トール
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古エッダ』の『巫女の予言』においては、おそらくはヴァン神族との戦争で破壊されたアースガルズの城壁をアース神族が巨人の鍛冶屋(工匠)に修理させた後、巨人への報酬にフレイヤを渡すことに怒ったトールが、誓いを破って巨人を殺すエピソードが語られる[7]。『巫女の予言』では、ヴァン神族がアース神族の城壁を破壊すると神々がフレイヤの譲渡を協議する節との間に欠落が見られる。シーグルズル・ノルダルは『巫女の予言 エッダ詩校訂本』(日本語訳176-178頁)にて、本来あった1-2の詩節が失われた、あるいは、詩の聞き手がここで語られるべき内容を知識として持っているから省かれた可能性を挙げ、前者を欠落の理由に挙げている。そして本来語られるべきだった内容が、『スノッリのエッダ』第一部『ギュルヴィたぶらかし』第42章での巨人による砦の建設と神々による報酬の誓いの破棄であるとする。さらにノルダルは、『ギュルヴィたぶらかし』でのアース神族は鍛冶屋の正体が巨人と判明したためトールを呼び、トールが巨人を殺害しているが、『巫女の予言』では神々は相手を巨人と知った上で約束を交わし、その上でトールが巨人を殺しただろうと推定している。

『ヒュミルの歌(Hymiskvida )』では、エーギルに酒宴の開催を依頼したところ鍋の用意を求められたため、テュールと共に彼の父ヒュミルを訪ねて巨大な鍋を入手した。その際、ヒュミルと共に海に出て、牡牛の頭を餌にヨルムンガンドを釣り上げてミョルニルで一撃与えたものの取り逃がしている[8]

『スリュムの歌(Trymskvida )』では、ミョルニルが巨人スリュムに盗まれ、スリュムがその返還の条件にフレイヤとの結婚を要求したことから、フレイヤに変装してヨトゥンヘイムに行き、スリュムが花嫁の祝福のためにと持ち出したミョルニルを奪い取って彼と一族を全滅させている[9]

『ハールバルズルの唄(Harbardsljod )』では、ハールバルズル(ハールバルズ)という偽名を名乗って川の渡し守をしていたオーディンとの口論が語られている[10]

アース神族がことごとくロキにこき下ろされる『ロキの口論』では、トールは最初はその場にいなかったが、やがて会場に行き、ロキを激しく咎めて退散させた[11]

アルヴィースの言葉』においては、娘のスルーズドワーフアルヴィースに結婚させられそうになると、トールはアルヴィースに朝まで次々に質問を出して答えさせ、朝の光を浴びせて石にした[12]

ラグナロクにおいては大蛇(ヨルムンガンド)に致命傷を与えるが、そのあと「9歩退く」。これは一般に「大蛇の毒を受けたために9歩下がった後に死んだ」と解釈される[13]
スノッリのエッダ
ギュルヴィたぶらかしトールとスクリューミルが出会う場面。18世紀の写本『SAM 66』に描かれた、トールがヨルムンガンドを釣り上げる場面。ヒュミルの手に釣り糸を切るナイフが見える。リトを火の中に蹴り入れるトール。エミール・デープラーによる(1905年)。

スノッリのエッダ』第一部『ギュルヴィたぶらかし』第42章では、神々に作られて間もないミズガルズを巨人から守るための砦を作った鍛冶屋の正体が山の巨人と知り、鍛冶屋をミョルニルで倒すエピソードが語られる。神々と鍛冶屋は、フレイヤと太陽と月を砦の報酬にと約束していたが、破られることとなった[14]

同第44-47章によると、巨人ウートガルザ・ロキの宮廷に招かれた時は魔術にはまってしまった。まず宮廷に着く前に巨人スクリューミル(実はウートガルザ・ロキの変身した姿)と出会い、食糧の入った袋を開けられなくされ、スクリューミルの手袋を小屋と思わされてそこで休息した。さらに宮廷で行われた飲み比べで杯(実は大海とつながっている)を飲み干せず馬鹿にされる、エリ(en)という老婆(実は「老い」の化身。神といえど寄る年波には勝てない)との相撲に敗れるなど散々な目にあっている。[15]。なお、この時の出来事は『ロキの口論』でロキに蒸し返されている。

同第48章では、『ヒュミルの歌』でも語られているヨルムンガンドとの対決が再び語られる。若者の姿となって1人でヒュミルを訪ねたトールは、ヒュミルが船で海に出るのに同行した。ヒュミルの飼う牛のうち最も大きいヒミンフリョートの首を餌にし、ヨルムンガンドをうまく釣り上げたものの、ヨルムンガンドが抵抗し、トールは舟板を破って海底に足が着くほど強く踏ん張り、ヨルムンガンドを引き上げた。トールがミョルニルで大蛇を粉砕しようとした瞬間、この光景に恐れをなしたヒュミルが餌切りナイフで釣り糸を切った。ヨルムンガンドは海中に逃れ、怒ったトールはヒュミルを殴りつけ船の外に飛ばしたという[16]


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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