バスク語
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バスク語と系統関係のあることが幅広く支持されている言語は、消滅したアクイタニア語だけである[11]

長期にわたって真剣に検討された仮説には以下のものがあるが、いずれもバスク語学者の支持を得ることはなく、反駁されている[12]
アフリカの言語、特にアフロ・アジア語族ベルベル語など)と同系である。

ヨーロッパ諸言語の基層語がバスク語である。

インド=ヨーロッパ語族である。

イベリア語がバスク語の祖先である。

コーカサス諸語と同系である。

アフリカの言語

アフリカの言語のうち、ベルベル語など北アフリカで話されているものとバスク語の系統関係を提案する説は19世紀後半から見られる。ガーベレンツ[13]シューハルト[14]に始まり、オーストリアの言語学者ムカロフスキー[15]が同系語を確定する試みを数点出版した。しかし、借用語・新語・存在しない語・幼児語・擬音語や、ベルベル語の一部でしか使われていない語を比較に用いる彼の手法は批判されており、この仮説を支持していないバスク語学者が多い[16]:361ff.。
ヨーロッパの基層語

バスク語をヨーロッパ諸言語の基層言語と関連づける考え方はフープシュミート[17]に見られる。彼は印欧語族以前のヨーロッパの言語としてヨーロッパ=アフリカ語族とヒスパニア=コーカサス語族を想定し、バスク語はその名残であるとしたが、内的再建によって明らかになったバスク語の音変化と整合しない部分があり、問題がある[18]。また近年ではフェネマン[19]がヨーロッパの河川名に基づいてバスク語をヨーロッパ諸言語の基層言語として提案した。(バスコン基層語説を参照。)これもフープシュミートに対する批判と同様の観点から退けるバスク語学者が多い。
イベリア語フンボルト

イベリア語は、イベリア半島東部・南東部を中心とした地域で使われていた言語で、紀元前6世紀から前1世紀にかけての金石文に記録が残っている。その大部分は独自のイベリア文字で書かれており、20世紀半ば、マヌエル・ゴメス=モレノ (Manuel Gomez-Moreno) によって初めて完全に解読された[16]:378, 380。

イベリア語とバスク語の系統関係を最初に明確に提案したのは、マヌエル・ララメンディ (Manuel Larramendi) である。彼は、1728年の La antiguedad y universalidad del Bascuenze en Espana で、イベリア語はバスク語の祖先であると主張した。この提案はパブロ・ペドロ・アスタルロア (Pablo Pedro Astarloa)、次いでヴィルヘルム・フォン・フンボルトに受け継がれた(Prufung der Untersuchungen uber die Urbewohner Hispaniens vermittelst der Vaskischen Sprache, 1821年[16]:379。

この時点では、イベリア語の解読はほとんど進んでいなかったので、バスク語とイベリア語の系統関係が具体的に検討されることはなかった。1893年にエミール・ヒュブナー (Emil Hubner) が既知のイベリア語文献を公刊したことで解読は少しずつ進み始めた。フーゴ・シューハルト1908年の Die iberische Deklination でイベリア語の格変化を再構成し、バスク語の格変化と比較し、対応関係を見出した。しかし、このシューハルトの主張はいくつかの理由から否定されている[16]:379f.。

20世紀前半にはゲルハルト・ベーア (Gerhard Bahr) がバスク語とイベリア語の系統関係を支持する証拠はほとんど無いという否定的な見解を示す一方、イベリア語の解読に精力的に取り組んだピオ・ベルトラン (Pio Beltran) はこの仮説を支持した。
コーカサス諸語

イベリア半島から遠く離れたカフカス山脈付近のカフカス諸語とバスク語と同語族を構成するという説がある[20]。古くコーカサスはギリシャローマ人より「イベリア」と呼ばれており、ここからスペインに移住した民族がバスク人の祖となり、イベリア半島の呼称もそこから来ているという説である。

さらに大規模には、シナ・チベット語族ブルシャスキー語デネ・エニセイ語族等も含めたデネ・コーカサス大語族仮説も存在する。
音素

母音 / a i u e o / と、二重母音 / ai ei oi ui au eu / は多くの方言に存在する。これらの二重母音は、音声上は母音連続と区別されないが、音韻上は常に一つの音節として振る舞う。消滅したエロンカリ方言には対応する五つの鼻母音があった。またスベロア方言にはこの他に円唇前舌狭母音 /y/ と対応する六つの鼻母音がある。鼻母音の二重母音は / au ?i ai oi / がエロンカリ方言に見られたが、スベロア方言には無い。

無気無声破裂音 / p t k / は全ての方言にある。これに加えて無声硬口蓋破裂音 [c] が、西部では /t/ の異音、東部では独立の音素として存在する。北部には有気無声破裂音 / p? t? k? / もある。

有声破裂音 / b d g / は全ての方言にある。音声上は対応する有声摩擦音や接近音となることが多い。有声硬口蓋破裂音 /?/ を持つ方言が少しだけある。鼻音 / m n ? / は全ての方言にある。

歴史的には全ての方言に3種類の無声摩擦音が存在する。無声舌端歯茎摩擦音 /s?/、無声舌尖歯茎摩擦音 /s?/、無声歯茎硬口蓋摩擦音 /?/ である。また、これらに対応する破擦音 /ts? ts? t?/ もある。フランス方言では /s? ts?/ は無声舌尖後部歯茎音 [?? t??] で発音される。/? t?/ はしばしば /? t?/ とも書かれる。西部では近年、舌尖/舌端の区別が失われている。この他に /f/ が多くの方言に見られる。ビスカヤ方言には有声舌端破裂音が、スベロア方言には有声舌尖破裂音が存在する。北部には /h/ もある。

ギプスコア方言やナファロア方言には次のような音素が見られる[21]

音素の一覧(ギプスコア方言・ナファロア方言)

子音唇音舌尖音舌端音前部舌背音後部舌背音
閉鎖音ptck
bd?g
鼻音mn?
摩擦音fs?s??x
破擦音ts?ts?t?
側面接近音l?
はじき音?
ふるえ音r

母音
iu
eo
a

この他に、スベロア方言には有気閉鎖音、有声摩擦音、声門摩擦音、前舌円唇母音がある[22]

音素の一覧(スベロア方言)

子音唇音舌尖音舌端音前部舌背音後部舌背音声門音
閉鎖音ptck
p?t?k?
bd?g
鼻音mn?
摩擦音fs?s??h
z?z??h?
破擦音ts?ts?t?
側面接近音l?
ふるえ音r

母音
i yu
eo
a


主な音韻交替
母音
低母音 /a/ の同化 (a→e / V[+high]C0__)
低母音 /a/ が高母音 /i, u/ を含む音節の後で /e/ と交替する。ビスカヤで話されている全ての方言と、ギプスコア方言・ナファロア方言の多くに見られる
[23]

gizon=a「男(単数)」→lagun=e「仲間(単数)」

gizon bat「ある男」→lagun bet「ある仲間」

joan da「行った」→etorri de「来た」

dute-la「彼らがそれを持っている(補文)」→dugu-le「私達がそれを持っている(補文)」

中母音 /e, o/ の上昇 ([?low]→[+high] / __V)
中母音 /e, o/ が他の母音の前で高母音 /i, u/ と交替する。共通バスク語を除くほとんど全ての方言で観察できる。ゲルニカの方言やナファロア方言・ラプルディ方言の一部では /e/ だけが高母音化し、/o/ はしない。/o/ だけが高母音化する方言は見つかっていない[24]


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