ニューモシスチス・イロベチイ
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その後、18S rRNAの解析などにより真菌であることが判明したほか、旧来「ニューモシスチス・カリニ」として知られてきた菌はラットを宿主とする別菌種だと分かり、現在の「ニューモシスチス・イロベチイ」へと改名された[16][17][18]。現在の学名は、真菌であることから国際藻類・菌類・植物命名規約を採用した P. jirovecii とすることが一般的である[12]

学名の発音について、2002年には “yee row vet zee”(イロヴェツィ)[19]、2017年には[noo?mo-sis?tis ye?ro-vet?ze][20]との論文が出されている。その日本語転記については多くが入り混じっているが、この記事では日本医真菌学会の表記に従い、「ニューモシスチス・イロベチイ」と表記する[5][21]
生活環

イロベチイはヒトに対する絶対寄生菌で一般的培養が行えず[17]ラットマウスなど他の実験動物にも感染させられないことから[12]、生活環は全容解明されていない[22]。しかしながら顕微鏡観察などで、シスト(嚢子、cyst)と栄養体(栄養型、trophozoite)、プレシスト(前嚢子、precyst)と少なくとも3つの発育形があることが分かっている[23]。この内多くを占めるのはシストと栄養体のふたつで[23]、シスト内の胞子が発芽して栄養体に変わるほか、栄養体自身も分裂して増殖する[17]。イロベチイは当初原虫として同定され、真菌に再分類されるまでには長い議論があったため、生活環に関する仮説には原虫を想定したものも多いという[24]

イロベチイの栄養体は、分裂酵母 (Schizosaccharomyces pombe) [注釈 2]などでいう栄養増殖 (vegetative state) と同等だと考えられている[26]。栄養体は単細胞で多葉の肉質虫様形態(アメーバ状)を取っており[27][28]、宿主細胞と強く結合する。球状のシストは、やがて厚い細胞壁を有するようになり、子嚢(英語版)状のシスト内で8つの胞子(スポロゾイトとも[29])ができた後、シスト壁の破裂と共に外へ放出される[17]。胞子放出(脱シスト)後、シストは三日月状に潰れ、染色した組織で確認できることもある[30]。遺伝子型は、栄養体で1倍体であり、その後融合して2倍体の接合子を作り、減数分裂有糸分裂を経て8核のプレシストとなる(その後、プレシストが成熟してシストとなる)[24][31]

ニューモシスチス属は一般に、その種の寄生宿主である哺乳類の肺胞上皮細胞外で観察される[23]。イロベチイの宿主は前述の通りヒトである。
病原菌として詳細は「ニューモシスチス肺炎」を参照

ニューモシスチス肺炎は、後天性免疫不全症候群 (HIV/AIDS) 患者や、臓器移植後などで免疫抑制状態にある患者(易感染宿主)に日和見感染を起こすことから医学的に重要な菌である[32]。正常な免疫状態のヒトでは常在菌として存在しており[33]、元は経気道的に感染すると考えられている[34]。発症後の予後については、非AIDS患者の方が進行が早く、致死率も高いとされている[35][36]。これは、ニューモシスチス肺炎の病態がイロベチイに対する過剰免疫で二次的に起こる肺障害であり、免疫機構が破綻しているAIDS患者では反応そのものが起きにくいためと考えられる[37]。また、AIDS患者ではCD4陽性Tリンパ球ヘルパーT細胞)が200個/μL未満になると発症しやすい一方で、非AIDS患者では必ずしも完全な免疫抑制状態でなくても発症し得ることが知られている[38]

ニューモシスチス肺炎の肺組織には、グロコット染色(英語版)が有用である[39]。組織像は急性びまん性間質性肺炎と同様で、硝子膜が形成され、II型肺胞上皮細胞が増生しているほか、肺胞内にはHE染色で好エオジン性に染まる泡沫状滲出物が見られる[40][41]

イロベチイは一般的な抗真菌薬の多くが無効だが(但しシストはキャンディン系の一部に部分的感受性を示す)、これは細胞膜に含まれるのがエルゴステロールではなくコレステロールであるためである[14]。原虫症治療に用いられるST合剤アトバコンペンタミジンに感受性を持つ[14]。またジアフェニルスルホン(ダプソン)も用いられている[42][43]


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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