トランペット
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語源は貝殻の一種を意味するギリシア語のstrombosであるとされる[1]。また、1180年頃の第3次十字軍において、獅子心王リチャード1世がシチリアで「トルンパ(Trumpa)」を献上されたとの記録があり、これがヨーロッパにおける名称の語源となったとも言われる[4]。英語のtrumpetという語の最初の使用例は14世紀後半にあり、この語は古フランス語でtrompe「長くて、筒状の吹奏楽器(12世紀)」の小さいものを表すtrompetteに由来するとされている[5]。なお、一部において「クラリーノ(clarino)」という名称も用いられることがあるが、この名称はクラリネットの語源となっている。
分類
管長による分類ピッコロ・トランペット。下にあるのは移調用のマウスパイプ通常のトランペットとポケットトランペット(どちらもB♭管)

トランペットは管長の違いで調子が異なる。B♭管が最も一般的であるが、C, D, E♭, E, F, G, 低いF[注釈 4]等の調のものがカタログに載っている[6]。C管やE♭管、D管等はオーケストラでよく用いられ、吹奏楽およびジャズではB♭管が標準となっている。特にオーケストラ奏者は、A, B♭, C, D, E♭, E, F調[注釈 5]で書かれた楽譜をC管あるいはB♭管で演奏する必要がある。

標準的なB♭管に対して管長が半分でおよそ一オクターブ上の音域を担当する楽器を、ピッコロトランペットと呼び、調性はC管、B♭管、A管が一般的である(大抵はオプションパーツの組み合わせで調子が変えられるようになっている)。なお、管長が半分なので基音は通常のトランペットよりも高いが、高次倍音が出しやすくなるわけではない。高音を低次倍音で出せるおかげで高音域で音程が安定したりコントロールが容易になるのが特徴である。

標準のB♭管の長さのものを二重巻きにして、サイズを小さくしたものをポケットトランペットと呼ぶ。コンパクトで携帯に便利だが、吹奏に多少の抵抗感がある。

ベルを長く前に出した楽器をファンファーレ・トランペットといい、旗が取り付けられるようになっている。同様の楽器でベルを真っ直ぐに伸ばしたものがアイーダ・トランペットである。

アメリカ式のドラム・アンド・ビューグルコーでは伝統的に、ソプラノビューグルとして低いG調のものが使用される。
機構による分類

トランペットはバルブの構造によって分類できる。
ピストン・トランペット
ピストンバルブにより管長を変化させる。日本、アメリカフランスなどで最も一般的に使用されているトランペット。軽快な音色で、ジャズにはこれが好まれる。ヨーロッパではジャズトランペットと呼ばれることもある。
ロータリー・トランペット
C管のロータリー・トランペットロータリーバルブにより管長を変化させる。ドイツオーストリアオランダ北欧などでよく用いられる。重厚な音色なので、日本やアメリカのオーケストラでも演奏曲目によって用いられることがある。
スライド・トランペット
ソプラノ・トロンボーンと形状が似ており、主に19世紀のイギリスで用いられた。ポルタメントグリッサンドを効果的に使いたい場合に用いられる。
ダブル・ベル・トランペット(ツイン・ベル・トランペット)
2つ以上の楽器の役割を1つにまとめた楽器を意味する「複合楽器」(duplex)として考案された楽器。トランペット本来のベルと上方に飛び出たベルの2つのベルを持ち、音色より音の方向性を大切にする。異なる種類の弱音器に付け換えることによって音色を瞬時に変化させることもできる。バルブによって音の出るベルを切り替える。ユーフォニアムにもこの例がある。
ナチュラル・トランペット
バルブの機構が1815年頃に発明される以前のトランペットで、円筒形の直管にベル(朝顔)が付いただけのシンプルな楽器である。単なる1本の管なので、基本的には自然倍音列しか出せない。古くはただの長い筒であったが、ヨーロッパにおいてルネサンスの頃に管を曲げる技術が加わり、持ち運びの容易なS字型のトランペットが現れた。また、スライド・トランペットも開発され教会内で使用された。両端を180度折り曲げ環状にした一般的なナチュラル・トランペットの形状はセバスチアン・フィルディングの『音楽論』(1511年)の挿絵にその初期の姿を見ることができる。その他の形状としては、渦巻き状にしたものやハンドストップ・トランペットのようにベルに手が届くように反り返らせたものなどがある。
歴史
原初(中世まで)ツタンカーメン王の喇叭。銀メッキと金メッキのトランペットと木製ミュートツタンカーメン王の墓から出土したもの(1326?1336 BC)。300年頃の陶製トランペット。
ペルーリマのLarco博物館蔵

