ニコチン
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50 mg/kg(ウサギ、経皮)[1]
出典
ICSC 0519
特記なき場合、データは常温 (25 °C)・常圧 (100 kPa) におけるものである。

ニコチン臨床データ
法的規制

JP: 医薬品以外:毒物[2]

医薬品:第1類医薬品/第2類医薬品(毒薬以外はニコチン製剤が該当する)など(理論上は濃度が高ければ毒薬/劇薬)
(以上、たばこ除く)
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ニコチン(nicotine)とは、植物塩基(アルカロイド)の1つ。主にタバコ (Nicotiana tabacum)の葉に含まれる。揮発性の無色の油状液体生体に対し強い依存性を有し、たばこ喫煙によるニコチン依存症公衆衛生上の大きな問題となっている[3]

ニコチンは、昆虫に食べられることを抑制するために、タバコ植物が作り出す毒物である[4]ナストマトジャガイモなど、ナス科ではしばしば見られる物質であるが、タバコ以外の種ではその量は非常に少ない[5]

名称は、1550年にタバコ種をパリに持ち帰った、フランスの駐ポルトガル特命全権大使ジャン・ニコ(Jean Nicot)に由来する。
薬理作用

ニコチンは、骨格筋および脳に存在するニコチン性アセチルコリン受容体アゴニストとして振る舞う[6]。主に脳内の受容体に対し結合し、神経伝達物質ドーパミンアドレナリンβ-エンドルフィン[4])の放出が促進される。

ニコチンによるこれらはアロステリックに作用する。例えば少量の摂取であれば興奮作用が生じるが、摂取量が増えるに連れて鎮静作用が現れる。この現象はネスビット・パラドックスとして古くから知られている[7]

神経伝達物質の濃度が上昇することにより、次のような作用が現れる。
中枢神経系
報酬系の刺激

腹側被蓋野(Ventral Tegmental Area: VTA)にあるα4β2ニコチン性アセチルコリン受容体と結合し、ドーパミンβ-エンドルフィン[4]を放出する。それにより多幸感が生じる。これは一般に報酬系と呼ばれ、依存症を形成する[8]
認知能力の向上

41件の二重盲検研究を使用したメタアナリシスにおいて認知能力を向上させる作用があると結論付けられている[9]。また脳血流の増加が確認された[10]
交感神経系

副腎髄質に作用し、アドレナリンの分泌を促進する。その結果血圧血糖値の上昇、発汗などの現象が起こる[11]
遺伝子発現

ニコチンは代謝酵素であるシトクロムP450ファミリーの発現を誘導する[12][13]。このためたばこの喫煙者はシトクロムP450で代謝される薬の効きが悪くなり、治療効果が得にくくなることがある。
利用
禁煙補助

1970年代にイギリスのモーズレイ病院の精神医学研究所にて、たばこにおけるハーム・リダクション(有害性低減)が提唱され、先駆者のマイケル・ラッセルは、ニコチンのために喫煙しながらタールによって死んでいると述べたが、2007年にも、英国王立医師会のタバコの助言に関する報告書は、ニコチン自体は危険ではなくタバコの代替品として提供されれば、数百万人の人命を救えることを報告している[14]。ニコチン置換療法でのニコチンの提供では、33000人以上の観察研究やメタアナリシスによって、心血管疾患のリスク上昇がみられていない[15]

ニコチン蒸気を吸入する電子たばこは燃焼されたタバコよりもはるかに害が小さい可能性が高い[4]

日本では、ニコチン依存症を治療するためのニコチン製剤であるニコチンパッチニコチンガムが医薬品として承認されている。
医学的研究

ニコチンはADHD強迫性障害統合失調症うつ病アルツハイマー病などの認知能力および行動の制御になんらかの問題を生じる疾患および障害に対し治療効果があることが実験結果により確かめられている。そのためニコチンと同様の薬理作用を持つ治療薬の開発が進められ、医薬品として承認、販売されている。

詳細はニコチン性アセチルコリン受容体作動薬を参照。
ADHD

ADHDと診断された人の喫煙率が高いことは良く知られている。これは自己治療仮説で最もよく説明され、薬理学的根拠と実験結果により支持されている[16]。ニコチンパッチの投与直後に認知能力が改善された研究報告がある[17]
強迫性障害

ニコチンが強迫行動を抑えることが示唆されている。8週間のニコチンガムの使用によって5人の被験者中4人の強迫性障害が改善された[18]。薬物を用いて強迫症状を誘発させたラットにニコチンを投与すると強迫症状が低減された[19]
統合失調症

詳細は喫煙と統合失調症(英語: Schizophrenia and tobacco smoking)を参照。

ADHDのケースと同様に、統合失調症と診断されている人の喫煙率は極めて高いことが、20カ国以上で行われた研究によって判明している[20]。2006年の米国の喫煙者の割合は全人口においては20%であったが、統合失調症患者においては80%であった[21]

原因として統合失調症の症状および抗精神病薬副作用による認知能力の低下をニコチンで補う自己治療仮説などが考えられているが[20][22]、未だはっきりした結論は出ていない。

統合失調症患者の平均寿命は健常者の80%程度と低いが、それには高い喫煙率が深く寄与していると考えられている[21][4]
うつ病

長期的な低用量のニコチン暴露が、受容体の脱感作を引き起こし、抗うつ効果が現れることが確認されている[23]が、女性によるたばこの喫煙では、うつ病の罹患リスクが高まる[24]
アルツハイマー病


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