パロディ
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しかしながらこの指令の条項を導入 (国内法化) するかはEU加盟各国に委ねられていることから、国によってパロディの法的取り扱い状況は異なる[7]

著作権侵害を事由とした訴訟は、基本的には各国の裁判所で審理されるが、一部の訴訟は欧州司法裁判所 (CJEU) に意見照会されることがある。以下、各国の法整備の状況と代表的なパロディ判例について述べる。
欧州司法裁判所 (CJEU) 判決

画像外部リンク
原告ヴァンダースティーンの原画 - 欧州司法裁判所提出資料より[127]
パロディ関連ではデックメイン対ヴァンダースティーン裁判(英語版) (Deckmyn v Vandersteen, Case: C-201/13, 2014年CJEU判決) が知られている[128]。本件では原著作物の著作権者側の権利と、パロディ利用する側の表現の自由の間でいかにバランスを取るべきかが問われた[129]ベルギー右派ポピュリズム政党フラームス・ベランフ[注 16]に所属する政治家ヨーハン・デックメイン(オランダ語版)は2011年、新年の祝賀会でカレンダーを参加者に配布したが、この表紙に使われた絵画がヴァンダースティーンの描いた作品に類似しているとして、著作権侵害でデックメインと政党後援会組織がベルギーの裁判所に提訴された。ヴァンダースティーンの作品は元々、コミック本『Suske en Wiske(英語版、オランダ語版)』に登場するキャラクターの一人を表紙に描いたものであり、白色のチュニックをまとって空中からコインをばら撒いている構図である。この表紙絵は "De Wilde Weldoener (「強制的な恩恵を施す者」の意) と題された[127][128]。一方カレンダーの表紙は、キャラクターがヘント市の市長ダニエル・トゥルモント(英語版) (左派政党のフラマン系社会党)に差し替えられており、コインを集めようとする周囲の民衆はイスラム教の女性が肌を隠すために被るブルカ (ベール) を身にまとい、有色人種に置き換えられる差別的な内容であった[127][128]。第一審裁判所(英語版) (Rechtbank van Eerste Aanleg) は著作権侵害を認めて5,000ユーロの損害賠償を命じたが[注 17]、被告が控訴している。二審の控訴裁(英語版)(Hof van beroep)もベルギー著作権法で定められたパロディの例外規定の要件を満たさないとして棄却しつつ、CJEUに意見照会を求めた[127]。CJEUが挙げたパロディの要件は「パロディ作品を見て原著作物を想起できる必要があると同時に、これら2つの作品は別物だと識別されなければならない」、「ユーモアや嘲笑の要素が必要」であるとした。加えて、必ずしも著作権法上固有の意味を持つ「創作性」(originality)はパロディの場合には求められないとして、原著作物と同じキャラクターを再利用することは法的に問題ないとした。差別的なメッセージを含んでいる点については、ベルギー国内裁判所に判断を委ねた[129]
フランス法パロディに関するフランス著作権法上の規定Lorsque l'oeuvre a ete divulguee, l'auteur ne peut interdire:
4° La parodie, le pastiche et la caricature, compte tenu des lois du genre ;
(日本語訳)著作物が公表された場合には、著作者は、次の各号に掲げることを禁止することはできない。
(4) パロディ、模作及び風刺画。ただし、当該分野のきまりを考慮する。“”知的財産法典
(フランス語版)第1部 (著作権法) 第2章: 著作者の権利、第2節: 財産的権利、第122条の5 原文[130]および著作権情報センター (CRIC)による日本語訳[131]

