バットマン:_キリングジョーク
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バットマンが偶然の悲劇から意味を生み出すために一生を捧げているのに対し、ジョーカーは人生における不条理とあらゆる偶然の不正義を体現する」[12]ジョーカーがゴードン本部長に苦痛を課すのは、どんな正常人でも自分の立場に置かれれば正気を失うのか、それとも狂人となる人間は初めから心の中にその種子を抱えていたのかを確かめるためである[13]。しかしジョーカーとは異なり、ゴードンは試練を乗り越えて正気と道徳的規範を保つ。

本作はまた、バットマンの暗い一面を掘り起こしてモダン・エイジ(英語版)のバットマン像に影響を与えたことでも知られている[14]。しかし単に暗いという以上に、本作ではバットマン自身の心理が深く掘り下げられている。すなわち、バットマンはジョーカーと方向性は異なるが同じ程度に狂っており、2人は互いにまったく異なる視点から世界を認識している。ジョーカーの視点はラストシーンのジョークで説明されている[15]

この物語のジョーカーは信頼できない語り手である。ジョーカー自身も過去について確信がなく、複数の相反する記憶を持っていると発言している(「思い出すたびに、ああだったり、こうだったり … 過去がなきゃいけないっていうなら、好きなやつを選ばせてもらうぜ!」)。これにより本作が「非情な都市暴力と道徳的虚無主義に呑まれていく世界」を描いていることが強調されている[16]
社会的評価
批評家の反応

1989年アイズナー賞では本作が最優秀グラフィックアルバム部門を、作者アラン・ムーアも最優秀作家賞を受賞した。ヒラリー・ゴールドスタインはIGNコミックスで『キリングジョーク』を称賛して「間違いなくジョーカー史上最高傑作」と呼び、「ムーアのリズミカルな会話文とボランドの有機的なアートは唯一無二の作品を生み出している。真似る者は多いが、追い付く者はいない」と評した[13]。IGNはバットマンを主役としたグラフィックノベルのランキングで本作を『ダークナイト・リターンズ』と『イヤーワン』に次ぐ第3位に挙げた[17]。ジェームズ・ドネリーはポップ・シンジケートで本作を「とにかく20世紀最高のコミックの1つ」と呼んだ[18]。ヴァン・ジェンセンはComicMixへの寄稿で「[本作を再読すると]いつも、アラン・ムーアとブライアン・ボランドのコンビがページに込めた激しさ、残忍さ、人間性に改めて感嘆する」と書いた[19]。コミック史家ロバート・グリーンバーガー(英語版)とマシュー・K・マニングは「ジョーカーの物語としてオールタイムの決定版」と評した[20]。マニングは「ゴッサム・シティの歴史でも最高に力強く、心をかき乱す物語」とも書いている[21]

セブ・パトリックはデン・オブ・ギークで本作にやや厳しい評価を下した。「これまでに書かれた「バットマン」の中でも特に礼賛されている影響力が強い作品であり、ジョーカーの物語の白眉といえる」と評する一方で、『ウォッチメン』『Vフォー・ヴェンデッタ』『リーグ・オブ・エクストラオーディナリー・ジェントルメン』のような真に優れたムーア作品の域には達していないという[22]
作者の反応

アラン・ムーアは後になって、本作をはじめとする自作がスーパーヒーロー・コミックに陰鬱な作風を流行させたことを後悔するようになった。本作のスクリプトそのものの自己評価も低く[10]、主題が浅薄だとみなしている[4]。2000年のインタビューでは、権力をテーマにした『ウォッチメン』や、ファシズムアナーキズムを扱った『Vフォー・ヴェンデッタ』と比較して「それほどいい作品だとは思わない。何も興味深いことを言っていない」と述べている[23]。これにはムーアとDC社の不和も影響を与えていると見られる[4]。2003年には次のように述べている。

『キリングジョーク』はバットマンとジョーカーの物語だ。実人生で出合うようなことはまったく出てこない。バットマンとジョーカーはこの世のどんな人間にも似ていない。だからこの本は人間について何も教えてくれない … ああ、私が思うにこの作品は不出来なのに過大評価されていて、ヒューマンな意味での重要性はまったくない。DC社が所有する、現実世界とは何の関係もないキャラクターの話でしかない[24]

2006年の『ウィザード(英語版)』誌に掲載されたインタビューで、ムーアはバーバラ・ゴードンを半身不随にしたことについても自己批判した。「DCに聞いたんだ。そのときバットガールだったバーバラ・ゴードンを不具にして構わないか。記憶が確かなら、相手は担当編集者だったレン・ウェインだった。彼はこう答えた。「ああいいよ、あのビッチを不具にしてやれ[† 7]」ここはDCが私の手綱を引くべきところだったと思う。でも彼らはそうしなかった」[25]


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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