バクテリオファージ
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この項目では、ウイルスの一種であるバクテリオファージについて説明しています。白血球の一種については「マクロファージ」をご覧ください。
シネココッカス属ファージ(Synechococcus Phage)S-PM2ウイルスの透過型電子顕微鏡像

ファージ(: phage)は、細菌古細菌に感染して複製するウイルスで、正式にはバクテリオファージ(: bacteriophage)と呼ばれる。ファージの基本構造は、タンパク質の外殻と遺伝情報を担う核酸 (主に二本鎖DNA) からなる。ファージが感染した細菌は細胞膜を破壊される溶菌という現象を起こし、死細胞を残さない。細菌が食べ尽くされるかのように死滅するため、これにちなんで「細菌(bacteria)を食べるもの(ギリシア語:phagos)」を表す「バクテリオファージ(bacteriophage)」という名がつけられた。
概要T4バクテリオファージのイラスト

バクテリオファージは、DNAまたはRNAゲノムカプセル化したタンパク質で構成され、単純なものから精巧なものまである。それらのゲノムは、わずか4つの遺伝子(例:MS2)から数100の遺伝子までをコードしている。ファージは、細菌の細胞質にゲノムを注入した後、細菌内で複製する。

バクテリオファージは、生物圏で最も一般的で多様な存在である[1]。バクテリオファージは汎存ウイルスであり、細菌が存在する場所ならどこにでも存在する。地球上には、バクテリオファージが1031個以上存在すると推定されており、これは細菌を含む地球上の他のすべての生物を合わせた数よりも多くなっている[2]。ウイルスは、世界の海の水柱(水面から底質への水の概念的な柱)に最も豊富な生物学的実体であり、原核生物に次いで2番目に大きなバイオマス構成要素であり[3]、表面の微生物マット(英語版)で1ミリリットル当たり9x108個のウイルスが検出され[4]、海洋細菌(英語版)の最大70%がファージに感染している可能性がある[5]

バクテリオファージは、20世紀初頭に、アーネスト・ハンキンとフレデリック・トウォートによってそれぞれ独立に発見され、カナダの生物学者フェリックス・デレーユによって溶菌作用が見出された。初期の分子生物学においてモデル生物として盛んに用いられた。またファージのゲノムは改変され、遺伝子導入DNA断片のライブラリ作成などにも用いられている。有名なファージの一つにはラムダファージ(λファージ)があり、大腸菌に感染する。全ゲノムの解読はラムダファージで行われた(ゲノムプロジェクト)。また、ウイルス粒子が非常に複雑な形態のT4ファージもよく知られている。

20世紀後半から、旧ソビエト連邦、中央ヨーロッパ、およびフランス抗生物質の代替品として使用されてきた[6][7]。ファージは、多くの細菌の多剤耐性株に対する治療法として考えられている(ファージセラピーを参照)[8]。一方、イノウイルス科(Inoviridae)のファージは、肺炎嚢胞性線維症に関与するバイオフィルムを複雑化して、病気を根絶するための薬剤から細菌を保護し、持続的感染を促進することが示されている[9]
構造(左)ファージT4の解剖学的構造と、(右)感染サイクルの模式図

バクテリオファージには多くの種類が知られており、その大きさは25?200nm程度である。形状も様々な種類が知られており、多くの種は正二十面体様のカプシドを頭部としてそこから尾が伸びている。中には真核生物に感染するウイルスのように、単純に頭の部分のみを持つ種もある。ファージの尾部は細菌細胞外に発達した莢膜や、ペプチドグリカンから成る細胞壁を突破して、細菌の細胞内にファージの核酸を送り込む機能を持つ。例えばT4ファージの尾の先端にある基盤を構成する蛋白質にはリゾチームとして機能する部分があり、これがペプチドグリカン加水分解して細菌の細胞壁に穴を開ける。ファージの尾は、細菌細胞に核酸を送り込む時に収縮する長い尾、柔軟に屈曲するが収縮はしない長い尾、収縮しない短い尾の3種類がある。例えばT4ファージは長くて収縮するタイプ、ラムダファージは長くて屈曲するタイプの尾を持っている。
分類バクテリオファージP22は、短い非収縮性の尾を持つことから、形態学的にはポドウイルス科(英語版)(Podoviridae)に属している。

バクテリオファージは生物圏に豊富に存在し、それぞれゲノムやライフスタイルが異なる。


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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