当時のデル・トロが取り組んでいたのは、ハワード・フィリップス・ラヴクラフトの幻想的怪奇小説『狂気の山脈にて』の映画化で、2006年に企画を立ち上げ、監督として2011年6月付で取り掛かる予定にあった[17]。製作会社はユニバーサル・スタジオ、プロデュースはジェームズ・キャメロン、主演はトム・クルーズという形で契約されていた[19][17]。しかし、原作どおりではR指定を避けられず、しかも製作費は1億5000万ドルに上ることが判明する[17]。資金は十分にあったが、製作費1億5000万ドルのR指定映画など興行的に考えられないため、プロジェクトは暗礁に乗り上げてしまった[17]。作るのかやめるのか、はたまた延期するのかと、企画会議は揉めに揉めて、いつまで経っても結論が出ない[17]。それでもデル・トロが妥協しなかったのは最終的には企画が通ると見込んでいたからであるが、運命の当日、2013年3月4日金曜日、予想に反してユニバーサル・スタジオから同プロジェクトを停止する旨の連絡が入ってしまった[17]。
『狂気の山脈にて』の映画化に全力を投じていたデル・トロの落胆ぶりは酷いものであったが、彼の手が空いたことを聞きつけたレジェンダリー・ピクチャーズの重役達は早くも明くる5日土曜日に動き[17]、デル・トロに『パシフィック・リム』の監督就任を依頼している[17]。睡眠時間を削りながら何年も身を粉にして準備してきた映画が駄目になったばかりのデル・トロはそれどころではなかったが、企画書を読み込むうち、なかなかどうして面白いと考えるようになり、本人の言うには[17]「死にたくなるような落ち込み半分、盛り上がり半分で、大変落ち着かない土曜日曜を過ごした」後、週明け3月7日月曜日の朝には先方に赴いて契約を交わしていた[17]。短い週末のうちの製作意欲を切り替えられたのは、映画『狂気の山脈にて』のために想い描いてきたイメージの数々を『パシフィック・リム』でなら大いに実現させられると気付いたからであった[17]。
約1億9000万ドルという巨額が製作に継ぎ込まれた[20]。ハリウッド映画の歴代予算ランキングではせいぜい30位程度であるとは言え、ロボットSF実写映画としては破格であった[20]。 監督に就任してからのデル・トロは意欲満々で、スペイン人画家の名画『巨人』(■画像参照)をイメージソースとして提示したうえで「エンパイアステートビルディングより大きい、身長450メートル級の巨人と怪獣の“殴り合い”」を想定したが、ある程度の科学的リアリティとの両立は難しく、何度も修正が加えられて最終的に巨人(巨大ロボット)も怪獣も100メートル弱に落ち着いた[17]。 チャーリー・ハナムと菊地凛子が本作の主演を務めた。さらにトム・クルーズが重要な役割に検討されたが、結局、イドリス・エルバに代わった[21]。2011年11月17日、これまでデル・トロと何度も仕事をしたロン・パールマンがキャストに加わった[22]。
製作