ナショナリズム
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2020年新型コロナウイルスパンデミック発生の際に、以前より燻っていた人種差別、国家間の利権争いが露骨に表面化した結果として、ナショナリズムが台頭することになった[29]。(コロナ禍
主な学説
19世紀
ルナン

エルネスト・ルナンは、講演『国民とは何か? (Qu'est-ce qu'une nation?) 』で、フィヒテに代表されるような民族・言語の共通性などに立脚する「ネイション」概念を否定した。彼によれば、「ネイション」とは民族・言語・宗教・地勢などによって定められるのではなく精神的な原理に立脚するものであり、彼の代表的な言葉を借りれば「日々の国民投票」によって形成されるものとされる。
20世紀後半
アンダーソン

ベネディクト・アンダーソンの主著『想像の共同体』は「新しい古典」とも言われ、ナショナリズム論に関する必読書の一つとなっている。書名にもなっている「想像の共同体」とはネイション自体を指す。ネイションは言語、文化、遺伝的近親性(人種)などを共通項として形成されるとされるが、ネイション内にも文化的差違は存在するし、全成員が血で結ばれているネイションはほとんど存在しないなど、いずれも決定的な要因ではない。むしろ実際に血がつながっているかということなどは問題ではなく、これらの要素を共有していると想像し、成員が「共同幻想」を共有することによってネイションは成立しているとされる。すなわちネイションとは「心に描かれた想像の政治的共同体である」。アンダーソンは前近代の小さく同質性の高い共同体が「想像の共同体」であるネイションに拡張された要因を出版資本主義(英語版)の発展に求め、ネイションの公用語たる世俗語による新聞が「想像の共同体」形成に大きく寄与したとする。このようにネイションの形成過程の考察にかんして事実上の標準に近い位置にあるアンダーソンであるが、最近ではグローバリゼーションに対応したナショナリズムである「遠隔地(遠距離)ナショナリズム」という概念を提示している[30]
スミス

アントニー・D・スミスは前近代に見られたネイションに似た民族集団を「エトニ」と名づけ、近代の産物であるネイションとは区別した。ネイションはあるエトニが他の周辺エトニを包摂していくことによって成立したとされ、近代以前からの古いエトニの伝統を引き継ぎつつも、近代に成立した新しい存在であるとされる。またスミスはエトニを貴族的な水平エトニと平民的な垂直エトニに分け、両者の性質の違いから個々のエトニの動員力や連続性、拡張性を説明している。スミスは近代主義を批判しているが、必ずしもアンダーソンと主張が対立するわけではない。むしろ、中核エトニが周辺エトニを包摂していく過程にかんしてはアンダーソンの想像の共同体を援用すらしている[31]。アンダーソンも前近代における共同体の存在は否定しておらず、血縁などによるなど狭い範囲の共同体が近代になり、より広い共同体の一部となったとしていることから、スミスとアンダーソンの主張は、近代主義とその批判というよりも、相互に補完しあうものとなっている。アンダーソンが「遠隔地ナショナリズム」と呼ぶ現象についても、スミスは「代償ナショナリズム」として言及している。
その他

アン・マクリントック氏は、ナショナリズムは作り出されたアイデンティティーの構築物であり、特にジェンダーに焦点を当てていると言う。彼女は、ジェンダーの違いが制度化されていることを論じ、国家が「国民が国民国家の資源にアクセスすることを制限・正当化する」能力を持つ文化表象であるため、そのことを国家と結びつけている[32]
類型

ナショナリズムは様々な類型を持つ。

民族主義(エスニック・ナショナリズム)はしばしばナショナリズムと同一視されるが、必ずしも同じものとは言えない。民族と国家(あるいは「あるべき国家像」)の範囲が重複した場合は類似したものとなる場合もあるが、一国家に一民族しか居住していないということはほぼありえず、国家の主流派民族の推進するナショナリズムと、自治権や独立を求める少数派民族の民族主義が衝突することは珍しくない。逆に、スイスのように自国を各民族の連合体として定義している場合、ナショナリズムは民族を超越したところに基準が置かれ、連邦を構成する各民族の民族主義とは対立することとなる[33]。また、同一民族の国家が複数存在する場合、現在の国境を越えて同一の文化や言語を共有する広い地域の政治的統合を目指す汎民族主義(英語版)も、汎アラブ主義など世界各地域に存在する。ある民族の居住する地域がいくつかの国家に分断されている場合、その統一を目指す民族統一主義も世界各所に存在し、大ソマリア主義のように戦争にまで至った例もある。

言語はナショナリズムの要素として重要なものである。19世紀中に国民国家化した諸国は自国の言語の体系化と整理を行い、標準語を定めてこれで教育や行政を行うことが多かった。これにより各国における主要言語の変種は方言とされ、また少数民族の言語はややもすると排斥された。こうした言語ナショナリズムは第二次世界大戦後の新独立国においても導入した国家が存在し、たとえばインドネシアマレー語の方言を整備してインドネシア語を成立させ、これで教育や行政を行った[34]タンザニアにおいては初代大統領のジュリウス・ニエレレが海岸部の言語であった交易言語のスワヒリ語を整備して教育用語とし、国民意識の形成を行った[35]インドにおいてはヒンドゥスターニー語による言語統一を目指す勢力もいたものの、各地方の反発によって頓挫した。そのかわりにインドでは言語と州境の一致が目指されるようになり、旧来の州は言語を基準とした言語州へと再編された[36]

その他、以下のものをはじめとしてさまざまな類型が存在する。

左翼ナショナリズム

経済ナショナリズム

国民自由主義(ナショナル・リベラリズム)

ナショナル・ロマンティシズム(民族的ロマン主義または国民的ロマン主義)

国民保守主義

民族統一主義

民族ボルシェヴィズム(ナショナル・ボルシェヴィズム)

資源ナショナリズム

汎民族主義(英語版)

宗教ナショナリズム(英語版) - アメリカなどにおけるキリスト教ナショナリズム(英語版)が典型例

ナショナリズムは国家と民族を重ね、公的生活と私的生活の両方にまたがるアイデンティティの中核に民族を置き、他民族など外部との差異を強調する[37]。このような思想を表現する言葉としてドイツ語のVolkstum(ドイツ語版)、日本の「国体」がある[37]

一面では排他的な自民族中心主義を刺激することがあり[38]、極端な場合に超国家主義(ウルトラ・ナショナリズム)や自民族至上主義(英語版)として発露しうる[39][40]
脚注[脚注の使い方]
注釈^ アンダーソンは出版資本主義を近代に特徴的な要素として挙げ、ゲルナーは国家による教育制度を指摘する。

出典^ a b ブリタニカ国際大百科事典、他
^ Harper, Douglas. “ ⇒Nation”. Online Etymology Dictionary. 2011年6月5日閲覧。.
^ ゲルナー、2000年、p.1
^ 姜、2001年、p.5あるいはホブズボーム、2001年、p.10など
^ nationalism - Stanford Encyclopedia of Philosophy
^ 丸山眞男著 『現代政治の思想と行動未來社、2006年新装版、279ページ
^ E.H.カー『ナショナリズムの発展(新版)』(みすず書房、2006年)あるいはB.アンダーソン『増補 想像の共同体』(NTT出版、1997年)の「訳者あとがき」など
^ 橋川、1968年、p.16
^ スミス、1999年およびアンダーソン、1997年参照。


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