ハモンドオルガン
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1974年末に全てのトーンホイールオルガンの生産が終了し、電子回路による発振に置き換えられて、完全に電子化された。全盛期にはどんなヒット曲でも聴くことのできたハモンド・サウンドはやがて飽きられ、1970年代末から急速に発展していたシンセサイザーに取って代わられることになった。ハモンドスズキ XK-1

1986年末ハモンド・オルガンカンパニーの経営は緩やかに終息を迎えた。 修理部品と保守サービスは別会社に移行され [1]、商標その他はハモンド・オーストラリアに譲渡された [2]。 唯一の生産拠点となった日本ハモンドの権利関係は複雑化し、最終的に親会社 阪田商会は関連事業を鈴木楽器に譲渡した [3]。 鈴木楽器は1991年ハモンド、1992年レスリーをそれぞれ買収し、旧・日本ハモンドの流れを汲むトランジスタ発振方式の製品や、新しいサンプリング音を利用したハモンドオルガン、レスリー・スピーカーの生産を開始した [注釈 2]。シンセサイザーの音が飽きられ始め、古い電気・電子楽器の音が再評価されるようになった1990年代前後からは多くのメーカーでPCM音源物理モデル音源を利用したオルガンが作られるようになる。現在ハモンドオルガンの商標を持っているハモンドスズキ(Hammond-Suzuki)の製品はビンテージのB-3のトーンホイール一つ一つからサンプリングした音を使用しており、他社のものは物理モデル音源を用いて再現しているものが多い。これらのオルガンは「クローンホイール(Clonewheel)」と呼ばれている。しかしながら、旧式のトーンホイールから生み出される深みのある太い音は、現在の技術で完全に代替出来ているとは言い難い。このため、今でもヴィンテージのハモンドオルガンを買い求める演奏家は多い。

また伝統的なトーンホイール・オルガンを再生産するメーカーも存在する(Pari.E Electromagnetic organ)[4]
メカニズム起動スイッチHammond C-2 の内部
上から順に ドローバー/鍵盤/トーンジェネレータ/アンプ&電源部が並ぶ。右側の白い円筒2つが給油口。
2つの起動スイッチ

B-3の場合で91枚のトーンホイールを回転させるために要するトルクは大きいため、始動時にはより回転力のあるモーターを同時に動かす必要がある。このためオルガン本体には、自動車のセルモーターに相当するStartモーターを回す"Start"スイッチ(電源スイッチとStartモーターの始動スイッチを兼ねる)と、トーンホイールを一定速度で回すシンクロナス・モーター用の"Run"スイッチがある。演奏の準備のためには、まずStartスイッチを10秒近く押し上げ、モーター音が安定したところでRunスイッチを押し上げる。その後Startスイッチは指を離すと中央で止まり、プリアンプの真空管が暖まれば演奏が可能となる。鍵盤を押しながらRunスイッチを切ると、トーンホイールが減速?停止する一方、プリアンプには電気が供給されているために発音を続けるので、音程のベンドダウンを行うことができる。完全に停止してしまうと、再び立ち上げ動作を行う必要があり、10秒以上演奏できなくなる。Startモーターを演奏中に回すことでベンドアップも可能である(Startモーターの回転数に依存するため、音程変化量は個体差がある)。1970年代にはロックバンドで頻用された裏技である。なお、前述のようにシンクロナス・モーターは電源周波数により回転速度を決定しているため、日本の関東地方など50Hz圏で正しい音程で使用するには、サイクルチェンジャーの組み込みが必要である。50Hz圏でそのまま使用すると、約短3度音程が低下する。一部の業者では50Hzを60Hzに変換するだけでなく、様々な電源周波数に切り替えることで好みの調に移調できるように製作したものがある。
トーンホイール・ジェネレーター

