ナスカの地上絵
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マリア・ライヘなどによる暦法関連説

地上絵の線についてはマリア・ライヘが、夏至冬至に太陽が日没する方向に一致するものがあることを明らかにした。さらにマリア・ライヘは、平行でない一連の直線は数世紀にわたる夏至と冬至に日没する方向を示していると考えている。また、ホーキングも線の方向についてコンピューター分析を行ったところ、1年の太陽の運行の方向に合うものが偶然と考えられる場合の2倍に達するという結果を得ている。

このことからナスカの地上絵には暦学的性質があることがわかる。乾燥した南海岸地域の人々にとって夏至と冬至は、雨季乾季の始まりであり、当然農業を行う時期や祭儀などに深く関連することが推察できる。

しかし、数百本という線から構成される地上絵で天体の運行と一致するものはあまりにも少ない。暦法関連説では、その一致しない地上絵の説明は全くつかないため、現在この説を単体で支持する学者は多くない。
社会事業説

イリノイ大学のザウデマ (R. Tom Zuidema) のインカ社会についての研究に、次のような事例がある。インカの首都クスコからは、あらゆる方向に仮想直線が伸びていて、その位置は、一連の神殿によって示されていた。そして1年中毎日、クスコの住民のうちそれぞれ違う一族がそれぞれ違う神殿を礼拝した。クスコの「谷の広場」には、1年の儀式カレンダーが精密に記され、農耕順序や社会的義務や軍事活動などに関する情報は、その都度、クスコの人々に象徴的に伝えられた。またインカの人々は、クスコを「ピューマ」とよび、そこの住民たちを「ピューマの体内の構成員」と呼んだ。谷間の地形によって多少歪んでいるものの、都市計画としては、クスコはピューマに似たプランで築かれている。

ワリ「帝国」の研究で知られるW.イスベルは、ナスカの地上絵の機能について、この事例が参考になると考えている。

また、ナスカの社会には、ワリやクスコのような中央集権的な食料管理制度と食料貯蔵施設がなく、局所的、家族的なレベルで豊作時の食料を保管していたので、豊作時に人口が増え、不作時に死亡者がでやすい状況にあった。そのため、豊作だった場合の個人貯蔵分について、大規模な労働力を投入する必要のある儀式活動に注意を向けさせ、祭祀「施設」の「建設」=地上絵を「描く」活動に従事する労務集団に食糧を供給するために強制的に取り立てるシステムができていて不作時に備えていた、とイスベルは考えている。そして、一方で、暦に関する資料については、暦を特に天文学的観測と詳しく照合する必要のあるときには、キープによる方法は非実際的で、記録することは難しいと考えられる。このことから、利用可能で最も永続する素材としても地表が選ばれた、と考えている。高密度なネットワークと多くの直線

イスベルのこの考え方は、彼がインカや先行するワリの研究から、日本の律令時代の雑徭のような労働力を税として「公共事業」に提供する制度であるミタ制度の先駆と想定していると推測される。

研究者たちは、「文字を持たない社会がどのように組織を動かすか」という重要な情報を貯えようとする試みが、地上絵に反映されていると考えている。
雨乞い儀式利用説

ナスカの地上絵が作られた理由については、「ナスカの地上絵は一筆書きになっており、それが雨乞いのための楽隊の通り道になった」という、ホスエ・ランチョの説もある。ペルーの国宝の壺にもこの楽隊が描かれたものがある。また、現在も続いている行事で、人々は雨乞いのために一列になって同じ道を練り歩く。この道筋としてナスカの地上絵が作られた可能性がある。ナスカの東にあるボリビアの村では、今でも楽隊や人々がライン上を歩く儀式が行われていることが人類学者であるヨハン・ラインハルトの調査で判明した。[8]地上絵の線の上や周辺から、隣国エクアドルでしか取れない貴重なスポンディルス貝(鮮やかな赤い色をしたウミギク科の貝)の破片が見つかっている。当時は雨乞いの儀式でこの貝が使用されたことが他の遺跡研究から分かっている。そのため、ペルー人考古学者のジョニー・イスラも雨乞い説をとっている。
灌漑、水のコントロールに活用された説

米国のGregory Charles Herman博士は、ナスカに書かれた大量の直線と多くの台形および長方形が「水の流れをコントロールするため」に作図されたものである可能性を指摘した[9]

この線群は、自然の水理地質学的条件を人為的に拡張し、山の小川を流れ落ちる季節の雨水を「帯水層の上にある灌漑用の畑にそらす」ために作成されたと主張する。ナスカのラインは、山の流出を砂漠の帯水層に注ぎ込むために、緩やかに自然傾斜された地層の断層ブロックが配置されている頂点の東側の側面で作られているという。しかし水路にしては線が浅すぎる、線のネットワークが多すぎることがこの仮説が支持される可能性を低くしている。
他の遺跡を指し示している標識、方向指示器説ナスカ土器のデザインは現代でも通用するジオメタリックパターンを駆使した絵となっている

