ドライブ・マイ・カー_(映画)
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みさきは「上十二滝村」という北海道の小さな集落で、母親一人に育てられていた。水商売をしていた母親は、まだ中学生のみさきに車を運転させて仕事場へ通った。車の運転がまずいと、母親は容赦なくみさきに手をあげ、それが理由でみさきは丁寧な運転を覚えるようになった。

しかし、あるとき大雨で地滑りが起き、自宅が土砂に呑み込まれる事故で母親は亡くなった。一人になったみさきは何ひとつあてがないまま、無事だった車で家を離れ、ひたすら西をめざした。たまたま車が故障した広島で、そのまま新しい生活を始めたという。

そしてワーニャを演じる高槻も、家福に近づきはじめる。ひそかに妻と寝ていたかもしれない相手に、家福は夫婦の秘密を明かす。妻の音には、別に男がいた。音との日々の暮らしは、とても満ち足りたものだと自分は思っていた。しかし妻は自然に夫を愛しながら、夫を裏切っていた。夫婦は誰よりも深くつながっていたが、妻の中には夫が覗き込むことのできない黒い渦があった。かつてワーニャ役で名声を得ながら俳優としてのキャリアを中断したのは、チェーホフの戯曲が要求する「自分を差し出すこと」に耐えられなくなったからだ。家福は、そう高槻に話す。

この告白をきいて、高槻も音から聞いたという物語を語り始める。それは、音が家福とのセックスのさなかに語った物語の続きだったが、家福が知っていたよりも陰惨で不思議な内容だった。恐ろしいことが起きたのに、しかもそれは自分の罪であるのに、世界は穏やかで何も変わっていないように見える。でもこの世界は禍々しい何かへと、確実に変わってしまった。高槻は音からきいたそのような物語を、みさきの運転する車の中で、家福へ向かって語り続ける。

北海道へ

演劇祭は準備期間を終え、ようやく劇場での最終稽古が始まる。しかしある事件が起き、高槻が上演直前になって舞台を去る。事務局は家福に、このまますべてを中止するか、家福が高槻のワーニャ役を引き継いで上演を続けるかの選択を迫る。猶予は二日間しかない。

大きな衝撃を受ける家福。どこか落ち着いて考えられるところを走らせようと提案するみさきに、家福は、君の育った場所を見せてほしいと伝える。そして渡利は休みなく車を走らせ、二人の乗った赤の「サーブ900ターボ」は北海道へ向かう。

その車内で、家福とみさきは、これまでお互いに語らなかった大きな秘密をついに明かす。そしてかつてみさきが住んでいた生家の跡地に着き、静まりかえる雪原の中に立ったとき、家福は妻から大きな傷を受けたというこれまで自分が目をそむけてきた事実、そして自分が妻に抱いていた感情の真の意味にはじめて直面する。

エピローグ

みさきが韓国のスーパーマーケットで買い物をしている姿からはじまる。韓国語の会話にも慣れているようである。店の駐車場で家福の赤のサーブに乗りこみ、一人で走り出す。車の中にはイ・ユナが広島で飼っていた犬が待っている。またみさきの左頬の傷はすっかり綺麗に治っている。
キャスト

家福悠介:
西島秀俊

渡利みさき:三浦透子

家福音:霧島れいか

イ・ユナ:パク・ユリム

コン・ユンス:ジン・デヨン

ジャニス・チャン:ソニア・ユアン(zh:袁子芸)

ペリー・ディゾン

アン・フィテ

柚原:安部聡子

高槻耕史:岡田将生

木村隆:猪股俊明

スタッフ

監督:
濱口竜介

脚本:濱口竜介、大江崇允

撮影:四宮秀俊

音楽:石橋英子

編集:山崎梓

助監督:久保田博紀・川井隼人

監督補:渡辺直樹・大江崇允

ヘアメイク:市川温子

装飾:加々本麻未

プロデューサー:山本晃久

配給:ビターズ・エンド

製作代表:中西一雄

制作プロダクション:C&Iエンタテインメント

製作幹事:カルチュア・エンタテインメント、ビターズ・エンド

製作:『ドライブ・マイ・カー』製作委員会(カルチュア・エンタテインメント、ビターズ・エンド、ねこじゃらし、クオラス日本出版販売文藝春秋レスパスビジョンC&Iエンタテインメント朝日新聞社

製作米アカデミー賞受賞後、日本で記者会見にのぞむ濱口竜介監督と俳優の西島秀俊2022年4月)、
構想・脚本執筆

濱口は30代半ばの頃、原作小説が初出の『文藝春秋』に掲載された際に人から薦められて読み、「演じる」という主題や車中の会話を通して進行していく物語が、それまで自分が取り扱ってきた物語と近いと感じたという[13]。濱口はその時点では自身が村上作品の映画化をすることにまったく現実味はなかったが、自分がアプローチできる作品かもしれないと思ったと述懐している[13]

2012年から2013年頃、ハルキストであるプロデューサーの山本が村上の別の短編の映画化を濱口に提案した[14]。濱口は、村上作品の映画化に興味はあるが提案された小説は映画化が難しい旨を山本に伝え、代わりに柴崎友香恋愛小説寝ても覚めても」の映画化を提案[14]し、山本プロデュースで映画化した(濱口の商業映画第1作)。

2018年、濱口は山本に「ドライブ・マイ・カー」の映画化を提案した[13]。同小説は、現実に起きることしか物語の中で起きず、基本的にリアリズムをベースにしており、限られた予算でも映画化できると考えたことが提案の理由の一つだった[13]

濱口は短編小説を長編映画へ脚色するに当たり、『女のいない男たち』に収められた短編小説である「シェエラザード」と「木野」の要素を付け加えた。濱口は、村上の長編小説の魅力の一つとして、井戸を掘るように、現実の底に潜在している異界にまで下りていくような感覚と感じており[13]、そういった要素が含まれた「シェエラザード」と「木野」からモチーフを借りることで、村上が長編で展開しているような世界観に近づけようとした[13]


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