ニョルズ
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また、スカジとニョルズの結婚は、サクソ・グラマティクスが述べるハディングス(英語版)とレグニルダの結婚とよく似ているため、古くからその類似が論じられている[8][注釈 3]

北欧の各地には、「ニョルズの神殿」「ニョルズの森」「ニョルズの耕地」を意味する地名が多く見られることから、彼が非常に崇拝されていたことは明白である。しかし前述の結婚の話以外では目立ったエピソードがない[9]。またラグナロクでは多くの主要な神の死ぬ様が描かれているのだが、ニョルズがどのようにして死んだかは不明である。『古エッダ』の『ヴァフスルーズニルの言葉』第39節において、世界の終わる時にヴァン神族のところへ帰るだろうと言及されるのみである[10]

他に『ロキの口論』第34節では、ニョルズがロキから、人質として「東の神々[11]」もしくは「東の巨人[12]」の元へ送られたこと、ヒュミルの娘たちに溲瓶代わりにされて口の中に放尿されたことを指摘されている。
『ユングリング家のサガ』

ユングリング家のサガ』では、ヴァナヘイムからアースガルズに来た〈富める〉ニョルズは、王のオーディンから犠牲祭の祭司を任ぜられた。オーディンの死後は2代目のスウェーデン王となったとされている。臨終の際はオーディンを追うように自身の体を傷つけて死んだといわれている[13]
『アイスランド人の書』

アリ・ソルギルスソンによる12世紀の歴史書『アイスランド人の書』には、ユングリング家からアリに連なる系譜が掲載されているが、ニョルズは系譜の2番目、トルコ王ユングヴィの次にスウェア王として名前が挙げられている[14]
その他の神話

ニョルズは海の神とされ、漁業や魚の取り引きにおける守護者であった。冬の気候の厳しい北欧では夏の間しか漁業ができないことから、夏の神としての面も持っていた。また農業に適した土地が夏のフィヨルド周辺にあったことから、ニョルズは農業においても豊穣の神として崇められた[15]。北欧神話の海神には他にエーギルがいるが、エーギルが海の自然現象を象徴する面が強いのに対し[16]、ニョルズは船や港、貿易、漁業に関係が深い。彼の住居はノーアトゥーンといい、その名前は「港」を意味し、場所も海に近いとされている[17]。前述のスカジとの結婚が破綻したのは、山育ちのスカジが海鳥の鳴き声を嫌ったことも一因であった[6]。ニョルズは天のアースガルズとノーアトゥーンとに住み、エーギルが海で暴風雨を起こすと彼を止めるためにノーアトゥーンに戻ったともいわれている[18]。ある時にはエーギルに向かって「妻のラーンの網を裂く」と一喝したところ、エーギルは引き下がり、荒れ狂っていた海面が静かになったという[19]
女神ネルトゥスとの関係エミール・デープラーによるNerthus(1905年)。

女神ネルトゥスについては、さまざまなゲルマン民族の部族によって敬われていた神であることが1世紀ローマの歴史家タキトゥスによって著書『ゲルマニア』に記述されているが、この女神とニョルズはしばしば同一視されている[20]。ニョルズの名がアイスランドの文献に現れるまでには約千年の時間がたち、かつ性別の違いがあるものの、ネルトゥス (Nerthus) の名はニョルズの名と語源を同じくしている。またニョルズの子であるフレイとフレイヤのそれぞれの名前の語源も非常に近いものであり、この2名が双子の兄弟姉妹であることから、ニョルズとネルトゥスも性の異なる双子である可能性が指摘されている[21]。結果的に、『ロキの口論』で語られる、ニョルズがフレイヤとフレイをもうけた相手とされる無名の姉妹と、ネルトゥスが同一視された[22]
脚注17世紀の写本『AM 738 4to』に描かれたニョルズ。1832年に描かれたニョルズ。.mw-parser-output .side-box{margin:4px 0;box-sizing:border-box;border:1px solid #aaa;font-size:88%;line-height:1.25em;background-color:#f9f9f9;display:flow-root}.mw-parser-output .side-box-abovebelow,.mw-parser-output .side-box-text{padding:0.25em 0.9em}.mw-parser-output .side-box-image{padding:2px 0 2px 0.9em;text-align:center}.mw-parser-output .side-box-imageright{padding:2px 0.9em 2px 0;text-align:center}@media(min-width:500px){.mw-parser-output .side-box-flex{display:flex;align-items:center}.mw-parser-output .side-box-text{flex:1}}@media(min-width:720px){.mw-parser-output .side-box{width:238px}.mw-parser-output .side-box-right{clear:right;float:right;margin-left:1em}.mw-parser-output .side-box-left{margin-right:1em}}ウィキメディア・コモンズには、ニョルズに関連するメディアがあります。[脚注の使い方]
注釈^ 『エッダ 古代北欧歌謡集』67頁、『スキールニルの旅』に登場するスカジの解説では、彼女はフレイの母親だと説明されている。しかし『エッダ/グレティルのサガ』(松谷健二訳、筑摩書房、1986年)32頁での同じ箇所の説明では、ニエルド(ニョルズ)の妻であるがフレイの母ではないとされている。
^ ドナルド・A・マッケンジー『北欧のロマン ゲルマン神話』(東浦義雄、竹村恵都子訳、大修館書店、1997年)106頁に、体格の堂々とした美丈夫という描写がある。
^ このエピソードの詳細はスカジ (北欧神話)#注釈を参照。

出典^ 谷口幸男訳『エッダ 古代北欧歌謡集』(1974年。1973年初版)、菅原邦城「エッダ神話小事典」『ユリイカ Vol12(3)』(1980年)など。
^ 伊藤盡「北欧神話の神々事典」『ユリイカ Vol39(12)』2007年。
^ 山室静、米原まり子訳『北欧神話物語』(1992年。1983年初版)など。
^ S・ストゥルルソン『ヘイムスクリングラ(一)』北欧文化通信社、2008年、48頁。 
^ 『「詩語法」訳注』3頁。
^ a b 『エッダ 古代北欧歌謡集』244頁(「ギュルヴィたぶらかし」第23章)。
^ 『北欧神話』(デイヴィッドソン)171頁。
^デュメジル・コレクション 4』48頁。
^ 『北欧の神話 神々と巨人のたたかい』108頁。
^ 『エッダ 古代北欧歌謡集』48頁(「ヴァフズルーズニルの歌」)。
^ 『エッダ 古代北欧歌謡集』84頁。
^ 『エッダ/グレティルのサガ』39頁。
^ 『北欧の神話 神々と巨人のたたかい』28、107頁。
^ 『サガとエッダの世界 アイスランドの歴史と文化』(山室静著、社会思想社〈そしおぶっくす〉、1982年)249頁。
^ 『北欧の神話伝説 (I)』228頁。
^ 『北欧の神話』153頁。
^ 『北欧の神話』119頁。
^ 『北欧の神話伝説 (I)』229頁。
^ 『北欧の神話伝説 (I)』226-238頁。
^ Simek (2007:234)
^ 「異教神話と宗教」『ユリイカ』147頁。


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