静岡県在住の作家、オカルト研究家であるはやし浩司氏は、ナスカに描かれている台形と幾何学図形が、遠方にある他の古代遺跡や国、山の方向を向いていることを指摘している。[10]しかし、これだけ多くの三角形や直線が存在していると全方位を指示していることになり、この仮説は眉唾物であると考えられる。また彼はナスカ台地から地球面における対蹠点である場所が、アンコールワットであることや、レイライン仮説と併せてこの説を提唱している。
推定されている描画の方法
拡大法

様々な図形を大規模に描き上げた方法としては、十分な大きさの原画を描き上げた上で適当な中心点を取り、そこを起点にして放射状に原画の各点を相似拡大する方法、「拡大法」が採られたという説が提唱されている。成層圏などの超高々度からでなければ見えないものもあるため、上記のような方法で本当にできるのかと指摘されたこともあるが、地上絵の端にあった杭の存在や、地上絵の縮小図の発見などを考えると拡大説が妥当と考えられている。

九州産業大学工学部の諫見泰彦准教授[11](建築教育学)はこの方法を参考に、小学校の算数の総合学習として、児童による画鋲2個と糸1本のみを使ったナスカの地上絵の再現(実物大再現を含む)を、グラウンドや体育館で20回以上実践。児童15名から160名により、いずれも開始後150分以内で再現に成功した。ナスカの地上絵を題材として、算数の単元「比例」と測量技術とのつながりを体験的に学ぶこの学習プログラムは、独立行政法人科学技術振興機構の地域科学技術理解増進活動推進事業に採択されて全国各地の小学校・科学館等で実施され、基礎科学教育分野の優れた実践研究成果として第5回小柴昌俊科学教育賞(財団法人平成基礎科学財団主催)を受賞した。この研究成果により、日本の小学校程度の算数の知識があれば、地上絵の描画は充分可能であることが証明された。

地上絵の再現(測量)

地上絵の再現(描画)

目視による描画

山形大学の坂井正人教授(文化人類学・アンデス考古学)は現代のナスカでも地上絵が描かれていることを知り、2008年の夏に現地調査を行った[12]。2003年に、この地方に住む2人の女性が30分ほどかけて山の斜面に30m以上の大きさがあるキリスト教の聖母像を制作していた[12]

絵を描く手法はこの地域で行われている畑に種をまく時の方法を応用したものであった[12]。この地域では、種まきをする際、複数人が横1列に並び、同じ歩幅で一緒に前進する。計測用具は使用せず、目と歩幅で距離を測定する。女性たちはこれと似た方法で右と左に分かれ、歩幅をそろえて協働しながら絵を描いたと坂井に説明したという[12]

坂井は制作者にキツネの写真を渡し、20mほどの地上絵制作を委嘱したが、2人は写真を見ただけで歩幅を割り出し、15分程度で絵を描いてみせた[12]。片足で地面の表面を覆っている黒く酸化した石を蹴飛ばして取り除き、その下の岩石を露出させて大地に白い線を描くという手法を用いていた[12]。この場合、線の幅は20cmほどとなる。ナスカ期の動物の地上絵に関しても、後の調査で線の幅が20cmほどであることがわかった[12]

坂井教授はこの話を参考に、2009年秋、山形県天童市立天童中部小学校でこの手法を用いて絵の制作を試みた。児童及び保護者により校庭で制作が行われ、大型の地上絵を製作することができた[12]
現代の産物との誤認

近年、アメリカの資源探査衛星ランドサットが南緯14度45分 西経75度15分 / 南緯14.750度 西経75.250度 / -14.750; -75.250 (arrow)付近で撮影した画像に、全長50kmにも及ぶ巨大で正確な矢印を発見し[13]、「全長50kmにも及ぶ巨大な幾何学図形が発見」と報告された[14]が、2009年の科学研究費助成事業報告においてALOS画像報告とともに「送電線」「道路」と解説されている。送電線と道路によって出来た現代の産物を地上絵として誤認してしまう事例もある[15]。しかし現代人がここ100年間構築した道路や送電線は、知らず知らずのうちにナスカの地上絵として古代人が描いた直線の上に整備されてしまっている事例もある。ナスカの直線ネットワークは引いて見た場合だと確認しにくいが実際には巨大であるため、そのネットワーク全体を作品として考える場合は、現代の産物を取り除いて認識することが重要である。
世界遺産の登録

1994年12月17日、UNESCOの世界遺産(文化遺産)に登録された。


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