建築家ブルネレスキは鏡面にフィレンツェ建築の輪郭を写し取り、遠近法を幾何学的な手法で実証することに成功した。かれはあらゆる建築物の輪郭が、すべて地平線に集約されることに気付いた。そこで彼はサンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂の、当時未完成であったサン・ジョバンニ洗礼堂を正確な透視図法で描写し、洗礼堂入り口に面してその絵画を置き、相対する位置に鏡を設置した。絵画には小穴が開けられており、絵画の裏からその小穴を覗くと正面の鏡に「未完成であるはずの」洗礼堂内部が映し出されたという。それは本物と見まがうばかりであった。

そのあとすぐフィレンツェのあらゆる画家は幾何学的な透視図法を利用し始めた。中でもドナテッロが「キリストの誕生」で描いた、厩舎のチェック模様の床は特筆されるものである。それは厳密には正確さを欠いていたが、幾何学的な透視図法の基本原則に沿って描かれたものであった。直線はすべて消失点へと収束し、距離によって狭まる直線幅は正確な描画が行われていた。この手法は15世紀西洋美術において不可欠なテクニックとなった。遠近法によって、それまでバラバラな要素の組み合わせだった絵画が、一つの統一された場面を表現できるようになった。

実作としては、ギベルティの彫刻レリーフ1425年 - )やマザッチョの描いた絵画(1426年 - )が最も早いものである。透視法によって三次元の世界を二次元の世界に移しながら、奥行きのある表現が可能になった。

フィレンツェでは遠近法を利用した芸術が急速に開花し、ブルネレスキなどその数学的理論を理解する画家もいたが、それをおおっぴらにすることはなかった。彼は友人に数学者のトスカネッリがおり、それも数学の理解の一助になったと思われる。数十年後ブルネレスキの友人であり人文学者のアルベルティは透視図法の詳細な論文『絵画論』(1435年)を書いている。この論文の最大の功績は円錐図法の小難しい数式を示すことではなく、投影面とそこを通過する光点の道筋を公式化・理論化したことだった。かれは2つの相似三角形と昔ながらのユークリッド幾何学を用いて、投影面への座標を算出することが出来ることを示した。

1474年ピエロ・デラ・フランチェスカはその著作で視野内の全ての物体に遠近法を適用する手法を示した。アルベルティの数学的な解説をよりわかりやすく、図入りで解説したのも彼の著作が最初である。

フィレンツェで発見された遠近法の原理はしばらくこの地を出ることが無く、イタリアで起こっているこの大発見が他の国の画家にも広まるのはもう少し後になる。
レオナルド・ダ・ヴィンチ

ブルネレスキの透視図法は、視点に非常に近い対象に対する考慮がされていなかったため、ダ・ヴィンチは自ら光線の軌道を厳密に計算し直し、より正確なものを構築した。それだけでなくダ・ヴィンチは新たな発見もした。幾何学的な透視図法に「遠くのものは色が変化し、境界がぼやける」という空気遠近法の概念を組み合わせたのだ。彼は遠近法の理解が芸術にとって非常に重要であることを悟り、「実践は強固な理論のもとでのみ構築される。遠近法こそその道標であり、入り口でもある。遠近法無しではこと絵画に関して期待できるものは何もない」と述べている。

ただし、彼の遠近法は正しいものと比較すると、パースが強く設定されており、誤りがある。
ルネサンスの前後での遠近法の変化

東京芸術大学名誉教授である辻茂は自著「遠近法の発見」のなかで、ルネサンス以前の距離点がない透視図法を「天使の遠近法」、ルネサンス以降の距離点がある透視図法を「地上の遠近法」と名付けている[10]
さまざまな図法

遠近法を用いた透視図は以下の方法(図法)で描ける。

手書きでスケッチする(美術において)

点透視図法

透視図用の格子状用紙(グリッド)を利用

透視投影演算(例: 3次元コンピュータグラフィックス

比例コンパス(バリスケーラーとも)などのツールを使用

点透視図法

点透視図法(point-projection perspective)は消失点へ平行線を収束させることで遠近感を生む手法である。透視平面(視点の前に置かれた架空のキャンバス)と角度を持つ直線(面と平行でない直線)は奥行きをもつため、透視図へ射影した際に消失点へ収束する。


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