著作権保護の水準が高く、特に著作者人格権が手厚く尊重されているフランスでは、EU指令でパロディ、カリカチュアおよびパスティーシュの例外規定が追加される以前より、フランス著作権法で個別規定を設けて運用してきた[7]。しかしCJEUの2014年「デックメイン判決」の前後で、パロディの定義や法的保護の要件解釈が異なっている点に注意が必要である。デックメイン判決以前は音楽パロディ、言語著作物のパスティーシュ、人物画のカリカチュアでフランスの裁判所は分類していた。またディックメイン判決でCJEUはユーモアの要素をパロディに求めているが、当判決以前のフランスではユーモアは必須でないとし、逆に原著作者の人格を傷つけるようなパロディであってはならないと定義していた。また「混同」の観点が取り入れられており、パロディの商用利用は問題ないものの、原著作物と市場で競合するような宣伝目的は禁じられていた[7]
漫画『タンタンの冒険』シリーズのパロディに関する判決
デックメイン判決以前のフランスにおけるパロディのリーディングケースが SAS Arconsil v Moulinsart SA (パリ控訴裁 2011年2月18日判決、no 09/19272) である[7]2011年に漫画タンタンの冒険シリーズの原作者が、『タンタンチベットをゆく』のパロディ小説『サン・タン絞首台に行く』を海賊版としてパロディ作家ゴルドン・ゾーラ(フランス語版)を訴えた事件では、パリ控訴院は「主観的要因(ユーモアの意図)」「客観的要因(混同のおそれの有無)」の要件を満たしており、「当該分野の決まり」を守らなかったという証拠が確立していないことから『サン・タン絞首台に行く』はパロディ小説であると認め、少部数で商業的な影響も少ないことから著作者・出版社の権利を不当に侵害していないと決定した[132]
歌手の物まねパロディに関する判決
また、歌手の物まねが合法的なパロディだと判示された1988年の破毀院(フランス最高裁)判決 (Cour de Cassation, 1st Civil chamber 1, 12 janv. 1988, prec (n. 11)) も存在する。シャンソン歌手シャルル・トレネの『優しきフランス(フランス語版)』(Douce France) が、Thierry Le Luronによって物まねされ、『優しいトランス』(忘我の境地の意、Douces Transes)にもじられた。声音も真似ており、トレネがアカデミー・フランセーズ会員選出のために費やした無駄な労力を揶揄した。破毀院は無礼な嘲笑は法的に禁じられておらず、むしろ元ネタから改変されていることから、受け手側が2つの作品を混同するおそれがないとして、著作権侵害の訴えを退けている[133]
2014年CJEU判決に影響を受けたフランスの判決
デックメイン判決以降では、2015年の破毀院判決(Cour de Cassation, 1st Civil chamber 1, 15 May 2015, 13-27.391)がある。本件はファッション写真家 A Malka(一部伏字)の作品を無断で芸術家 Peter K(一部伏字)が複製したことが問題となった。しかし A Malka の原著作物は過剰広告と過剰消費を象徴していることから、Peter K は自身の作品を通じて A Malka の作品の価値を貶め、見る者たちに問題喚起する目的だと主張した。破毀院はフランス著作権法 第122条の5 (4) だけでなく、EUの情報社会指令 第10条を考慮して A Malka の著作者人格権と、パロディ創作者 Peter K の表現の自由の間でバランスをとる必要性を説き、二審の控訴裁に差し戻した[7]
イギリス法

2020年1月31日にEUを正式離脱したイギリスであるが[134]、離脱以前の2014年10月にイギリスは現行著作権法である1988年著作権、意匠及び特許法(英語版) (Copyright, Designs and Patents Act 1988、略称: CDPA) を改正し、第30A条でカリカチュア、パロディ、パスティーシュの3点を著作権侵害の例外 (フェアディーリング(英語版)) に追加したことで、EUの2001年情報社会指令の規定に沿った形となった[7][135]。ただし第30A条の新設以前から、一般的な著作権侵害で提訴された被告がパロディを主張して抗弁するケースは存在していた[7]
楽曲の歌詞パロディに関する判決
音楽パロディのリーディングケースとしては、1960年の高等法院女王座部(QB)判決「ジョイ・ミュージック対サンデー・ピクトリアル紙裁判」(Joy Music Ltd v Sunday Pictorial Newspapers [1960] 2QB 60 (QB)) がある[136][137][7]。女王エリザベス2世の夫エディンバラ公爵フィリップの行動を揶揄する内容が週刊新聞『サンデー・ピクトリアル』(現: サンデー・ミラー、タブロイド紙『デイリー・ミラー』の姉妹紙) に掲載されたが、この記事には楽曲 "Rock-a-Billy" の歌詞をもじって "Rock-a-Philip, Rock-a-Philip, Rock-a-Philip, Rock のフレーズが書かれていた。このケースでのもじりは実質的部分の複製ではないと判定され、著作権侵害の訴えは退けられた[136][137]:412。
楽曲のメロディに関する判決
また、1987年の高等法院大法官部 (Ch) 判決「ウィリアムソン・ミュージック対ピアソン・パートナーシップ裁判」(Williamson Music v Pearson Partnership [1987] FSR 97 (Ch)) では、ミュージカルの楽曲が替え歌としてテレビCMに流された事案である[137]:410[138]。本件では著作権法の重要な法理であるアイディア・表現二分論に則り、原曲からアイディアを得てパロディストが全く別の形で表現したならば、別個の著作物であると判示された。また、著作権侵害に該当しないパロディだと認めるには、作品に批判や評論といった言語要素が必要であるとされた[137]:410。


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