デンプン
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デンプンは植物が光合成によって体内(実や根など)に貯蔵した炭水化物で、工業上はそれを精製した製品をいう[1]。デンプンの特性は起源となった植物の種類によりかなり異なる[1]。代表的なデンプンにカタクリ(市場に流通する多くの製品では馬鈴薯)を原料とする片栗粉トウモロコシを原料とするコーンスターチなどがある[1]
分子構造

デンプンはその構造によってアミロースアミロペクチンに分けられる。アミロースは直状の分子で、分子量が比較的小さい。アミロペクチンは枝分かれの多い分子で、分子量が比較的大きい。アミロースとアミロペクチンの性質は異なるが、デンプンの中には両者が共存している。デンプンの直鎖部分は、グルコースがα1-4結合で連なったもので、分岐は直鎖の途中からグルコースのα1-6結合による。アミロースはほとんど分岐を持たないが、アミロペクチンは、平均でグルコース残基約25個に1個の割合でα1-6結合による分枝構造をもつ(直鎖部分の長さは18?24残基、分岐間は5?8残基の間隔がある)。また、アミロースの中にはα1-6結合を持つものも少量あり、中間体と呼ばれている。なお、動物における貯蔵多糖として知られるグリコーゲンはアミロペクチンよりもはるかに分岐が多く、3残基に一回の分岐(直鎖部分の長さは12?18残基、分岐の先がさらに分岐し、網目構造をとる)となり、アミロースやアミロペクチンとは区別される。トウモロコシの種子などでもこのグリコーゲンの顆粒が存在する。

α-グルコース分子が直鎖状に重合している部分は、水素結合によりα-グルコース残基6個で約1巻きの螺旋構造となっている。また、螺旋構造同士も相互に水素結合を介して平行に並び、結晶構造をとる。分子は二重螺旋状態での結晶と、一重螺旋状態での結晶を作りうる。まず二重螺旋状態の結晶には、お互いのグルコース残基上の水酸基同士で直接水素結合を形成するタイプ(A型。コーンスターチなどの穀類由来のものがこの形)、間に水分子一層をはさむタイプ(B型と呼ぶ。馬鈴薯などの根茎・球根由来のものがこの型)と、両者の混合したタイプ(C型。根由来のもの)がある。また一重螺旋状態の結晶はV型と呼ばれ、天然ではデンプン顆粒に含まれる油脂成分がアミロースの一重螺旋のなかに包接された、包接錯体として存在している。
デンプンの生合成

デンプンは植物のプラスチドで生合成され、特にデンプン合成が盛んでデンプンを貯蔵しているプラスチドをアミロプラストとよぶ。細胞質からプラスチドに輸送されたグルコース-1-リン酸グルコース-6-リン酸やADP-グルコース ( ⇒ADP-glucose) はプラスチド中で最終的にADP-グルコースとなり、ADP-グルコースのグルコース残基はデンプン合成酵素 ( ⇒starch synthase, EC 2.4.1.21, ⇒反応) によって伸長中のアミロースやアミロペクチンの非還元末端のグルコース残基の4位の水酸基脱水縮合して新たなα-1,4グルコシド結合を形成して取り込まれる。プラスチド中のデンプン合成酵素はデンプン粒結合型デンプン合成酵素 (GBSS: granule-bound starch synthase) と可溶性デンプン合成酵素 (SSS: soluble starch synthase) に大別される。GBSSはアミロースの生合成に関与している。SSSによって合成途中のα-1,4グルコシド結合のグルコース残基の直鎖が、枝分かれ酵素 ( ⇒branching enzyme, EC 2.4.1.18, ⇒反応) によって一部切断され、その切断されて生じた還元末端のグルコース残基の1位の水酸基と直鎖部分の中間のグルコース残基の6位の水酸基の間でα-1,6グルコシド結合が生じる。こうして生じた分子中に存在する複数の非還元末端はSSSによって伸長するとともに枝分かれ酵素によって新たに非還元末端の側鎖が次々と形成される。余分なα-1,6グルコシド結合部分は枝切り酵素によって切断され側鎖は整理されて、アミロペクチンは合成される。つまり、アミロースとアミロペクチンの含量はGBSSとSSSの活性によって制御されている。よって、GBSSが欠損していればアミロペクチンのみを含むモチ性となり、SSSの活性が低下していると高アミロース含量となる。

GBSSの欠損変異はトウモロコシイネにおいてはwaxy (ワキシー) として知られている劣性変異遺伝子による。被子植物の胚乳中の細胞のゲノムは重複受精によって3nとなるため、胚乳中のデンプンがアミロペクチンのみからなるモチ性となるためには、3nの全てのGBSS遺伝子がwaxy変異を持たなければならない。そのため、モチ性の品種であってもその近傍にウルチ性の品種が存在すると他家受粉の結果、キセニア現象が生じてウルチ性の胚乳を持つ種子となる場合がある。

アミロース含量が高いほど白米の胚乳は透明度が高く、低くなるほど透明度は低くなる。そのため、もち米低アミロース米の白米はの白米に比べ白く濁っている ⇒[1]
物理的性質

