ニューモシスチス・イロベチイ
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DNA解析の結果、ヒト由来株とラット由来株の間に大きな差異があると分かり、この名前は1999年に再提案されて広く使われるようになった[19]。種小名の発音について、ストリンガーら(2002年)は yee row vet zee(イロヴェツィ)[19]、ヘンリー(2017年)は[noo?mo-sis?tis ye?ro-vet?ze][20]としている。日本語転記には多くの表記揺れがあるが、2007年に日本医真菌学会は「Pneumocystis jiroveciiについては未だに日本語表記が定まっていないために臨床的あるいは教育的に混乱を来しております。そのため、我が国の医真菌学領域を代表する本学会において本菌に対する日本語表記を決定することを、日本細菌学会および日本医学会から求められました」と発表し、パブリックコメントを経て「ニューモシスチス・イロベチイ」表記を採用した[5][21]

当初、ニューモシスチスは原虫と考えられており、その命名規則には国際動物命名規約が採用されていた[12]。国際動物命名規約に従った場合、iを重ねない P. jiroveci が正しい学名となる[45]。その後真菌へ再分類されたことから、国際藻類・菌類・植物命名規約が採用され、学名は i を重ねる[46] Pneumocystis jirovecii へと変更された[47]。現在国際藻類・菌類・植物命名規約では、1976年の論文を命名の典拠として認め(これにより1999年の再提案は命名典拠としては不要になった)、さらに規約中の第45条・用例7 (Article 45, Ex 7) で学名変更の一例として触れている[48]。P. jiroveci のタイプ標本(レクトタイプ(選定基準標本)ならびにエピタイプ)は、1960年代に行われたヒトの剖検例から採取されたものだった[49]。現在ヒト由来株に P. carinii との学名を使うことは誤りであるが、この学名はラットからの分離株をタイプ標本として、ラット由来株の学名として用いられている[49]。しかしながら、イロベチイとカリニの種差が遺伝的に証明されたことから、欧米では形態学的な差異が必要だとして学名に異議を唱える学者もいる[7]

ヒト感染を起こす種の学名変更により、かつて「カリニ肺炎」と呼ばれていた疾患は、「ニューモシスチス肺炎」(Pneumocystis (jirovecii) pneumonia) と改められた[34][50][51]。英字では「ニューモシスチス・カリニ肺炎」を意味する "Pneumocystis carinii pneumonia" の頭文字を取って "PCP" という略称が広く使われていたが、学名変更に伴った混乱を避けるため、便宜上頭字語は「ニューモシスチス肺炎」を意味する "Pneumocystis pneumonia 由来として扱われている[34][52][53]
ゲノム解析

イロベチイはヒトに対する絶対寄生菌であることから培養不可能である。このためニューモシスチス属のゲノム解析は、多くが実験用ラットに感染させ維持できるニューモシスチス・カリニ (Pneumocystis carinii) の研究に依存していた[54]。その後、18S rRNAやその他の酵素・蛋白質遺伝子の解析で、原虫から真菌中の子嚢菌類に再分類され、同時にヒト感染株とその他の哺乳類に感染する株に大きな遺伝的差異があることが判明した[55][56][57][58]

現在はニューモシスチス・カリニと、イロベチイなどニューモシスチス属に含まれる他菌種とのゲノム比較ができるウェブサイトも存在する[59]。イロベチイのゲノムは、気管支肺胞洗浄液からのサンプルでシークエンスされた[60]。この論文によれば、イロベチイのゲノムはグアニンシトシン含有量が少なく、病原性因子、またアミノ酸生合成酵素の多くを欠いていると指摘されている[60]


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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