ドメスティック・バイオレンス(英: domestic violence、DV)は、家庭内、同居者間での暴力や攻撃的行動を指す、社会的および法的概念である[1][2][3]。「ドメスティック」とは「家庭の」という意味であり、家庭内暴力とも訳される。典型的には、夫婦間やパートナー間の暴力であり[2]、被害者は女性であることが多い[4]。(以下DVと呼称する。ただし、英米では「DV」という略語は用いられていないと指摘されている[5]。)
DVは、親密な関係において一方が他方に対して行う暴力で、親密なパートナーからの暴力の代名詞として使われることが多い。例えば、配偶者や恋人といった親密なパートナー、性的パートナー(元配偶者・元恋人を含む)による暴力である[1][2][6]。本記事では、親密なパートナー・元パートナーからの暴力、虐待を中心に述べる。身体的虐待、性的虐待、心理的虐待などが複雑に重なり合い、長期的・反復的に行われる[1][2][6]。 DVは家庭内での暴力や攻撃的行動を指し、最も広義では、子どもや親、高齢者に対する暴力を含む。配偶者・パートナーからの暴力をDVと呼び、DV、児童虐待、高齢者虐待を含む家族間における暴力を総称してファミリー・バイオレンスと呼ぶこともある[7]。未婚の恋人間で起こる暴力やハラスメント行為は、デートDVと呼ばれている。 DVが問題として認識されるようになったのは比較的最近のことで、1800年代初頭には、ほとんどの法制度では、妻という存在は夫の財産で労働力であり、妻を殴ることは、妻を管理する夫の特権の一部であると暗黙のうちに認められていた[3]。家庭や恋人同士という私的な空間で起きる男性から女性への暴力(暴行やセクシュアル・ハラスメント等)は、長年に渡りありがちなこととして見逃されており、「多くの女性が経験している、日常性に埋没し、隠蔽されてきた問題」であった[5]。DV、特に夫から妻への暴力が防止・解決すべき公的な問題だと考えられるようになったことには、近代西欧フェミニズムの功績が大きい[5]。 1800年代のフェミニズム運動が世論に大きな変化をもたらし、19世紀末にはほとんどの裁判所が、夫が妻を「折檻する」権利を否定したが、現実的に被害女性が助けを求める先はほぼなく、警察もほとんどなにもしなかった[3]。1970年代のフェミニズム運動で、夫から妻へ暴力の問題が明るみに出るようになった[3]。フェミニストは被害女性に、声を上げるよう、DVの責任が被害者にあると考えないよう励ました[3]。女性団体は警察にDVを他の暴行と同様に扱うよう働きかけ、被害者保護のためのシェルターが設立され、この問題に対する一般の意識が高まっていった[3]。 世界的に、DVの被害者は圧倒的に女性が多く、女性に対するドメスティックバイオレンス
概要
DVは、世界で最も報告されることの少ない犯罪のひとつである[10][11]。 男性に対するドメスティックバイオレンス(英語版)は、女性に比べて頻度・深刻度は低い。ただし、男性の被害に対する社会的偏見や嘲笑への恐れのために、通報されにくく、男性向けの支援サービスは少なく、医療関係者が見過ごす可能性も高い[12][13][14][15]。
DVは多くの場合、加害者が配偶者・パートナーを暴行・虐待する権利が自分にあると信じている、あるいは、そうした行為が容認され、正当化され、通報される可能性が低いと信じているときに起こる。DVがある日常を送ることが、子どもや他の家族に虐待を容認させ、あるいは容認されていると感じさせ、虐待の世代間連鎖を引き起こす可能性がある。被害者・加害者の多くは、このような経験を制御不能になった家族間の葛藤であると考え、自分たちが虐待の加害者・被害者であると認識していない[16]。