地球温暖化防止対策として水素の利用が進む中、トルエンに水素を反応させてメチルシクロヘキサン(前述)に転換して貯蔵、運搬する技術が注目されている[5]。 トルエン蒸気の吸入には中毒性があり、強い吐き気を催す。長期にわたり繰り返し吸入を続けた場合、回復不能の脳障害を負うことが確認されている。また耳毒性も確認されている。
毒性と代謝
トルエンは代謝によりその大部分が排出される。ただし、トルエンは水への溶解度が低いため、汗や尿といった通常の経路では排出することができない。そのため、代謝によって、より水溶性の高い物質になる必要がある。トルエンのメチル基は芳香環部分と比較して酸化されやすい。そのためヒトの体内に吸収されたトルエンの95 %は、シトクロムP450によりメチル基部分が酸化されてベンジルアルコールとなる。この代謝経路では残りの5 %が環が酸化されたエポキシドとして残留する。このエポキシドの大部分はグルタチオンと複合体を形成するが、細胞に対する深刻な毒性は避けられない。トルエンの代謝経路
トルエンが酸化されて生じたベンジルアルコールは、アルコールデヒドロゲナーゼなどの作用によってさらに酸化され、最終的に安息香酸となる。こうして生成した安息香酸は、グリシン抱合を受けて馬尿酸となり、これが尿中へと排出される。このため、ヒトの尿中に馬尿酸が存在することは、トルエンに曝露されたことの指標とされる場合もある。ベンジルアルコールの代謝経路
日本の食品安全委員会では、耐容一日摂取量を、体重1 kgに対して149 μgと定めている[1]。
出典^ a b c “トルエンの概要について” (PDF). 食品安全委員会 (2008年11月12日). 2020年5月23日閲覧。
^ “ ⇒芳香族・タールQ&A”. 一般社団法人 日本芳香族工業会. 2024年4月11日閲覧。
^ 経済産業省生産動態統計年報 化学工業統計編
^ “防衛省仕様書 1号TNT爆破薬” (PDF). 防衛省 (2014年12月22日). 2020年5月23日閲覧。
^ “SPERA水素システムについて”. CHIYODA. 2022年12月18日閲覧。
^ 室内環境学会編・関根嘉香監修「住まいの化学物質?リスクとベネフィット―」東京電機大学出版局(2015) ⇒VOCs
参考文献
化学物質ファクトシート2011年版 トルエン(環境省)[1]
関連項目
ベンゼン
キシレン
トリニトロトルエン
サッカリン
典拠管理データベース: 国立図書館
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