ハードSFの特徴として、作品のストーリーの根幹をなす問題に対して科学的に整合性のとれた解決が与えられるということが挙げられる。このような態度は、世界を科学的に認識することによって問題を解決に導くことを旨とした、ジョン・W・キャンベルが推し進めたSF黄金期の初期の形を純粋に受け継いだものと言える[14]。
こうした科学面の重視について、ハードSFに批判的な立場からは、「人間描写が浅い」「科学知識の解説に偏重して小説とは言えない」などの批判が展開されるが、これは、人間描写よりも科学描写を重視する「ハードSF」というジャンルの持つ業であろう。
ただし、どの程度までを「科学的」とみなすか、そもそも「科学的」とはどういうことかで様々な見方がある。ハードSFとされる作品にも疑似科学は取り上げられているがこれを科学的とみなせるかという問題がある。
ハードSFファンには作品内の科学的に不正確な点を探すことを「ゲーム」のように楽しむ者もいる。例えばMITのグループはハル・クレメントの1953年の長編『重力の使命』に登場する惑星メスクリンは赤道付近が鋭くとがっていなければならないと指摘し、フロリダ州の高校ではラリー・ニーヴンの1970年の長編『リングワールド』について計算を行い、表土が数千年で海に滑り込んだはずだと指摘した[15]。『リングワールド』はその巨大環状構造物が不安定であり、最終的に中心の太陽とぶつかってしまうと指摘されたことでも有名であり、ニーヴンは続編『リングワールドふたたび』で誤りを訂正し不安定さをストーリーに取り入れた。 ハードSFは、作品の設定が科学的な合理性を重要視しておこなわれており、作品中で登場するさまざまな技術的成果物や事件に対して、科学的な(あるいは疑似科学的な)原理の説明が与えられる点で、単なるガジェットSFとは異なる。 軌道エレベータを例にするならば、赤道上以外の位置に軌道エレベータを設置することは難しいという力学上の問題や、建造に必須の非常に強度の高い建築素材をどのように製造・調達するのか、さらにはそもそもどの様な手順で軌道エレベータを設置するのか、などといった工学的諸問題について、それらを技術的に解決する様子を理論的にありうる整合性を持って描写するのが典型的なハードSFである。極端な話、「どうやって軌道エレベータを設置したのか」という、そこまでを正確な科学技術の理論の説明を付加したドキュメンタリータッチの物語として描くだけでも、ハードSFとしては成立し得る。 これに対して、工学的な諸問題については立ち入らず、「軌道エレベーターの技術的な確立がされていること」ないし「軌道エレベータが既にそこに存在していること」を物語成立の前提条件として、これを舞台に、あるいは道具立てとして、ストーリーを展開させてゆくのがガジェットSFである。 そのため、ハードSFを書く作家について言えば、その職業的知識や経験を作品に生かせる元あるいは現役の技術者や科学者などといった経歴を持つ者が多い。 ハードSFはスペースオペラとも好対照を見せている。ここでは超光速航法を例にとる。現実の物理学では相対性理論によって、物体は光速度を超えるまで加速することはできない。しかし、太陽系外、特に複数の恒星系間を股に掛けて舞台とするSFでは、光速度を超える速さでの移動が物語上要求されるため、硬軟を問わず無数の超光速航行理論が提唱されている。 ハードSF作品においては宇宙を舞台にする場合、舞台は太陽系内か、近郊の恒星系にとどめることになる。疑似科学あるいは最先端の物理学の仮説を応用・拡張して、超光速航法の理論を構築するものもあるが、あくまで超光速の移動手段は登場せず、亜光速以下の速度の移動手段しか登場しないものも多い。 スペースオペラ作品群はそうした光速の壁には頓着せず、宇宙を縦横無尽に駆け巡るために超光速航法をブラックボックスとして使用している。スペースオペラにおいて、科学的な設定を施したものはモダン・スペースオペラとも呼ばれる。 以上、「ハードSF」の定義について縷縷と述べてきたが、SFの定義は各人によって様々であり、一意的に定義するのは不可能である。 そこで、一般的にハードSF作家、もしくは「ハードSFっぽい作品を書いている人」として一定の認知を得ている作家を列挙することで、「これらの人びとが書いているような傾向の作品」と、帰納的に示すのも一案であろう。ただし、これらの作家もハードでないSFや、コメディ・児童向け作品などとしてあえてハードSFのフォーマットから逸脱させた作品を書いている者もいる。(順不同) 名前作品 名前作品
類似ジャンルとの比較
ハードSF系作家一覧
小説家
アーサー・C・クラーク『楽園の泉』等[16]
ロバート・A・ハインライン『月は無慈悲な夜の女王』等
アイザック・アシモフ『われはロボット』等
ロバート・L・フォワード『竜の卵』、『ロシュワールド』、『火星の虹』等
チャールズ・シェフィールド『マッカンドルー航宙記』『ニムロデ狩り』等
スティーヴン・バクスター「ジーリー」シリーズ、『タイム・シップ』等
グレゴリー・ベンフォード『夜の大海の中で』、『大いなる天上の河』等
ラリー・ニーヴン「ノウンスペース」シリーズ等
ルーディ・ラッカー『時空ドーナツ』等
グレッグ・ベア『女王天使』、『永劫』、『久遠』等
グレッグ・イーガン『宇宙消失』、『順列都市』等
デイヴィッド・ブリン「知性化」シリーズ、『サンダイバー』等
カール・セーガン『コンタクト』
フレッド・ホイル『10月1日では遅すぎる』等
キム・スタンリー・ロビンスン『レッド・マーズ』、『グリーン・マーズ』等
ポール・プロイス
ポール・アンダースン『タウ・ゼロ』、『アーヴァタール』等
ジェイムズ・P・ホーガン『星を継ぐもの』、『未来の二つの顔』、『造物主の掟』等
ハル・クレメント『重力の使命』等
ジュール・ヴェルヌ『月世界旅行』、『海底二万里』等
スタニスワフ・レム『ソラリスの陽のもとに』、『虚数』等
石原藤夫「惑星」シリーズ、『宇宙船オロモルフ号の冒険』等
堀晃「トリニティ」シリーズ、『バビロニア・ウェーブ』等
クライン・ユーベルシュタイン『緑の石』、『青い紐』、『赤い星』等
小松左京『さよならジュピター』、『日本沈没』等
豊田有恒『ダイノサウルス作戦』等
谷甲州「航空宇宙軍史」シリーズ等
瀬名秀明『BRAIN VALLEY』等
野尻抱介「ロケットガール」シリーズ、『太陽の簒奪者』等
山本弘「サイバーナイト」シリーズ、『時の果てのフェブラリー』等
光瀬龍『百億の昼と千億の夜』、『宇宙年代記』シリーズ等
笹本祐一「ARIEL」シリーズ、「星のパイロット」シリーズ等[17]
神林長平「戦闘妖精・雪風」シリーズ、『魂の駆動体』等
小川一水『第六大陸』、『天涯の砦』
林譲治AADDシリーズ、『ルナ・シューター』等
SF漫画家
星野之宣『2001夜物語』、『コドク・エクスペリメント』等
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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
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