ニュー・ウェーブ_(SF)
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ニューウェーブの作家達は、パルプ期及び黄金期[3]と言われる時代のSFは打ち捨てるべきであると考え、J.G.バラードは1962年に「SFは星間旅行や、異星人の生態や、銀河戦争などから成る宇宙からは背を向けるべきだ」[4]と述べ、ブライアン・オールディスは著書『一兆年の宴』』で「SFの小道具である宇宙船、テレパシー、ロボット、時間旅行といったものは、流通の過程でコインのようにその価値を低下させていく」[5]と書く。ハリー・ハリスンはこの時代を「古い障壁は消失し、パルプ・タブーは忘れられ、新しいテーマと作法が探求された」[6]とまとめている。

そして作家達は、伝統的なSFの外に手本を探し、ビート作家ウィリアム・S・バロウズが注目された。[7]バロウズの使ったカットアップなどの技法や、SF的な比喩など、小説の可能性を拡大する過激な手法は、多くの作家達が真似ようとした。
運動の発生

ニューウェーブの厳密な発生元についての共通認識は無いといってよい。(アダム・ロバーツアルフレッド・ベスターがこのジャンルを開拓したと主張し[8]マイケル・ムアコックリイ・ブラケットを「真の教母」[9]の一人と称している。)しかし多くの評論家も認めるのは、ニューウェーブは1964年にマイクル・ムアコックが編集長となった『ニュー・ワールズ』誌で始まったということだ。[10]マイケル・ムアコック(2012年)

アメリカでゴールドスミスが編集していた『アメージング・ストーリーズ』誌や『ファンタジイ・アンド・サイエンス・フィクション』誌が非日常的な物語を生み出していた時期に、ムアコックは新しい方針への転換を図った。『ニュー・ワールズ』は旧来のSF誌との差別化を模索し、1964年の復刊時からSF誌というよりは、実験的文芸雑誌のようなスタイルに変貌した。

J.G.バラードは1950年代末から特異な作品を発表していたが、1962年に「内宇宙への道はどちらか?」で、SFの文体や形式が「いまSF読者を退屈させているのはそうしたものであり、それ自体が文学の他の方面での発達に比して、時代遅れに見え始めているのである。[11]」と述べて、SFが目指すのは外宇宙ではなく内宇宙であると主張した。ムアコックは、破滅して行く世界を受け入れて行く主人公を描いた『沈んだ世界』(1962年)などを発表していたバラードと、『地球の長い午後』(1962年)、『グレイベアド』(1964年)など多彩な作品を発表していたブライアン・オールディスの二人を『ニュー・ワールズ』で大きく取り上げ、他の作家においても実験的な作品を多く掲載し、これらの作品は「スペキュレイティブ・フィクション(思弁小説)」と呼ばれた。1964年の『ニュー・ワールズ』復刊第1号にはバラードの長編『結晶世界』の連載第1回と「ウィリアム・バロウズ論」が掲載されている。また掲載作品に制約を加えず、大胆な性描写や冒涜的な作品も掲載され、また主流文学の作品も掲載し、読者からは熱狂的な支持と反発の両方の反応があった。

一方この時期のアメリカでは、当時のカウンターカルチャーの傾向を反映した作風と技巧で脚光を浴びたロジャー・ゼラズニイやサミュエル・R・ディレーニイ、ハーラン・エリスンらがおり、彼らも『ニュー・ワールズ』に作品を発表した。またアメリカでアンソロジー『年間SF傑作選』を編集していたジュディス・メリルは、1956年発表のバラードの処女作「プリマ・ベラドンナ」以来バラードの熱烈な支持者となり[12]、1965年にロンドンを訪問し、イギリスでの新しいSFの運動を「ニュー・ウェーブ New Wave」としてアメリカに紹介した。アメリカではニュー・ウェーブ運動は、「SFに現代文学の手法を取り込むこと」[13]と理解されてさまざまな実験的な作品が書かれ、ハーラン・エリスンによるアンソロジー『危険なヴィジョン』(1966年)、『危険なヴィジョンふたたび』(1972年)が大きな成功を収めた。ハーラン・エリスン(1986年)

ムアコックの編集方針の元で、「銀河戦争は去り、ドラッグを受け入れ、エイリアンとの遭遇が減ってベッドルームの場面が増えた。散文としての実験が要求されるようになり、ウィリアム・バロウズの有害な影響が優勢になる恐れを生んだ」。[14]ジュディス・メリルの観測では「『ニュー・ワールズ』は、当時のニューウェーブの潮流を記録した、出版される温度計だった。


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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