3ドメイン系は、生命樹を、古細菌(Archaea)・細菌(Bacteria)・真核生物(Eukarya)の3ドメインで構成する。これら3つのドメインには、それぞれ固有のリボソームRNAが存在する。これが3ドメイン系の基礎である。真核生物は核膜の存在によって、核膜を持たない古細菌や細菌と区別される。また、古細菌と細菌は細胞膜とRNAマーカーの生化学的な性質の違いによって互いに区別されている[1]。
古細菌詳細は「古細菌」を参照
古細菌は、典型的には膜脂質(エーテル結合によってグリセロールに結合した分岐炭化水素鎖)を特徴とする原核細胞である。古細菌におけるこれらのエーテル結合の存在は、極端な温度や強酸性条件に耐える能力を高めているが、多くの古細菌は温和な環境に生息している。塩分濃度の高い環境で増殖する好塩菌や、極度な高温の環境で増殖する超好熱菌は、古細菌の一例である[1]。
古細菌はさまざまな大きさの細胞で進化したが、いずれも比較的小さい。その大きさは直径0.1 μmから15 μm、長さは最大で200 μmである。古細菌の大きさは細菌とほぼ同じか、真核細胞に見られるミトコンドリアのそれに近い。テルモプラズマ属のメンバーは最も小さい古細菌である[1]。
細菌詳細は「細菌」を参照
シアノバクテリアとマイコプラズマは細菌の2つの例である。細菌は古細菌と同様に原核細胞であるが、その細胞膜がリン脂質二重層でできている。細菌の細胞膜は古細菌のそれとは異なり、古細菌に見られるエーテル結合を特徴的に欠いている。内部的には、細菌はリボソーム内に異なるRNA構造を持っており、それらは異なるカテゴリーに分類されている。これにより、2ドメイン系と3ドメイン系は、細菌と古細菌を別のドメインに置く。
細菌というドメインには非常に幅の広い多様性がある。その多様性は、異なる細菌系統間での遺伝子交換によってさらに複雑さを増す。遠縁の細菌間に重複遺伝子が存在すると、細菌種を区別したり、地球上の細菌種を数えたり、それらを木構造に整理したりすることはほぼ不可能になる(ただし、枝と枝の間に相互接続が含まれていて「木」ではなく「ネットワーク」となっている場合を除く)[1]。
真核生物詳細は「真核生物」を参照
真核生物と呼ばれるドメイン(domain Eukarya)は、膜で囲まれた細胞小器官(遺伝物質を持つ核を含む)を持ち、植物界(Plantae)、原生動物界(Protozoa)、動物界(Animalia)、クロミスタ界(Chromista)、菌界(Fungi)の5つの界(kingdom)で代表される[1]。
2ドメイン系詳細は「2ドメイン系(英語版)」を参照ゲノム配列に基づく2ドメイン系の生命樹の例。生命の2つのドメインは、細菌 (上側) と古細菌 (下側) である。真核生物は古細菌から分岐する (右下)。
2ドメイン系(英語版)は、生命樹のすべての生物を古細菌と細菌の2つのドメインに分類する生物学的な分類である(真核生物は古細菌に含まれる)[7][8][3]。これには、1980年代にレイクが提唱したエオサイト説が先行したが[9]、当時の証拠により3ドメイン系にほぼ取って代わられた。その後、2017年にアスガルドと呼ばれる古細菌の大きなグループ(上門)が発見され[10]、それが真核生物の進化的ルーツとなり、真核生物が古細菌ドメインのメンバーであることが示唆されたことから、2ドメイン系はより広く受け入れられるようになった[11]。
アスガルド古細菌の特徴が3ドメイン系を直接否定するものではなく[12][13]、真核生物は古細菌に由来し、したがって古細菌に属するという考え方は、遺伝子やプロテオミクスの研究によって強化されている[14]。3ドメイン系の場合、真核生物は主に、古細菌や細菌には見られない「真核生物のシグネチャータンパク質」の存在によって区別される。しかし、アスガルドにはそのようなタンパク質をコードする遺伝子が複数存在しており、これは「真核生物のシグネチャータンパク質」は古細菌に由来することを示唆している[3]。
最上位の分類体系の比較詳細は「生物の分類」を参照
生物の最高階級の分類は、基礎をなすゲノムの進化の違いや細胞の基本的な構造に基づいており、前提となる系統樹の違いによりさまざまな分類方法が提案されている。次にいくつかの例を示す。
2帝系 (1998)
1998年に、エルンスト・マイヤーが提案した2帝系(英語版)は、生物全体を原核生物(またはモネラ)と真核生物の2つの最上位グループに分けるものである[15][16]。
エオサイト説 (1984)
1984年に、ジェームス・A・レイク(英語版)らが提案したエオサイト説[17]は、細菌と古細菌という2つのドメインを仮定し、真核生物は古細菌から分岐した下位クレードに含むとする[18][17][19]。
5ドミニオン系 (2012)
ウーズらによる3ドメイン系には、プリオンやウイルスのような細胞以外の生命(英語版)は含まれていない。2012年、Stefan Luketaは、従来の3ドメイン系に Prionobiota(無細胞で核酸を持たない)と Virusobiota(無細胞だが核酸を持つ)を加えた5ドミニオン系を提案した[20]。(参考: ウイルスの分類)
2スーパードメイン
Acytota/Aphanobionta と呼ぶ非細胞生命(英語版)を分類の最上位に位置づけた研究者もいる[21]。これにより、非細胞生命と細胞生命の2つのスーパードメインが定義される可能性があるが、議論の余地もある。
無細胞生物を含めた生物学的分類分類学的ルートノード2スーパードメイン
(議論あり)2帝系(英語版)3ドメイン系(英語版)5ドミニオン[22]
5界6界エオサイト説
2ドメイン系(英語版)
生物群 / 生命
Biota / Vitae / Life非細胞生物
非細胞生命(英語版)
Acytota / Aphanobionta
Virusobiota (ウイルス, ウイロイド)
Virusobiota (Viruses, Viroids)
Prionobiota (プリオン)
Prionobiota (Prions)
細胞生物
Cytota原核生物
(モネラ)
Prokaryota / Procarya