ドイツ連邦議会
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しかしながら、連邦憲法裁判所は、1997年4月10日の第二法廷の判決において、併用制が純粋な比例代表制ではなく多数代表制(小選挙区制)の要素を含むことを理由として、超過議席の発生を許容する連邦選挙法の規定が一定の限度において合憲であると判断している[3][注釈 4]
負の投票価値の問題2009年連邦議会選挙の投票用紙

その後、2005年ドイツ連邦議会選挙の際には、選挙制度の欠陥として、第2票(政党への投票)の増大がかえってその政党の議席の減少をもたらし、逆に、第2票の減少がその政党の議席の増大をもたらすことがある、という「負の投票価値(ドイツ語版)」(Negatives Stimmgewicht)の問題が明るみに出た[4][注釈 5]。「負の投票価値」の問題が生じる機序は、次のとおりである。各政党の獲得議席の総数は、「名簿結合」によって連邦全土での第2票の得票数に比例して決定される(これを「上位配分」という。)が、その議席数が各州名簿に配分される際には、当該政党の州名簿に投じられた第2票の得票数に比例して配分される(これを「下位配分」という。)こととなる[4]。それゆえ、ある政党がいずれかの州で超過議席を得た場合に、当該政党に対して配分されるべき最後の1議席が、超過議席の発生した州に配分されるか、超過議席の発生しなかった州に配分されるかによって、当該政党の獲得議席数が変化する[5]。このことと関連して、ある州における当該政党の第2票の得票数が増加したとしても、連邦全土での当該政党の獲得議席数が減少し、逆に、ある州における当該政党の第2票の得票数が減少したとしても、連邦全土での当該政党の獲得議席数が増加する、という現象が生じうる[5]。例えば、超過議席の発生した州に最後の1議席が配分された場合には、当該政党の獲得議席数に変化は生じないが、その州における当該政党の得票数が減少した際に、最後の1議席が超過議席の発生していない州に配分されるとするならば、当該政党の獲得議席数は増加することとなる[5]

「負の投票価値」の問題について、連邦憲法裁判所は、2008年7月3日の第二法廷の判決において、超過議席が生じる場合の議席配分の原則について規定した連邦選挙法7条3項第2文(同法6条4項及び5項を準用)の規定が、基本法38条1項の保障する選挙の平等及び直接選挙の原則を侵害するものとして違憲であると判断し、2011年6月30日までに合憲的な規定に改めることを立法者(連邦議会及び連邦参議院)に対して義務付けた[6]

連邦憲法裁判所は、立法者に対して2011年6月30日まで3年間の猶予を与えていたため、次に予定されていた2009年の選挙は、従来の制度のもとで実施することが許容されていた[7]。しかしながら、緑の党が同選挙を合憲席な制度のもとで実施する必要があるとして、2009年2月11日に、独自の連邦選挙法改正案を連邦議会に提出した[7]。この改正案は、左翼党以外の会派の賛成を得ることができず、同年7月3日に否決された[7]

2009年9月27日のドイツ連邦議会選挙においては、過去最多の24議席が超過議席として発生した[7]。この選挙の結果、CDU/CSUとSPDの大連立が解消され、CDU/CSUと自由民主党(FDP)の連立政権が成立した[7]。選挙後、緑の党、SPD、左翼党などの野党各会派が次々に連邦選挙法改正案を連邦議会に提出し、連立与党も2011年6月28日(連邦憲法裁判所が設定した期限の2日前)にようやく改正案を連邦議会に提出した[7]

連邦選挙法改正案は、連邦議会内務委員会における審査を経た後、連立与党案の一部修正案が採用されて成立し、2011年12月3日から施行された[8]。改正法による新たな議席配分方式は、次のとおりである[9]
定数598議席について、投票数に基づき、サン=ラグ・シェーパース方式[注釈 6]によって16州に比例配分する(上位配分、法6条1項)。ただし、各州の選挙区数及び区割りは、連邦選挙法附則によってあらかじめ固定されている。

上位配分によって各州に配分された議席について、各州において投票された第2票の数に基づき、サン=ラグ・シェーパース方式によって各政党の州名簿に配分する(下位配分、法6条2項)。各政党の各州名簿に配分された議席数から、当該州での選挙区当選者数を控除する(同条4項)[注釈 8]

上記2の配分に際して、ある政党が選挙区において獲得した議席は、当該政党の州名簿に配分する議席数を超過する場合であっても、なお当該政党に付与されたままとする(超過議席の維持、法6条5項)。

