ニューモシスチス肺炎
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特にβ-Dグルカンは感度92.3%、特異度86.1%であり、信頼性の高い診断ツールになる[8]。β-Dグルカンの問題点は偽陽性があること、測定法が複数あり測定法により検査値が一致しないことがあげられる。
画像検査
胸部単純レントゲン撮影

レントゲン撮影のPCPの典型的な所見は両側対称性のびまん性すりガラス陰影である。単発もしくは多発性の結節影および空洞影がみられる場合もある。空洞内の液面形成はみられない。空洞形成の機序は菌体の血管侵襲による虚血性壊死によると考えられている。

有効な治療が行われた場合は、すりガラス状陰影を中心とした陰影は7?10日以内に改善傾向を示すが、時に治療開始2?3日後に一過性の増悪を示すことがある。これは治療によって菌体成分に対する免疫応答を反映していると考えられる。しかしST合剤の大量点滴で肺水腫を反映している場合もある。
胸部CT

Grutenらの報告では胸部単純X線撮影で正常?曖昧もしくは非典型的なHIV-PCP疑い症例についてHRCTを施行した結果感度は100%、特異度は89%であった[9]。HRCTですりガラス状陰影がなければPCPはほぼ否定できると考えられる。PCPのすりガラス状陰影は肺胞腔内のフィブリンやデブリス、菌体の集簇を反映している。その密度が比較的疎であり、含気が残るために浸潤影ではなく、すりガラス陰影になると考えられる。すりガラス状陰影の分布に関しては肺門側に優位で胸膜側に正常部位を残した像、いわゆるperihilar distribution with peripheral sparing(末梢肺野がスペアされた所見)の所見や分布が均一ではなく、肺小様単位で濃淡がみられるモザイク状、もしくは地図状のすりガラス状陰影を呈することが特徴的であるといわれている。非典型的画像所見と考えられている浸潤影や結節影、空洞影も実際にはそれほどまれではない。
治療
ST合剤

歴史的にはニューモシスチス肺炎の治療はペンタミジンが用いられてきた。しかしペンタミジンでは治療失敗率が高く、毒性も強かった。そのためST合剤リファンピシン、グリンダマイシンなどが注目され2016年現在はST合剤が主流となっている。ST合剤の代表薬はバクタ®とバクトラミン®である。標準的なPCPでの投与量はトリメトプリムとして15-20mg/kg/dayでありST合剤の内服では9?12錠程度になる。しかしながら現在の用量設定は小規模の臨床試験をまとめたもので設定されており疑問視されている。また副作用が非常に多く、忍容性が高くないという問題があるため、低用量のST合剤による治療が近年になり注目されている。

膠原病におけるニューモシスチス肺炎ではトリメトプリムとして10mg/kg/day以下(錠剤で4?6錠)で通常用量と同等の治療効果でかつ副作用が少ないとの報告されている[10]。最近のメタアナライシスでも10mg/kg/day以下の低用量治療は通常用量と同等の治療効果でかつ重篤な副作用が少ないと報告されており、ST合剤の至適用量設定の臨床試験が期待される[11]

また、予防投与の場合は連日1錠または1日2錠を週に3回で投与する。予防投与の場合、発熱や皮疹などST合剤による薬剤アレルギーのため継続困難な場合は、一度中止し、症状軽快後に脱感作療法後に再導入が検討される。脱感作療法を行うことにより70%以上の症例で予防量は再導入可能となる[12]。予防量においても1日0.5錠投与や週に2回(1回1錠)などの低用量での予防も報告されている。
ペンタミジン

ペンタミジンは1930年代後半にイギリスで開発された抗原虫薬である。当初はトリパノソーマ症やリーシュマニア症に有効性が見出されていた。1960年代にニューモシスチス・イロベチイに有効であることが判明した。商品名はベナンバックス®であり注射薬と吸入薬がある。PCP治療では注射薬を用いるが添付文章で記載された4mg/kg/dayでは腎障害が高率に出現する。米国では副作用を理由に3mg/kg/dayでの治療も認められている。吸入薬は予防薬としては優れているが治療薬としては推奨されていない。
アトバコン

ST合剤で治療を開始し、ST合剤の変更が必要になった場合はアトバコンへの変更がひとつの選択肢と成る。商品名はサムチレール®である。不快な味がすること、高価であることが弱点である。
副腎皮質ステロイド

HIV-PCPでは副腎皮質ステロイドの有効性が確立している。米国疾病管理予防センター(CDC)はガイドラインを作成している[13]。それによるとPaO2≦70Torr以下またはA-aDO2≧35Torr以上のHIV-PCP患者が副腎皮質ステロイドの適応とされている。投与時期は抗菌薬開始と同時で、できるだけ早期、遅くとも抗菌薬開始3日以内とされている。投与スケジュールはPSL80mgを分2で5日間、40mgを分2で5日間、20mgを11日間の合計21日間というものである。Cochrane summaryによると副腎皮質ステロイドはHIV-PCPに対して1ヶ月死亡率を40%、3ヶ月死亡率を30%低下させる。また人工呼吸器使用を60%低下させると記載している。Non-HIV-PCPでは理論的にはより副腎皮質ステロイドが効果的と予想されるが後ろ向き検討では有効性を示さないという報告が多い。
予防

PCP予防を行うべきかどうかは背景となる疾患によって異なる。予防に用いられる標準薬はST合剤である。予防投与は連日1錠または1日2錠を週に3回で投与する。発熱や皮疹などST合剤による薬剤アレルギーのため継続困難な場合は、一度中止し、症状軽快後に脱感作療法後に再導入が検討される。脱感作療法を行うことにより70%以上の症例で予防量は再導入可能となる[12]。ST合剤の脱感作スケジュールは以下のようなものが知られている。発熱や発疹が出現した場合はその時点で増量を中止し、同量で維持すると症状が消退する。

投与日朝夕
1日目0.005g0.01g
2日目0.02g0.04g
3日目0.1g0.2g
4日目0.4g0.8g
5日目1.0g1.0g

HIV陽性者

PCPの罹患歴がある、あるいはCD4陽性リンパ球<200/μl、口腔内カンジダ症発症がPCP予防内服の適応となる。
造血幹細胞移植

同種造血幹細胞移植の場合には移植後6ヶ月までは予防が行われる。また移植後6ヶ月経過した時点でも免疫抑制薬が投与されている場合は予防は継続する。造血幹細胞の生着を妨げる可能性があるため、通常は生着までは使用されない。造血幹細胞自家移植の場合は造血幹細胞同種移植よりはリスクが低い。しかし免疫不全の程度が強いと判断された場合は予防が行われる。移植後3?6ヶ月予防を継続する。免疫抑制薬投与がされている場合は予防を継続するのは造血幹細胞同種移植と同様である。
臓器移植

全ての固形臓器移植患者において、移植後少なくとも6?12ヶ月はPCPの予防が推奨される。
癌患者

癌患者では急性リンパ性白血病、アレムツマブ治療、プリンアナログやその他のT細胞破壊性治療、長期の副腎皮質ステロイドプレドニゾロン(PSL)換算で1日20mgを4週間以上投与)、デモゾロマイドと放射線治療の併用の場合にPCP予防が推奨される。乳癌肺癌胃癌腎細胞癌などでPCP発症の報告があるが発症頻度が低いため予防の適応の有無をきめることは困難である。


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