北半球・南半球ともに緯度20度から70 - 80度にかけて[5]。北半球では、地中海やコルテス海やオホーツク海や日本海や黄海・渤海等の付属海にも分布する[5]。
極地などを除く世界中の海に生息するが、熱帯海域ではあまり見られない。そのため、南半球の個体群と北太平洋、北大西洋の個体群は地理的に隔絶されている。
概して外洋性である場合が目立つとされるが、陸上から観察される事もあるなど沿岸部に寄る事も珍しくなく、海峡や水路を利用したり[注 6][18]、地中海やカリフォルニア湾の様な陸地に囲まれた海域にも分布する。現在の地中海とジブラルタル海峡に通常分布する唯一のヒゲクジラ類でもある。過去には日本列島の瀬戸内海を利用していた可能性も指摘されている[19]。
地中海とコルテス海には定住群または半定住群が存在し、大きさや形態や行動様式などにも外洋性の個体群と若干の違いが見られる。たとえば、ランペドゥーザ島(イタリア)の様に、中・低緯度海域における冬季の採餌場も存在する事が判明している[20]。また、地中海においては定住群と北大西洋からジブラルタル海峡を通過して回遊してくる個体が共存している[21]。
また、東アジアにはかつて複数の地方定住群または半定住群が存在していたとされ、回遊のサイクルなどの生態面だけでなく、大きさや形態に若干の違いがあった可能性がある。黄海・渤海、東シナ海、北海道から三陸沿岸、日本海北部、より広域の日本海などにその様な地方個体群が存在した可能性が存在するが、これらは捕鯨によって消滅したり、生存しているとしても激減したと思わしい[7][22][19]。
リグリア海のぺラゴス海獣保護区(英語版)
コキンボ州(チリ)
ラズベリー海峡(英語版)
スヴァールバル諸島
形態胴体右側の色合い(ポーキュパイン・シーバイト)噴気孔
体長20-26メートル、体重30-80トン。最大全長はオスが25メートル、メスが27メートル[5]であり、現生ではシロナガスクジラに次ぐ体長とピグミーシロナガスクジラやセミクジラ科に次ぐ体重を持つ。
溝(畝)は臍まで達し、数は50 - 60本[5]。背面や側面は黒褐色で、腹面は畝も含めて白い[5]。
体はスマートで細長く、吻端から噴気孔にかけて隆起線が走るが、ごく僅かであるがニタリクジラの様に更に二本の副隆起線を持つものも存在する。背中にも背びれから尾びれにかけて隆起部が存在する。上顎は細長く、先端が尖る[5]。クジラヒゲは髭板も剛毛も青黒色だが、右側の髭の前面だけは乳白色[5]。背鰭は高く三日月形だが、胴体の後方に位置する[5]。背びれの形態は小さく鎌状。一般には先端が尖るが変異も多く、丸い個体も存在する。
体色と背面は濃いグレー、あるいは茶系の黒で腹部は白色。腹部から続く白色の模様が顎の右側まで回り込んでおり、色分けは左右非対称である。また、鯨髭も右側前方のみ白色部がある。
概して、小・中型の個体は同じナガスクジラ科に属するイワシクジラ、ニタリクジラ、カツオクジラ、ライスクジラ(英語版)、ツノシマクジラ等と誤認しやすい。とくにツノシマクジラは、体表の模様に類似性があり、頭部に副隆起線を基本的に持たないなど、ナガスクジラとの外見上の類似性が比較的に強い。
左右非対称の体色
ブロー(アゾレス諸島)
背びれ(セントローレンス川)
痩せて弱った個体(イスラエル・カイサリア・マリティマ)
生態採餌の光景採餌の光景
主に亜熱帯から寒帯にかけての外洋に生息する[5]。夏季は、採食のために高緯度地方へ回遊する[5]。
単独または数頭の群を作る。また、他のヒゲクジラと同様に、定住群を除き、1年の3分の1の期間のみ、極地で餌を捕食して繁殖のために温帯へ回遊している。
北半球ではサンマ・シシャモ・ニシン・イワシ類・サバ類などの魚類を、南半球ではオキアミ類を主に食べる[5]。群れた獲物に突進して海水ごと口内に含み、海水を鯨髭の隙間から排水しつつ鯨髭で獲物を濾し取って食べる[5]。
ナガスクジラの摂食様式は突進採餌[注 7]と呼ばれている。これは海水中を高速で泳ぎ、海水に含まれる小魚やプランクトンを濾し取る濾過摂食の一種である[23]。
ナガスクジラの尿の生成量は一日に974リットル程度と推算されている。これは海水を大量に飲んでいるわけではなく、排出される水分の大部分は餌であるオキアミ等に由来する[24]。
繁殖様式は胎生。主に冬季[注 8]に、交尾を行う[5]。妊娠期間は11か月[5]。授乳期間は6 - 7か月[5]。