ある政党の州名簿に対しては、州名簿に投票された第2票と、各州において獲得した議席に要した第2票との差の合計(残余票数)を、連邦全土で1議席を得るために必要な票数で除して、小数点以下が0.5未満の場合は切り下げ、0.5を超える場合は切り上げ、複数の可能な議席配分が生じたときには連邦選挙長がくじ引きで決定する整数と同数の議席が、残余票数の多い順に配分される(追加議席、法6条2a項第1文)。

超過議席が生じた州名簿に対して、超過議席の多い順に、追加議席総数に至るまで、優先的に追加議席が配分される。議席の総数は、その差分だけ増加する(法6条2a項第2文)。

このように、改正法においては、併用制の枠組みの中で「名簿結合」が廃止され、州ごとに政党への議席配分を行い、議席に結びつかなかった残余票を全国レベルで集計し、追加議席を付与する方法で、「負の投票価値」の問題が解決された[11]

なお、この仕組みのもとでは、ある政党が全国レベルで過半数の第2票を得たにもかかわらず、議席配分の過程において過半数の議席を得ることができない場合が生じる[11]。そのため、こうした事態を防ぐために、連邦全体で配分される議席の半数より1議席多い議席が配分されるまで、当該政党の州名簿の残余票が多い順に、追加的な議席が配分され、その場合は、議員の総数がその差分だけ増加する旨の規定(多数保障条項(Mehrheitssicherungsklausel))が設けられた(法6条3項)[11]
現行制度

ドイツ連邦議会は小選挙区比例代表併用制を採用している。これは日本の「小選挙区比例代表並立制」とは異なるもので、比例代表制を主に、小選挙区制の要素を加えた制度である。その詳細は以下の通りである。

まず全国で比例代表として法定定数全議席の598議席を設定する。またドイツの16の連邦州に、人口に応じて法定定数の半分の299の小選挙区を配分し設定する(例えばバイエルン州45議席、ベルリン12議席など)。各連邦州に配分された小選挙区は、人口を考慮して州内で区割りが行われる。

有権者はそれぞれの小選挙区での立候補者に投じる票と、比例代表で政党に投じる票の各1票、計2票を持つ。

議席の決定は以下のように行われる。

まず比例代表で政党に投じられた票を集計する(集計単位は連邦全体)。この結果をもとに各政党に議席が配分される。このとき、連邦全体での得票率が5%以上であるか、3つ以上の小選挙区で勝利した政党のみに議席が配分され、それらを満たさない政党は計算から除外される(阻止条項)。ただし、少数民族政党には阻止条項は適用されないため、例えばシュレースヴィヒ=ホルシュタイン州デンマーク系フリースラント系住民による地域政党南シュレースヴィヒ選挙人同盟(SSW)は2021年の総選挙で1名を当選させている[12]

また小選挙区で得票が1位となった者は、無条件に当選者となる。

比例代表で議席を獲得した政党は、連邦全体集計で獲得した議席を各連邦州での獲得した票数に応じて各連邦州に再配分される。そして各連邦州の政党支部ごとに作成した比例名簿を参照するのであるが、このとき比例で配分された議席数に、まず小選挙区での当選者を割り当て、足りない分は比例名簿の上位から補充する。ただし以下に解説するような「超過議席ドイツ語:Uberhangmandat、英語:Overhang seat)」が発生した場合、比例代表の配分議席に加えて議席が与えられる。こうして最終的な当選者が決定する。

2011年10月14日の選挙法改正で、連邦全体集計での配分が廃止され、各連邦州での投票者数に応じて州ごとの議席数が決められることとなった。

具体例としては、2005年の選挙ではベルリンでドイツ社会民主党は選挙区で7議席、比例では8議席が割り当てられたので、小選挙区当選の7人と比例名簿から1人の8人が当選となった。また同じベルリンで自由民主党は小選挙区で当選は無かったが、比例で2議席を得たので比例名簿から2人をあてることとなった。一方、ハンブルクにおいてドイツ社会民主党は小選挙区で6議席を得たが、比例では5議席しか得られなかった。この場合は小選挙区の6議席がそのまま当選となり、比例よりも多くなってしまった1議席が超過議席と呼ばれる。

上の例のほか、比例代表で議席を得られなかった政党や無所属の候補が小選挙区で当選することもあり得る。これらも超過議席となる。このため、法定議席の598を上回ることが多い。

選挙権および被選挙権が付与されるのは18歳以上のドイツ国民である。議員の任期は4年で、後述するように解散が容易には行われないため基本的には4年間の任期満了をもって選挙となる。例外は連邦首相の信任決議案が否決された場合[注釈 9]であり、この場合は首相の助言により連邦大統領が議会を解散して早期の選挙となる(ドイツ連邦共和国基本法第68条)。


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