金管楽器の祖先は新石器時代メガフォンラッパにさかのぼり、エジプト王朝時代には金属製の軍用ラッパがすでにあった。この時期までの楽器はホルンともトランペットとも分類できず、むしろ単にラッパの祖先と解した方が適切である。

歴史上最も古いものは、およそ3千年前のエジプトの出土品の中に見られる。材質は金、銀、青銅のほか、土器、貝、象牙、木、樹皮、竹、瓢箪などで、形や長さも様々であり、初期のトランペットには音孔やバルブ機構などはなかったので、出せる音は倍音列のみに限られていた。したがって、音階すべてを吹奏できず、主に軍事的な信号楽器として使われた。

ホルン(角笛)から分かれて、はっきりトランペットの祖先といえる楽器は、ギリシアローマ時代になって初めて出現する。ギリシアではサルピンクス (salpinx)、ローマではチューバ (tuba) あるいはリトゥス (lituus) と呼ばれた。この楽器は管長がすでに 1mを超え、管は角と金属を継ぎ合せて作られ、マウスピースはカップ型であった。さらに青銅器時代に北欧にはルーレル (lurer) と呼ばれる2本1組として使われるラッパもあった。この楽器の管は円錐形で、むしろコルネットの祖先に見えるが、管がS字型に曲がっていることが形の上でトランペットあるいはトロンボーンの先駆とも言える。
中世・ルネサンス時代

10世紀頃ヨーロッパ各地においては、ツィンク (Zink) が作られるようになっていた。この楽器は象牙または木の管に穴を開けて、倍音以外の音も出せるようにしたものである。このシステムはペルシアからヨーロッパに流れてきたといわれている。当時は2?4つの穴が開けられていたものであったが、15から18世紀の間に、フルートからヒントを得て、表に6つと裏に1つ、計7つの穴が開けられ、音階の演奏が可能になった。ツィンクは19世紀まで用いられていた。

12世紀に入ると管を接続することが可能になる。チューバ、リトゥスはビザンチンを通ってアラビアの影響を受け、非常に長い楽器が作られるようになり、管形が円筒に近づいていった。中世初期のこの円筒形のトランペットは、クラーロ (claro) あるいはブイジーヌ (buisine) と呼ばれていた。

1240年には、イタリアのフェデリーコ2世がトゥベクタ (tubecta) という楽器を作らせた記録があり、この言葉がトロンベッタ (trombetta) あるいはその後ダンテ・アリギエーリの詩に初めて現れるトランペット (trumpet) という語の起こりである。トゥベクタもローマ時代のチューバという語の縮小形である。この楽器がどのような形であったか不明であるが、現在のトランペットにかなり近づいたS字形の管を持つ楽器は、1400年に最古の資料が残っている。

それから30年後には現代と同じ巻管のものが現れた。当時巻管のものはクラリオン (clarion)、直管のものはトロンバ (tromba) との古文献の記載があるが、前者は高音域用のトロンバ(トランペット)のことで、楽器の構造が異なるところはない。長い楽器は基音(第1倍音)が低くなるので、高次の倍音が出しやすく、バロック時代に至ると簡単なメロディーが演奏できるようになった。
近世1700年製のバロック・トランペットヘラルト・ドウ
1660年

16世紀に入って、トロンバ・ダ・ティラルシ(Tromba da Tirarsi, 独:Zugtrompete)という楽器ができた。これはスライド・トランペットのことで、18世紀後半までドイツの教会内で使用されたが、音程は長3度までしか下げられなかった。なお、19世紀の英国でよく用いられたトロンボーン型のスライド・トランペットとは動く部分が異なる。

また、この頃には戦場トランペット等の信号業務以外に、宮廷のトランペット楽団が各音域に分かれ、音楽的に合奏されるようになってきた。1511年の木版画には、フェルト・トランペット (felt-trumpet) とクラレータ (clareta) という2種の音域用のトランペットが描かれている。前者は低次倍音で信号業務を行う戦場トランペットであり、後者は高次倍音で野外トランペット楽団においてトップパートを担当する。高音域は音階における倍音の間隔が狭いため、協奏曲などの旋律を吹奏することができ、ドレスデンでは20人程のトランペット奏者でミサやテ・デウムが演奏されていた。この音域は17世紀には「クラリーノ (Clarino)」と呼ばれるようになり、高音域用の楽器やそのパートを指す意味にも使われる事がある。


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