パロディ
[Wikipedia|▼Menu]
□記事を途中から表示しています
[最初から表示]

ただし第30A条の新設以前から、一般的な著作権侵害で提訴された被告がパロディを主張して抗弁するケースは存在していた[7]
楽曲の歌詞パロディに関する判決
音楽パロディのリーディングケースとしては、1960年の高等法院女王座部(QB)判決「ジョイ・ミュージック対サンデー・ピクトリアル紙裁判」(Joy Music Ltd v Sunday Pictorial Newspapers [1960] 2QB 60 (QB)) がある[136][137][7]。女王エリザベス2世の夫エディンバラ公爵フィリップの行動を揶揄する内容が週刊新聞『サンデー・ピクトリアル』(現: サンデー・ミラー、タブロイド紙『デイリー・ミラー』の姉妹紙) に掲載されたが、この記事には楽曲 "Rock-a-Billy" の歌詞をもじって "Rock-a-Philip, Rock-a-Philip, Rock-a-Philip, Rock のフレーズが書かれていた。このケースでのもじりは実質的部分の複製ではないと判定され、著作権侵害の訴えは退けられた[136][137]:412。
楽曲のメロディに関する判決
また、1987年の高等法院大法官部 (Ch) 判決「ウィリアムソン・ミュージック対ピアソン・パートナーシップ裁判」(Williamson Music v Pearson Partnership [1987] FSR 97 (Ch)) では、ミュージカルの楽曲が替え歌としてテレビCMに流された事案である[137]:410[138]。本件では著作権法の重要な法理であるアイディア・表現二分論に則り、原曲からアイディアを得てパロディストが全く別の形で表現したならば、別個の著作物であると判示された。また、著作権侵害に該当しないパロディだと認めるには、作品に批判や評論といった言語要素が必要であるとされた[137]:410。1960年の "Rock-a-Billy 判決とは異なり、本件でパロディ化されたのは歌詞ではなくメロディであったことから、これらの要件を満たさないとして著作権侵害判定となった[137]:410[138]
商品ラベルに関する判決
音楽以外では、1984年の高等法院大法官部判決「シュウェップス対ウェリントン裁判」(Schweppes Ltd v Wellingtons Ltd [1984] FSR 210 (Ch))がある。シュウェップス社は同名の瓶入り炭酸水ブランドを販売しており、商品ラベルの "SCHWEPPES" の綴りが被告ウェリントン社によって "SCHLURPPES に置き換わって商品販売されたことから、ラベルのデザイン模倣が著作権侵害に当たるかが問われた事件である[137]:412[139]。なお、ウェリントン社製もシュウェップスに似た瓶にラベルが貼られていたが、中身は飲料ではなく炭酸入りのバブルバス(炭酸の入浴剤とソープが合わさった商品)であり、元ネタとパロディでは対象とするビジネス市場が大きく異なる[137]:412。しかしながら市場の競合性は勘案されず、 "Rock-a-Billy の判決で示された「実質的部分の複製」の論点から著作権侵害の判定となった[139]
日本法

歴史的にみると、日本でも江戸時代の狂歌や[19]、戦争中の軍歌の替え歌パロディなど[140]、パロディ創作は古くから行われていた。そして高度経済成長期 (1960年から1973年頃[141]) に入ると著作物の模倣が横行した[142]。その反動で著作者側の権利保護意識が極度に高まったことが、日本でのパロディ創作を困難にした要因であるとの指摘もある[142]

また商標法についても、日本ではパロディ許容が消極的であり、パロディ商標は出願されても実際には登録却下される事例が多いと言われている[85]。パロディ商標が認められなかった一例については「面白い恋人#販売差止訴訟」を参照

日本の著作権法上でパロディの取扱規定が存在しない問題は、少なくとも2007年(平成19年)ごろには公的に議論されるようになり[143][144]、引用の要件を定めた第32条にパロディを加える案や、米国のフェアユースに類似する一般規定を設ける案などが検討されたものの、判例数の少ない日本における法改正は困難との見通しも示されている[144]

2012年 (平成24年) には著作権を管轄する文化庁の下、法制問題小委員会にパロディワーキンググループが設置され[85]、インターネット上で共有される二次創作などを念頭に、パロディ目的の利用緩和に向けた法改正が協議されることとなった[145]。すでに2007年 - 2008年のワーキンググループ調査報告書では、パロディが共有されるプラットフォームとしてYouTubeニコニコ動画といったサービス名が挙げられており、具体的な法整備の必要性が議論された[144]。しかしながら2020年時点で、パロディに関する著作権法の改正は実現に至っていない。

このような情勢下で、日本の著作権法が唯一寛容なのが、コミックマーケットを代表とする同人誌即売会などで行われる同人誌販売である。あくまで同好者たちの私的な二次創作活動であると捉えられ、漫画やアニメの無許諾模倣が黙認されてきた経緯がある[142]

漫画業界を例にとると、商業的にパロディ要素が出始めたのは高度経済成長期の 1960年代に入ってからである。1960年代初頭に米国のパロディコミック雑誌『MAD』が日本でも紹介されるようになり、続いて1968年には『漫画アクション』誌にダディ・グース(後の矢作俊彦)のパロディ作品が、同年に『COM』誌上に永井豪のパロディ作品が登場している。部分的なパロディ要素ではなく、作品全体がパロディと呼べる日本の漫画は、これらが初出と考えられている[146]。同時期の1960年代初頭から1970年代初頭には、プロの漫画家を夢見る者たちによる同人誌コミュニティが全国的に広がりを見せた[147]。パロディは元ネタを知らないと楽しめない性質であることから、同人誌のような「内輪受けコミュニティ」とパロディに親和性があったとの分析もある[148]

しかし内容を問題視した原作者から名誉毀損で訴えられることもあった[149]。また1990年代後半から2000年代にかけては、ときめきメモリアル・アダルトアニメ映画化事件ポケットモンスター同人誌事件ドラえもん最終話同人誌問題など、二次創作物が広範に流通するようになったことでの紛争も起きている[150]

2018年末には環太平洋パートナーシップ協定 (TPP) 発効に合わせて著作権法が改正されており、著作権侵害が非親告罪化したが、この対象からはコミックマーケットが明示的に除外されることとなった[151]:53[142]。これは原著作物と市場で競合するおそれがないこと[151]:53、また二次創作は「日本の文化創造のゆりかご[142]」とも形容され、非親告罪化の対象に含めることで文化発展の萎縮を招きかねないとの政治的判断に基づく[151]:53。またコミケ経由だけでなく、漫画のパロディをブログに投稿する行為も原著作物からの改変が施されていることから、非親告罪の対象外だと解されている[152]。「日本の著作権法における非親告罪化」も参照

2020年5月には、東京オリンピックのエンブレムと、世界的に流行した新型コロナウイルス (SARS-CoV-2) を掛け合わせたパロディが批判にさらされた。


次ページ
記事の検索
おまかせリスト
▼オプションを表示
ブックマーク登録
mixiチェック!
Twitterに投稿
オプション/リンク一覧
話題のニュース
列車運行情報
暇つぶしWikipedia

Size:195 KB
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
担当:undef