ドナルド・トゥスク
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例として、トゥスクは多くの国有大企業の民営化計画を推進するという自由主義的な改革を行う一方[29]スウェーデンの巨大小売コングロマリットの「イケア」は法と正義(PiS)党が政権与党時代に行った統制主義的な改革である大規模小売店舗法の改正で巨大店舗が以後ポーランドに進出できなくなった、と不満を述べていること[30]に対し、全国の若い中小零細企業の成長を後押ししたいトゥスクも、巨大店舗出店に関わる規制を再度緩和させようなどという動きを見せていない、といったことが挙げられるが、さらに農民党党首かつ元首相で第1次トゥスク内閣では副首相と経済相を務めたヴァルデマル・パヴラク(英語版)を派遣し全世界のイケア・グループの経理を担当する経理部をポーランド国内に誘致するという日本円にしておよそ1800億円の対内投資案件を交渉していると言われる[31]

ポーランドの週刊誌とのインタビューで自身のマクロ経済の認識について「あなたはケインズ派かそれともフリードマン派か?」と記者から問われたトゥスクは、「ケインズもフリードマンも思考の役には立つが、実際にはたいして役に立たないよ。」と、ケインズ経済学諸派とフリードマンに代表されるマネタリズムおよび新しい古典派の諸派の双方を纏めて斬って捨て、「もし私が自分の考えを誰かのものに例えるとするならば、いまのところはフリードリッヒ・フォン・ハイエクだと答えておく。景気循環についての話のなかでハイエクは、銀行が信用を拡大することによって引き起こされる人工的な景気上昇はいかなるものであろうと銀行自身の損となる結果で終わる、という事実を強調している。こんにちアメリカ金融機関の経営哲学には、(恣意的に需要を創出する、あるいは恣意的に均衡を達成する)成果を求めて(市場に)介入するような類のケインズ的な調整をやらかす伝統があまりに多く見て取れるが、そういう成果というのは実際にはただ単に一時的なものに終わってしまうものだ。」と答えている[32]。すなわちトゥスクはケインズもフリードマンもどちらも結局はハイエクの用語の『設計主義的合理主義』(Constructivist Rationalism)なのである[注釈 1]と認識していること、設計主義的合理主義の経済政策は役に立たないどころか(恣意的な信用拡大によって)政策目標達成は短期的で終わりかつその後にかえって悪い事態をもたらすにすぎない無理政策だと考えていること、これに対してハイエクの提唱していた『進化論的合理主義』(Evolutionary Rationalism)に賛同および立脚していることが明らかで、彼が弁証法を用いてマクロ経済を高度に理解していることがはっきりとわかる。また、長期フィリップス曲線の特徴に関しては上に引用したインタビューの最後でフリードマンの主張に明確に同意している。

このようにトゥスクの『穏健な自由主義』(low-key liberal)の理念はあらゆる意味で合理的に導かれたものであり、経済においてはハイエクの理論の本質を理解し実行に移している政治家としてヨーロッパでは各方面で多くの期待を集めている[32][33][34][35][36]

政治思想としては穏健ではあるが、個々の政策の実行段階においては必要に応じて大鉈を振るうことがあり、医療制度改革国有大企業の民営化はその典型例である。また閣内においても強権的に振る舞うことがあった[37][38]

トゥスクの第1次内閣における首相としての評価の一つに、人事能力が挙げられている。2008年後半から起こった世界金融危機のなか有能な人物たちを適材適所に配置、ポーランドの経済を巧みな舵取りで制御して景気後退を回避し、同時に財政規律問題、将来のユーロ導入準備、国と地方の役割分担の見直し、国内のビジネス環境と労働環境の整備、全国高速道路網の整備や巨大エネルギー備蓄施設といった大型公共事業の推進、他国へ出稼ぎに出ていた自国民の呼び戻し(大型公共事業推進と国内の新産業創出のため)、第14回気候変動枠組条約締約国会議(COP14)主宰などといった自然環境保護、医療制度改革、教育制度改革、年金制度改革、ロシアドイツウクライナベラルーシなどといった近隣諸国との関係改善、旧ソ連諸国に対する外交政策でのスウェーデンとの協同、エネルギー政策におけるチェコスロバキアハンガリーとの協同、外国人移民や出稼ぎといった社会問題、アメリカとの安全保障交渉、経済危機にあるアイスランドへの支援などといった重要課題に積極的に取り組むことでその政権運営の手腕は高く評価されている。またこの期間に欧州連合(EU)議会である欧州議会(EP)の議長として元首相で化学工学者イェジ・ブゼクを、EUの内閣に相当する欧州委員会(EC)の予算担当委員(大蔵大臣に相当)にグダンスク大学経済研究所所長で元ハーバード大学講師のヤヌシュ・レヴァンドフスキ(英語版)を、国際通貨基金(IMF)の欧州局長として元財務大臣および元首相で経済学者のマレック・ベルカを送り出している。


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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