名称は、1550年にタバコ種をパリに持ち帰った、フランスの駐ポルトガル特命全権大使、ジャン・ニコ(Jean Nicot)に由来する。 ニコチンは、骨格筋および脳に存在するニコチン性アセチルコリン受容体のアゴニストとして振る舞う[6]。主に脳内の受容体に対し結合し、神経伝達物質(ドーパミン、アドレナリン、β-エンドルフィン[4])の放出が促進される。 ニコチンによるこれらはアロステリックに作用する。例えば少量の摂取であれば興奮作用が生じるが、摂取量が増えるに連れて鎮静作用が現れる。この現象はネスビット・パラドックスとして古くから知られている[7]。 神経伝達物質の濃度が上昇することにより、次のような作用が現れる。 腹側被蓋野(Ventral Tegmental Area: VTA)にあるα4β2ニコチン性アセチルコリン受容体と結合し、ドーパミン、β-エンドルフィン[4]を放出する。それにより多幸感が生じる。これは一般に報酬系と呼ばれ、依存症を形成する[8]。 41件の二重盲検研究を使用したメタアナリシスにおいて認知能力を向上させる作用があると結論付けられている[9]。また脳血流の増加が確認された[10]。 副腎髄質に作用し、アドレナリンの分泌を促進する。その結果血圧、血糖値の上昇、発汗などの現象が起こる[11] ニコチンは代謝酵素であるシトクロムP450ファミリーの発現を誘導する[12][13]。このためたばこの喫煙者はシトクロムP450で代謝される薬の効きが悪くなり、治療効果が得にくくなることがある。 1970年代にイギリスのモーズレイ病院の精神医学研究所にて、たばこにおけるハーム・リダクション(有害性低減)が提唱され、先駆者のマイケル・ラッセルは、ニコチンのために喫煙しながらタールによって死んでいると述べたが、2007年にも、英国王立医師会のタバコの助言に関する報告書は、ニコチン自体は危険ではなくタバコの代替品として提供されれば、数百万人の人命を救えることを報告している[14]。ニコチン置換療法でのニコチンの提供では、33000人以上の観察研究やメタアナリシスによって、心血管疾患のリスク上昇がみられていない[15]。 ニコチン蒸気を吸入する電子たばこは燃焼されたタバコよりもはるかに害が小さい可能性が高い[4]。 日本では、ニコチン依存症を治療するためのニコチン製剤であるニコチンパッチやニコチンガムが医薬品として承認されている。 ニコチンはADHD、強迫性障害、統合失調症、うつ病、アルツハイマー病などの認知能力および行動の制御になんらかの問題を生じる疾患および障害に対し治療効果があることが実験結果により確かめられている。そのためニコチンと同様の薬理作用を持つ治療薬の開発が進められ、医薬品として承認、販売されている。 詳細はニコチン性アセチルコリン受容体作動薬を参照。 ADHDと診断された人の喫煙率が高いことは良く知られている。これは自己治療仮説で最もよく説明され、薬理学的根拠と実験結果により支持されている[16]。ニコチンパッチの投与直後に認知能力が改善された研究報告がある[17]。 ニコチンが強迫行動を抑えることが示唆されている。8週間のニコチンガムの使用によって5人の被験者中4人の強迫性障害が改善された[18]。薬物を用いて強迫症状を誘発させたラットにニコチンを投与すると強迫症状が低減された[19]。 詳細は喫煙と統合失調症 ADHDのケースと同様に、統合失調症と診断されている人の喫煙率は極めて高いことが、20カ国以上で行われた研究によって判明している[20]。2006年の米国の喫煙者の割合は全人口においては20%であったが、統合失調症患者においては80%であった[21]。 原因として統合失調症の症状および抗精神病薬の副作用による認知能力の低下をニコチンで補う自己治療仮説などが考えられているが[20][22]、未だはっきりした結論は出ていない。 統合失調症患者の平均寿命は健常者の80%程度と低いが、それには高い喫煙率が深く寄与していると考えられている[21][4]。 長期的な低用量のニコチン暴露が、受容体の脱感作を引き起こし、抗うつ効果が現れることが確認されている[23]が、女性によるたばこの喫煙では、うつ病の罹患リスクが高まる[24]。 ニコチンは神経保護作用によりアルツハイマー病の予防および治療効果がある[25]。この効果はニコチンの食欲抑制効果と関係があることが示唆されている[26]。 アメリカ合衆国においてはニコチン性アセチルコリン受容体作動薬 しかし、近年、アルツハイマー病に対するニコチンの効果についてはほぼ否定されている。 ニコチンには殺虫作用があり、農薬として利用されてきた。1990年代からニコチンの化学式を真似たネオニコチノイド系の農薬が多数開発、販売されており、ニコチンの農薬使用量は減っている。しかしネオニコチノイドは、蜂群崩壊症候群の原因になっているとして、環境団体から非難されている[28]。 特に乳児と幼児は、誤ってタバコを飲み込むことでニコチン中毒の事故を起こしている[4]。
薬理作用
中枢神経系
報酬系の刺激
認知能力の向上
交感神経系
遺伝子発現
利用
禁煙補助
医学的研究
ADHD
強迫性障害
統合失調症
うつ病
アルツハイマー病
農薬
毒性
急性毒性詳細は「ニコチン中毒」を参照
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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
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