歴史の節で解説したように、『ネイチャー』はもともと、polemicalな(定説に異論を唱え、議論を挑む姿勢の)ものとして生まれ、育てられたものであり、近年でもそうした姿勢・方針で掲載されている論文がある。 2017年に、ネイチャーは「歴史上の人物の彫像を削除することは歴史を白塗りするリスクがある:科学は過去を示すことで間違いを認めなければならない」('Removing Statues of Historical figures risks whitewashing history: Science must acknowledge mistakes as it marks its past')という社説を発表した。この記事では、非倫理的で虐待的で拷問的な歴史を持つ科学者を称える彫像の配置と維持に関して、コメントを述べている。具体的には、インフォームドコンセントを実施せずアフリカ系アメリカ人の女性奴隷を実験した「婦人科の父」であるジェイムズ・マリオン・シムズ
ユリ・ゲラー - Targ R. & Puthoff H., "Information transmission under conditions of sensory shielding", Nature 251, 602-607 (1974).
先行コラムとして"Challenge to Scientist", Nature 246, 114, (1973) がある。本論文の掲載の是非については編集部内でも議論を呼び、Nature 251, 559-560 (1974) に「議論を呼ぶ研究の掲載も価値がある」として掲載されている。この問題はNature 254, 470-473 (1975) でも再度取り上げられている。
ネッシー - "Naming the Loch Ness monster", Nature 258, 466-468 (1975).
これは論文でなくコラム記事である。
ホメオパシー - Davenas, E., Beauvais, F., Amara, J., Oberbaum, M., Robinzon, B., Miadonna, A., Tedeschi, A., Pomeranz, B., Fortner, P., Belon, P., Sainte-Laudy, J., Poitevin, B. & Benveniste, J., "Human basophil degranulation triggered by very dilute antiserum against IgE", Nature 333, 816-818 (1988).
1991年イグノーベル賞受賞論文。なお、Nature 431, 729 (2004) にはBenvenisteの追悼記事が掲載された。
論争
ポール・ラウターバーとピーター・マンスフィールドがノーベル生理学・医学賞を受賞した際に、最初に研究論文がネイチャーによって却下され、ラウターバーが却下に対して反論した後に発表されたという経緯を踏まえ、ネイチャーは「査読による不採択への対処」(Coping with Peer Rejection)というタイトルの社説で論文を却下することにおける自身の失敗の多くを認めた。私たちの歴史の中には、紛れもない失態があります。チェレンコフ放射、湯川秀樹の中間子、ヨハン・ダイゼンホーファー、ロベルト・フーバー、ハルトムート・ミヒェルの光合成に関する研究、そしてスティーブン・ホーキングのブラックホール放射が最初は拒絶された(しかし最終的には受け入れられた)ことなどです。[54]
1988年6月、編集者による1年近くの査読の後、ネイチャーは、非常に希薄な抗体血清の存在下でヒト好塩基球脱顆粒を研究したジャック・バンヴェニストと彼のチームの研究を詳述した物議を醸す一見異常な論文を発表した[55]。この論文は、1分子未満の抗体がヒト好塩基球の免疫応答を引き起こし、質量作用の物理法則に反する可能性があると結論付けていた。この論文は、主に彼らの研究がホメオパシー医療会社からの資金提供を求めていたため、パリでメディアの注目を集めた。公的調査により、ネイチャーはバンヴェニストの研究室で大規模かつ厳格な実験的反復(英語版)を課し、それによって彼のチームの結果は反駁された[56]。
その最も有名な発見の1つであるワトソンとクリックの1953年のDNAの構造に関する論文(英語版)では、ネイチャーは査読は行わなかった。編集者ジョン・マドックスは、「ワトソンとクリックの論文はNatureで査読されなかった。...その正しさは自明であった。…現場で働いているレフリーは誰も、その構造を見たら何も口を出すことはできなかったでしょう。」と述べている[57]。
エンリコ・フェルミがベータ崩壊の弱い相互作用理論に関する画期的な論文を提出したときに、ネイチャーはその論文が現実からかけ離れていると考え、その論文を拒否した[58]。フェルミの論文は、1934年にツァイトシュリフト・フュア・フィジークから発表された[59]。
ネイチャーは中国と武漢を人種差別的な攻撃に導いた可能性のある、COVID-19パンデミックに関する最初の報道について謝罪した[60][61]。 ネイチャーへの掲載は高い社会的栄誉が得られる一方で、偽造や捏造を含む不正論文も掲載されることもあり、その運営方法が議論される機会も多い。例えば過去に、不正確な図を掲載した論文が撤回されている[62]。データの捏造を理由として、2013年にも不正論文が撤回された[63]。2000年から2001年にかけて、ヘンドリック・シェーンによって発表された5つの一連の論文がネイチャーに掲載されたが、この半導体に関する論文には、改竄されたデータやその他の科学的詐欺が含まれていることが明らかになった。2003年、ネイチャーは論文を撤回した。シェーンのスキャンダルはネイチャーに限定されておらず、サイエンスやフィジカル・レビューなどの他の著名なジャーナルも、シェーンによる論文を撤回した[64]。 また、コピー・アンド・ペースト流用や加工が大量にあり一見して明らかな捏造の隠蔽と撤回回避のための虚偽訂正であったにも関わらず、過失という著者の虚偽説明を鵜呑みにして、訂正公告で過失と表明し、虚偽内容の大量訂正を行う事がある[65]。例えば加藤茂明(元東京大学分子細胞生物学研究所教授)はネイチャー論文で「捏造・改竄の疑いを把握していながら、当該論文の撤回を回避するためにその隠蔽を図り、関係者に画像や実験ノートの捏造・改竄を指示し、事実と異なる内容を学術誌の編集者へ回答するなど、極めて不当な対応をとっていた」[66]。 このような杜撰な審査、不正隠蔽の片棒を担ぐ出版社の大量訂正掲載に対し、日本分子生物学会の研究倫理のフォーラムで大量訂正は一種の査読システム違反であり、後から大量訂正できるならば、査読者がデータの公正さや結論の正しさを判断する事ができないという指摘があったが、ネイチャー誌の編集者は論文の主旨、結論が正しいかどうかで撤回かどうかを判断するという回答であった[67]。
撤回