アミロース・アミロペクチンともに、白色の粒粉状物質で、無味・無臭。

アミロースは熱水に溶けるが、アミロペクチンは溶けない。

天然の結晶状態にあるデンプンをβデンプンと呼び、デンプン中の糖鎖間の
水素結合が破壊され糖鎖が自由になった状態のデンプンをαデンプンと呼ぶ(日本国内の呼び方で、国際的用語ではない)。これはつまり、蛋白質でいう、二次構造にあたる考え方で、αデンプンとβデンプンではフォールディングが異なるということもできる。

糊化

デンプンを水中に懸濁し加熱すると、デンプン粒は吸水して次第に膨張する。加熱を続けると最終的にはデンプン粒が崩壊し、ゲル状に変化する。この現象を糊化(こか)という。このとき、デンプン懸濁液は白濁した状態から次第に透明になり、急激に粘度を増す。粒子が最大限吸水した時粘度が最大となり、粒子の崩壊により粘度は低下する。

デンプンの糊化は、結晶構造をとっているデンプン分子の隙間に水分子が入り込むことでその構造が緩み、各枝が水中に広がることによって起こる。このときデンプンが溶解しているように見えるが、前述したようにアミロペクチンは溶解しているという事ではない。
老化

糊化したデンプンの溶液を冷却すると、糊液は次第に白濁し、水を遊離して不溶の状態となる。これを老化と呼ぶ[2]。デンプン糊液の老化は、水中に分散したデンプン分子が再び結晶化することにより起こる。ただし、完全にもとの状態に戻るわけではない[2]。これがデンプンを原料に含むパンなどの食品が、時間が経つと硬くなる主要な原因といえる。

一般的に、アミロペクチン含量の多いデンプン粒では、糊化温度が低く、粘度(膨潤度)、保水力が高く、老化しにくい性質がある[2]。これは、直鎖状のアミロースよりも、分岐の多いアミロペクチンの方が、デンプン分子間で水素結合がおこりにくいからと考えられる。さらに、同じデンプンであっても、基原植物により、それぞれ老化の起こりやすさが異なることがわかっている。例えば、タピオカクズジャガイモ由来のものでは、老化の起こりにくさの順は、タピオカ>ジャガイモ>クズとなっている。これは、アミロース、もしくはアミロペクチンとして単離しても、それぞれに老化の起こりやすさが異なる。アミロースではタピオカ>ジャガイモ>クズの順で老化が起こりにくく、アミロペクチンでは、クズ>タピオカ>ジャガイモとなっている。

アミロースでの順位は、重量平均重合度の小さい順と一致し、重合度が数千の高分子のアミロースでは、重合度の大きい分子ほど老化性が低いと考えられる。これは、重合度が高いと、一分子内で水素結合を作りやすくなり、デンプン分子間の水素結合による規則的結晶構造、つまりβ型をとりにくいと考えられる。さらに、タピオカのアミロース分岐がジャガイモのものより多いということも影響していると考えられる。アミロペクチンについては、ジャガイモのアミロペクチンの平均鎖長がクズとタピオカのものより、2.8 残基長い。このことより、アミロペクチンは単純に長いほうが水素結合をしやすいので、老化しやすいと考えられる。

老化を防ぐ方法として、トレハロースマルトースなどの糖類が使用されている。これは、デンプン分子と構造が似ている糖類を使うことで、インターカレーションをおこし、規則的結晶構造をとりにくくして、老化を防いでいると考えられる。
化学的性質
ヨウ素デンプン反応

デンプン水溶液にヨウ素溶液(ヨウ素ヨウ化カリウム溶液)を加えると、デンプン分子のラセン構造の長さによって青色?赤色を呈する鋭敏な化学反応。この反応は、ラセン構造の内部にヨウ素分子が入り込むことに由来する。水溶液を加熱するとラセン構造からヨウ素分子が外れるため、呈色は消える。

ヨウ素デンプン反応は食品衛生分野では、デンプン汚れに対する食器等の洗浄効果の確認検査に用いられる[3]。また、小学校や中学校の生物(主に植物)に関する実験に多用される。

直鎖の長さと呈色の関係鎖長(グルコース残基)ラセン長呈色
122無色
12?152褐色
20?303?5赤
35?406?7紫
459青

加水分解詳細は「加水分解」を参照

デンプン水溶液に希硫酸を加えて加熱すると、デンプンはデキストリンマルトースを経てグルコースまで分解される。
デンプンの消化・吸収

ヒトがデンプンを食べるとまず、唾液中の消化酵素アミラーゼ(唾液アミラーゼ;プチアリン)により、アミロースとアミロペクチンのα1-4結合が不規則に切断され、デキストリンマルトース(麦芽糖)に分解されていく。デンプンを含む食品を噛み続けると甘味が感じられるようになるのはこのためである。唾液アミラーゼの作用は食べ物がに送られた後もしばらく続くが、強酸性の胃液によってアミラーゼは次第に失活する。


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