免疫抑制状態の患者が罹患すると中枢神経系障害や肺炎・心筋炎を起こすこともあり、より重篤な疾患を引き起こしやすい。
トキソプラズマ陽性のエイズ患者は、Tリンパ球が200以下になると予防をしないかぎりトキソプラズマ脳症を発症する。これはシスト中の緩増虫体が活性化し、血流に乗って全身に広がり脳に至るためである。病状は潜行性になるときもあり、この場合は突然脳症を発症する。脳を冒されると、神経症状が出て急速に進行する。症状は部位に応じてさまざまで、片麻痺、失語、視野狭窄、眠気、不安感など。まれだが延髄を冒された場合は、対麻痺が起こる。 免疫系が正常でも妊娠している場合には特別な注意が必要になる。妊婦が虫血症になると、原虫が胎盤に移行して胎児への感染が成立し、先天性トキソプラスマ症に至る可能性があるためである。トキソプラズマは胎児血流に乗って脳を含む全身臓器に移行する[12]。ほぼ全例が母親の妊娠中の初感染に起因するが、再感染を疑う症例も報告されている[13] [14] [15]。 もし飼い猫が外出せず、かつ生肉を食べないのであれば、飼い猫から感染するリスクは高くない。ゴム手袋などを着用して飼い猫のトイレを毎日清潔に保ち、適宜ゴム手袋を消毒する。どこで食事をしているかわからないようなネコは、近づけない。 生肉、動物、ネコの糞便に汚染される可能性があるものなどを取り扱う職業に就いている場合は、注意が必要である。獣医師や繁殖家とその補佐、食肉処理場・加工場や肉屋の従業員や検査員、農家、造園家、研究施設や衛生試験場の技師、医師や保健衛生関連の専門家などが該当する。 先天性トキソプラスマ症を防ぐために、妊婦においては特に厳重な予防策が必要である。 まず、十分に加熱していない肉を食べることは危険である。生ハム、ローストビーフ、レアステーキ、肉のパテ(火を通していないパテ、加熱不十分なパテ)、生サラミ、生ベーコン、ユッケ、馬刺し、鳥刺し、鹿刺し、エゾシカのレアステーキ、鯨刺し、ヤギ刺し、加熱が不十分なジビエ(野生の鳥獣)料理、等はトキソプラズマを含む可能性があるとされる。 また、土いじりをすることは危険である。庭や畑や公園の砂場では、ネコがトキソプラズマを含んだ糞をしている可能性がある。ネコの糞が含まれた土からの感染を防ぐために、作業中は手袋や眼鏡やマスクを装着すること、作業後は十分な手洗いをすること、 収穫したものはよく洗浄してから食べることが大切とされる。
先天性トキソプラズマ症
妊娠初期
胎児へ伝染するリスクは低いものの伝染したときの症状は重篤になる。原虫が中枢神経系の発達に影響して、頭蓋骨の形成異常、頭蓋内の石灰化、水頭症、大頭症
妊娠中期
4ヶ月以降の感染では、内臓、特に消化器系に影響が出る。黄疸、脾臓や肝臓の肥大、粘膜からの出血などが多く、しばしば予後不良となる。
妊娠後期
出生時には症状が明らかでないことも多い。早くに気付かれる症状としては、色素性の脈絡網膜炎、難聴、ひきつけや精神運動発達の遅れ、頭蓋の肥大などが挙げられる。数年たってから眼に病変が見付かって先天性トキソプラズマ症と診断されることもある。
感染診断
母体が感染したことを診断するには、免疫学的な方法を用いる。(理論的には血液中やリンパ節から原虫を検出することもできるが、一般に困難である。)そこで妊娠がわかったときにはあらかじめトキソプラズマ抗体を調べておくのである。はじめから陽性であればすでに初感染は済んでいるので胎児への影響はないと考えられる。はじめは陰性であったのに陽転した場合には先天性トキソプラズマ症を発症するおそれがある。早期薬剤投与によって先天性トキソプラズマ症の発症を抑えることが出来るので早期診断が重要である。治療は主にスピラマイシンを用いる。通常用いられるサルファ剤は妊婦には禁忌である。
予防
調理の前後にはよく手を洗う
園芸や猫の世話をする時にはゴム手袋などを着用する
生食や無滅菌の牛乳を避け、加熱、燻製、塩蔵がしっかりされた食品をとる
24時間以上冷凍した食品を使う
野菜や果物は酢水で洗ってから食べる
猫はできるだけ部屋飼いにし、生肉を与えたり狩りをさせたりしない
肉類は十分に加熱し食べる
妊婦は、生肉はもちろん、十分に加熱していない肉を食べない
妊婦における注意事項[16]