ナワトル語
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ナワトル語では o と u を音素として区別せず、歴史的なつづりが安定しないが、現代の正書法では o とつづられ、u という字は二重音字の一部(cu, uc, hu, uh, qu)としてのみ出現する[10]。長母音はマクロンを加えて ? ? ? ? のように表記される。

現代ナワトル語諸方言では母音の長短は失われており、文献でも記されることが少ないため、長短どちらであったかを定めることが難しい場合が存在する[4]
音節構造

ナワトル語の音節構造は単純で、V, VC, CV, CVC のいずれかである[4]。(C)V(C)と略すことができる[11]

音節末の位置ではいくつかの子音が弱化する[9]

鼻音は日本語の「ん」のように調音位置のはっきりしない1種類のみになる。正書法上nと書かれる。

接近音 l uh y /l w j/ は無声化する。とくに y は無声化した結果 x /?/ と区別がなくなる。

子音結合

ナワトル語では1音節内に子音結合が出現することはない。接辞がついた結果子音が連続する場合には、間に母音(iであることが多い)が挿入される[12]

l で終わる音節に tl が後続する場合、tl は l に変化する[13]
強勢

強勢は原則として最後から2番目の音節に置かれる。例外として呼びかけの後置詞eがついた場合(呼格)は最後のeに強勢が置かれる[4][14]
文法
人称接辞

動詞にはその主語の人称を表す接頭辞が必ず加えられる[15]。複数の場合は動詞のうしろに複数接尾辞 -h も加えられる[11]。いくつかの動詞の複数形は不規則である[16]。動詞語幹が子音ではじまるときは、音節構造の制約によって接頭辞n-, t-のうしろに母音iが挿入される。また、二人称複数は子音が後続するときにmが後続子音に同化して同器官的な鼻音になる[17]。他動詞の場合には目的語接頭辞を主語接頭辞のうしろに加える必要がある[18]。ほかに不定の人を表す -t?-、不定の物を表す -tla- の2つの非人称目的語接頭辞がある[4][19]。また「自分自身」を表す再帰接頭辞(一人称単数 -no-、一人称複数 -to-、それ以外 -mo-)がある[20]。名詞については所有接頭辞が加えられる[21]

主語接頭辞所有接頭辞目的語接頭辞独立代名詞
一人称単数n(i)-no--n?ch-neh, nehhu?tl
二人称単数t(i)-mo--mitz-teh, tehhu?tl
三人称単数?-?--c-/-qu(i)-yeh, yehhu?tl
一人称複数t(i)-to--t?ch-tehhu?n, nehhu?ntin
二人称複数am-amo--am?ch-amehhu?n, amehhu?ntin
三人称複数?-?m--quim-yehhu?n, yehhu?ntin

名詞

名詞には所有接頭辞を加えた所有形と、そうでない絶対形の区別がある。また単数と複数の区別がある[4]。わずかな例外を別にして、有生性を持つ名詞のみが複数形を持つ[22]。たとえば「女」を意味する語幹 cihu?- は絶対形の接尾辞 -tl を加えて cihu?tl になる[23]。所有形では所有接頭辞を加え、所有形の接尾辞 -uh を加える。たとえば「私の女(=妻)」はnocihu?uh になる[4][24]

絶対形の接尾辞は単数では通常 -tl(i) である。語幹が母音で終わる場合には -tl、子音なら -tli(lで終わる場合には-li)になる[25](例:?-tl「水」、miquiz-tli「死」、cal-li「家」)。ただし一部の語は michin「魚」のように -in で終わる(主に動植物)。また chichi「犬」のように語尾がつかない語もある[26]。複数形の絶対形語尾は -h(母音の後)、-tin(子音の後)、-meh のいずれかになるが、どれが加えられるかは語ごとに覚える必要がある。また語尾が -meh 以外の場合には単数 te?-tl、複数teteo-h「神」のように複数で第1音節が反復される語もある[27]

所有形の接尾辞は単数で -uh(子音の後では脱落する)、複数では -hu?n である[4][28]。所有形では語幹末の短い母音a/iは原則として脱落し、-uhは加えられない(例:nacatl「肉」- nonac「私の肉」、m?itl「手」- nom?「私の手」)[29]

名詞はそのまま述語になり、動詞と同じように主語の人称接頭辞が加えられる。たとえば otomitl「オトミ」に一人称単数主語のn-を加えたnotomitlは「私はオトミである」という意味になる[30]。三人称の接頭辞はゼロなので、cihu?tlは「女」という名詞とも、「それは女である」という文とも解釈できる[4]。このためにナワトル語には単語という概念は不要と主張する学者もある[31]

ナワトル語には名詞と形容詞の区別が存在しない。意味上で名詞的なtl?catl「人」も形容詞的なcualli「良い」も、形態の上で区別がないだけでなく、統辞論上も主語・目的語・述語のいずれにもなれ、他の名詞を修飾することもできる[32]

限定詞inは、名詞の前に置かれて定冠詞のように働く。動詞の前に置かれると動詞を名詞化し、時を表す従属節[33]、間接話法[34]、関係節[35]のように使われる。


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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