パロディ
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つまり、パロディが元ネタとなった 作品 に対する批評・コメントであるのに対し、風刺が向く矛先は元ネタ作品そのものではなく 社会 である。このような違いから、風刺は必ずしも他の作品に依拠せずに成立しうる。そして、社会を批判する目的で他者の作品を踏み台に利用していることから、パロディと比べて風刺は著作権侵害の判定を受けやすいとも言われている(米国の場合)[28][29][30]
モンタージュとの違い
モンタージュ: montage、組み立ての意)とは、映像(とりわけ映画)の世界では複数の映像カットを組み合わせ、何らかの意味を持たせて一つの作品に仕上げる手法を指す[31]。また、モンタージュ写真(あるいはフォト・モンタージュ)と言えば、複数の写真の中からそれぞれ一部を切り取って合成する手法であり、事件捜査現場では指名手配犯の合成写真作成のことを指す場合もある[32]。これに関連して、フォト・モンタージュ技法を用いた作品がパロディなのか著作権侵害なのかが問われた日本の1980年最高裁判決「パロディ・モンタージュ写真事件」が知られている(#パロディに対する法的取り扱いで後述)。本件では引用の要件についても法的に検討された[33][34][35]。文学の世界では、前述のトーマス・マンが自身の執筆手法を「モンタージュ技法」と呼んでいる。過去の様々な文芸作品から一部分を引用(無断で剽窃)してきて、自作に溶け込ませる手法である[15]:655。マン流のモンタージュ技法は「どこかから取ってきたとは普通読む方は気づかない」ことを特徴としており[15]:655、パロディのようにどこから取ってきたのか意図的に明確にした上で模倣する手法[11]とは異なる。
カリカチュア、パスティーシュとの違い


カリカチュアの例。風刺雑誌に掲載されたダーウィンの顔とオランウータンの体 (1871年作)1869年のダーウィン(ジュリア・マーガレット・キャメロン撮影)
カリカチュア (caricature) とは、特に人を描く際に特徴の一部を誇張して、滑稽さやコミカルさを表現する手法と定義される。模しているという意味ではパロディと共通するが、カリカチュアには写実性がかけ、馬鹿馬鹿しいほどに貧弱な模倣だとされる[36]パスティーシュ (pastiche) はカリカチュアのように人物にフォーカスすることはなく、広く芸術作品や芸術家、あるいは時代を何らかのスタイルで模倣する行為を指す[36]。また、パロディのような皮肉の要素はパスティーシュには含まれない違いがある[37]欧州連合 (EU) の著作権法の一部である2001年情報社会指令 (2001/29/EC) 上では、著作権侵害の例外としてカリカチュア、パロディ、パスティーシュの3つが同列で扱われていることから、別々の概念として認識されている[7]。またイギリス知的財産庁 (UKIPO) が2014年に発行した著作権法の公式ガイダンス文書によると、パロディはユーモアないし風刺を効かせていること、そして模倣しているものの元ネタから大きく改変されていることを要件として挙げている。パスティーシュは様々な作品から組み合わせて作風や時代の特徴を取り入れているものを指し、特に音楽著作物がこれに該当する。カリカチュアは政治目的と娯楽目的、侮辱と称賛のいずれもありうるが、描く対象を簡略化ないし誇張する手法に特徴がある[38]
ミームとの違い
ミーム(meme)とは、ある文化・社会においてアイディア、行動、スタイル、用法が人から人へと伝達される現象である[39]。おもしろ画像・動画などがミームの例として挙げられ[39]、とりわけソーシャルメディア(SNS)などのインターネットを介して拡散する場合をインターネット・ミームと呼ぶ[40]。ミームは進化生物学者リチャード・ドーキンズの造語であり[注 2]、ドーキンズの文脈に沿うと、ミームは模倣ないしパロディ要素が必要とされ、元ネタを使っている様が明確でなければならないとされていることから[40]、ミームとパロディには共通項が多い。ただしミームとは模倣された作品そのものを指す用語ではなく、模倣する社会的プロセスであるとされる。さらにインターネット・ミームは、あるミームが別のミーム (派生作品) を次々と生み出していく社会連鎖を特徴としている[40]。EUではパロディに次いでインターネット・ミームも、2019年に成立したDSM著作権指令(Directive (EU) 2019/790)によって著作権侵害の例外に指定されることとなった[43][44]
バーレスクとの違い
バーレスク(burlesque)は「馬鹿げた・奇妙なパロディ」(grotesque parody)と定義されることもある[13]:202。バーレスクの意味は時代と共に変遷しているが、17世紀から18世紀にかけてのイギリスでは、文学や演劇、音楽作品などを風刺したパロディを指した。特に演劇ではまじめな題材や有名人を茶化したり滑稽化する大衆向けの見世物である[45]。しかし時代が下がると、次第に批判や風刺の要素は薄れ、特に米国ではストリップショーの要素が加わった[45]
起源パロディの古典作品『蛙鼠合戦』をイメージした挿絵 (Louis Joseph Trimolet作、1841年)。

古代ギリシャ語でパロディは ?αροδια と記され、?αρα と οδο? に分解できる[18]。前半部分の ?αρα には「歌うこと」の意味が含まれており、具体的には韻文の詩を元来は指していた[46]。その後に散文もこの用語の範疇として含まれるようになった[46]。また後半部分の οδο? には、アイディアに対する共感・類似性、あるいは糾弾、反論や見解の相違を表現するとの意味もあった[46]。したがってこれらを複合すると当時のパロディは、歌唱あるいは作曲されるものであり、元となった作品と何らかの差異が認められるものを指していたと考えられる[46]。そして一般庶民は、原作よりもくだけた対象やシチュエーションでこのようなパロディの手法を用いた[46]。ただし、現代の意味するところのパロディとニュアンスは異なり、古代では必ずしも過去の偉大な作品を嘲笑する目的に限られるものではなかった[47]。以下、具体的な作品例を見ていく。

紀元前5世紀に活躍したエウリピデスはギリシャ三大悲劇詩人の一人と評されるが[48]喜劇も手掛けており、『キュクロプス』は完全な形で現存する唯一のサテュロス劇とされる[49]サテュロスとはギリシャ神話に登場する半獣半人であり、陽気で酒飲みの好色キャラクターとして描かれている[50]。このサテュロスが登場する喜劇がサテュロス劇であり、下品な下ネタなどが使われている[49]。しかし『キュクロプス』と比較対象となる他者の元作品が物理的に確認不可能なことから、『キュクロプス』を何らかのパロディと呼ぶべきか判定困難だとされている[51]。また、紀元前5世紀 - 4世紀のギリシャ喜劇詩人アリストパネスはパロディ作品を生み出したことで一般的に知られ[52]、先述のエウリピデス (生誕はアリストパネスより30年ほど前の人物)[48]の作品を下敷きにしていると言われるが、この見解については異論も出ており、アリストパネスをパロディ作家と呼べるか断定できていない[53]


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