ハモンドオルガンのすべての楽音を生み出すのは、上述したとおりトーンホイールと呼ばれる歯車状のパーツである。その縁には正弦波を模した波形が刻まれており、ピックアップとの距離が周期的に変化することによって生じる磁界の変化を音として出力する(エレクトリックギターの弦振動とほぼ同じようなものである)。代表的機種のB-3で91枚が組み込まれている。ペダル鍵盤用の12枚とメインの79枚に分けられ、ペダル用の12枚は低音を聞こえやすくするために正弦波よりも複雑な波形を持っている。それぞれのトーンホイールが生み出した音源信号は、いくつもの系統に分けられて出力される。「上鍵盤のBプリセット用・8'のドローバーに接続される系統」「下鍵盤のA#プリセット用・2'のドローバーに接続され、かつビブラート回路を通る系統」「2ndパーカッションとして出力される系統」といった具合である。このため、トーンホイール・ジェネレーターは非常に複雑な配線がなされている。各トーンホイールはピックアップとの距離が調整されており、聴感上目立つ高音の出力が低音より抑えられていることに加え、コンソールモデルでは一度に押されている鍵盤の数、引かれているドローバーの数、演奏される音域に関わらず音量が概ね一定となるように設計されており、これによって主旋律が伴奏に埋もれてしまうことや多数のドローバーが引かれた際に音量が過大になるのを防ぐことができる(Loudness Robbingと呼ばれる)。ジェネレーターは機械式であるため、年1回程度、トーンジェネレーターとモーターに専用の潤滑油を注油する必要がある。フェルト製のトーンジェネレーターカバーに数カ所、漏斗に似た形の給油口が取り付けられていて、専用潤滑油を少量入れておけばよい。注がれたオイルを適所に補給するため、ホイールを回転させる歯車やモーターのベアリングに接触するように糸が取り付けられており、オイルが浸透して必要な部分に伝達される。
ドローバードローバーの配列

ハーモニック・ドローバーは、基本的には9本で構成される、パイプオルガンのストップ(音栓)にあたる操作子である。これを引き出すことで倍音を重ね、オルガンの音を作り上げる。それぞれ音量が0から8までの9段階あり、向こう側に押し込んだ状態(0)では音が出ず、手前にいっぱいに引く(8)と最大音量となる。ドローバーは左から16'(16フィート)・5-1/3'(5と3分の1フィート)・8'・4'・2-2/3'・2'・1-3/5'・1-1/3'・1'となっている(パイプオルガンの、相当するパイプの長さを示す)。このうち8'は「基音」と呼ばれ、この音を中心にドローバーを調整して音色を作り上げていく。白のドローバーは基音およびそれとオクターブの関係にある倍音で、右に行くほどオクターブが上がる。黒のドローバーは基音の第3、第5、第6倍音である。ペダル鍵盤は16'と8'の2本で音色を作る(ペダル専用の倍音を多く持つトーンホイールと通常のトーンホイールを併用している)。5-1/3'のドローバーは8'の左側にあるが、これは8'ではなく16'の整数次倍音(基音の整数倍の高さの音。5-1/3'は16'の第3倍音)だからである。8'を基音とした音に深みを与えたりする場合などに使用される。16'・5-1/3'のドローバーのみ色は茶色になっている。ドローバーの組み合わせをレジストレーションとよび、「88 8000 000」などと表記する。B-3などのコンソールタイプでは上下鍵盤それぞれに9本のセットが二つずつ、ペダル用に2本のセットが一つ設置される。安価かつ小型のスピネットタイプでは上鍵盤に9本のセットが一つ、下鍵盤に7本ないし8本のセットが一つ、ペダル用に1本が設置されている。
フォールドバック

手鍵盤の16'担当分、最低オクターブは上のオクターブの繰り返しとなる。また、1'の最高オクターブはその下のオクターブの繰り返しとなる。これをフォールドバック(折り返し)という。これは人間の可聴域を超えるトーンホイールを省略しつつ、細くなりがちな高音域の音を太く、過剰に響きがちな低音域を引き締める効果がある。パイプオルガンにも同様の理由で折り返しがある。61鍵の音域で9つの倍音を持たせると単純計算で109枚のトーンホイールを要するはずだが、これにより91枚に留まる(この中には12枚のペダル専用トーンホイールも含まれる)。


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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