パプリカ_(アニメ映画)
[Wikipedia|▼Menu]
□記事を途中から表示しています
[最初から表示]

また今が画面を作るときに実景を引き写す(トレースする)ことはほとんどなく、画面にはリアリティより「それらしさ=抽象性」の方を強く求めていた[22]。つまり、観客が「本物みたいだ」と感じるリアリティに溢れた画面が、それを描かせた今自身にとっては「単なる絵」であり、アニメだからこそ現実と虚構の2つを区別するものは、表現の水準では本質的に存在しないのである[22]。このギャップこそが今敏作品を支えている仕掛けを生んでいる[22]。『パプリカ』の場合も「夢」と「現実」がともに「描かれた現実」であることには変わりがない[22]。しかし本作が他の今作品と異なるのは、「夢」と「現実」が地続きではなく、それぞれが相手の存在に変容していくというより混淆の度合いが深い関係性にあるという点である[22]。「描かれた現実」の根底の部分にある「物質性」に手を加えることで、「夢」は「現実」に、「現実」は「夢」へと変容する[22]。作中では「夢」は「夢を見ている人間の無意識な欲望を反映し歪んだ現実」として表現されており、その絵のレベルで歪みを加えてやると「現実」は「夢」に、歪みを補正してやると「夢」は「現実」に変容するという仕掛けになっている[22]。卓越した画力によって「絵であることを忘れさせるようなリアリスティックな絵」をまず一旦「現実だ」と思わせておいてから、「実はこれは絵でした(虚構)」という形で現実と虚構と同じ位置に並べるというのが今敏作品における「虚構と現実」の関係であり、アニメならではのイリュージョンなのである[22]

この映画において、今がテーマの中核として位置づけていたのが物事の「二面性」や「多面性」、「対照性」、そしてそれらの「バランス」であり、当初から意図して映画に組み込んでいる[12]。たとえば、顕著な二面性が見られるのはヒロイン千葉敦子とパプリカで、この二人は同一人物内の異なる人格を具体化した登場人物だが、監督としては二人を異なる人物と見なして演出していた。その方が、ある人間の内面における葛藤や対立をより明快に描けると考えたからである[12]。敦子・パプリカの関係は同一人物内の対照性と二面性だが、他のキャラクターたちの性格設定や人物配置も同様の考え方に従っている[12]。このように、今は『パプリカ』では基本的なコンセプトとして「対」という考え方をとても大事にしていた[12]

今は、『パプリカ』で制作の結果として創造面の自由を感じたわけではなく、むしろまったく逆で、創造面での自由を獲得するために『パプリカ』を映画化しようとした[12]。それ以前に監督した映画は、すべてが「現実的な枠組み」の中であっても、見方を少しシフトすることで現実とは異なる大きなファンタジーが生まれてくる、という考え方で制作していた[12]。しかし、現実的な枠組みで映画の世界観を構築し続けていると、どうしても自分の描けるものが限定されてくる。技術的にはもっと色々なことを描写することは可能であるにもかかわらず、アイディアそのものが限定されれば技術の使いようもない。こうしたディレンマもあり、自分の想像力を拡張するために選んだ企画が『パプリカ』だった[12]

映画で描かれた精神病患者が見る特殊な悪夢のパレードは原作にはなく、すべて今が考えたものである[10]。時間的な制限も大きい映画において、原作のように色々な夢をさまざまな形で描くということは難しく、映画全編を通じて柱となるような夢、特にそれが出てくると一目で悪夢と伝わるような夢のイメージを中心に据えることにした[1]。それが無生物たちによるパレードだった[10][1]。パレードのシーンは、音楽を担当している平沢進と2人3脚で作り上げた[23]。今曰く、「平沢さんの音楽から、映像が生まれてくる感じですね。私にとって音はすごく大切。音半分、映像半分。それが合わさって100ではなく、150にも200にもなっていくと思っています」[23]
反響

映画批評サイトRotten Tomatoesでは批評家から84%、観客から87%の肯定的評価を得ている[24]

2008年の米国ニューズウィーク誌日本版が選んだ歴代映画ベスト100には『パプリカ』(2006)が、日本アニメから唯一選ばれた[25]

世界最古の映画機関の一つである英国映画協会(BFI)が選択した、「1925年から2020年までの年代別傑作日本映画」にて選ばれた数少ないアニメ作品の中で、1988年度の『AKIRA』や2001年度の『千と千尋の神隠し』などと共に、2006年度の傑作日本映画として選ばれている[26]

ハリウッド・リポーター選出の大人向けアニメ映画のベスト10において8位にランクインした[27]

クリストファー・ノーラン監督脚本製作による2010年アメリカ映画インセプション』にインスピレーションを与えたと言われる[2][26]


次ページ
記事の検索
おまかせリスト
▼オプションを表示
ブックマーク登録
mixiチェック!
Twitterに投稿
オプション/リンク一覧
話題のニュース
列車運行情報
暇つぶしWikipedia

Size:97 KB
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
担当:undef