デジタル
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分かりやすい出来事を紹介すると、たとえば1991年、アメリカ軍のパトリオットミサイルは時間計算の誤差が原因で誤作動して死者が出てしまったし[16]、欧州宇宙機構のアリアン5型ロケットなどは1996年の打ち上げ時にわずか40秒で爆発し、このロケットのために費やした10年の歳月および70億ドルの開発費および搭載した5億ドル相当の装置が失われてしまった[16]。アリアン5型の爆発の直接の原因は、慣性基準装置(IRS)のソフトウェアが水平方向の速度を表現する64ビット浮動小数点数を16ビット整数に変換したため、16ビット整数の最大値である32768を越えてしまい変換に失敗したことであった[16]

特に浮動小数点方式で非常に近い2つの実数の引き算を行うと、有効桁がひどく損なわれて非常に大きい誤差が発生することがある[17]。たとえば32ビット(単精度)の状態で2つの近い実数の引き算をさせると、数学的に正しい値とは約20%も計算値がズレることがある[17][注釈 6]

また最小値に近い数値を扱っていないかどうかにも注意を払う必要がある。

デジタル処理では、定義された最大値を超えた場合には桁溢れ(オーバーフロー)となり、以後の演算処理の結果は保証されない。また、最小値に近い数値では量子化誤差が無視できず、S/N比の劣化として現れることがある。[注釈 7]


コンピュータの数値表現#誤差」も参照
固定小数点数と浮動小数点数詳細は「固定小数点数」および「浮動小数点数」を参照

デジタルコンピュータで小数点数(小数点がついているような数)を表現する方法としては、固定小数点表示 / 浮動小数点表示 という2つの方法がある[12]

固定小数点方式では、数値の整数部と小数部をそれぞれビット列の一部で表す。整数部および小数部のビット列の長さは固定されているため、小数点が固定された数値表現といえる。浮動小数点方式は、数値を仮数部と指数部に分けて表す。浮動小数点方式では、小数点の位置は指数部の値によって変わる。

固定小数点方式は、浮動小数点方式と比較して、大きな数値や小さな数値の表現には向かず算術オーバーフローも生じやすいという欠点がある。その一方で、情報落ちによる誤差は発生しにくい、演算が浮動小数点よりも高速という利点がある[12]

浮動小数点方式は、固定小数点方式と比較して、大きな数値や小さな数値も表現できる。他方、桁落ちによる誤差が発生する欠点がある[12]。(浮動小数点方式で計算すると20%もの誤差を生じることがあり、深刻な事故の原因にもなることは#特徴の節で説明した。)
デジタルデータへの変換

音声や画像のような本来連続的な対象をデジタルコンピュータで扱う場合、入力信号に対して標本化および量子化と呼ばれる処理を行い、その特徴量を数値化する。入力データを適当な区分に分割し、各区分の代表点を取る操作を標本化という。標本化によって得られる代表点は連続的な値をとるため、代表点の値が収まるような区間で離散化する必要がある。代表点の値を離散的な数値に対応する操作を量子化という。

原信号に対する忠実度は標本化のサンプリングレートと量子化のステップ幅およびステップ数に依存する。デジタル化された信号は、サンプリングレートが高いほど、またステップ幅が小さいほど原信号に対して忠実である。一方、データ圧縮の観点では、必要最低限の忠実さを保ちつつより低いサンプリングレート、より少ないステップ数で符号化することが求められる。

マイクロコントローラの中には外部からのアナログ入力(電圧の連続的な変化)を受け付ける入力ピンをいくつか備えているものもあり、それだとアナログ値をデジタル値に変換することができる。またデジタルシグナルプロセッサもアナログ信号をデジタル信号に変換する役割を担う。
デジタル処理
デジタル化処理詳細は「デジタイズ」を参照

アナログデータをデジタルデータに変換することを「デジタル化する」、「デジタイズする」などという。
デジタル処理

デジタルデータをそのまま扱う場合(単純なリニアサンプリング)について述べる。

実際のデジタル処理では、二進数1桁をビットとし、8ビットなどのまとまった単位をオクテットまたはバイトとして取り扱い、さらにそのまとまりをワードという単位として取り扱うことが多い。これは処理装置や記憶装置の語長に合わせて効率よく使えるようにするためである。
片仮名表記

英単語 digital の音写として一般に「デジタル」と「ディジタル」の二通りの表記が用いられる。

例えば日本産業規格 (JIS X 0001, JIS X 0005) などでは「ディジタル」という表記が用いられている(「ディジタル計算機」「ディジタル化する」「ディジタルデータ」など)。

「ディジタル」や「デジタル」の間で表記が揺れた要因として、1955年文部省が発行した『国語シリーズ27 外来語の表記 資料集』の影響が考えられる。同資料ででは次のように説明していた。

11.原音における「ティ」「ディ」の音は、なるべく「チ」「ジ」と書く。
  例 (中略)...  ラジオ(radio) ジレンマ(dilemma)
 ただし、原音の意識がなお残っているものは、「ティ」「ディ」と書いてもよい。

この資料集は実際には規則ではなくあくまで現状整理という位置付けだったようだが同年版の『記者ハンドブック』(共同通信社)の外来語の書き方の欄などメディア関係者が参照する資料に文部省資料集の主要な記述がそのまま転載され、事実上のガイドラインとなっていた[18]

時代が下って1980年代に入るころには洋楽視聴などさまざまな経路を通じて日本人が外国語の発音を直接耳にする機会が増えた影響か、1981年の『記者ハンドブック』第4版では「原音のティ、ディ、テュ、デュで慣用が定まっている場合はチ、ジ、チュ、ジュで書く」となっているのは、逆に言うと、新しく使われるようになった外来語では「ティ」や「ディ」などと原音に沿った書き方をするのが主流だと認めているということでもある[18]

1960年代から1970年代の専門書ではディジタル表記が圧倒的に使われていた。1960年代の一般紙では最先端の技術だった電子計算機は「ディジタル型」「ディジタル電子計算機」と書かれ、事実上のガイドラインがあっても1つの表記以外をあまり確認できなければ新聞も倣ったとみられる[18]

だが、一般人が使う慣用的表記としては「デジタル」が1970年代末までに定まり、現在ではそちらが使われ続けている[18]。「デジタル」という表記が広まった理由の1つは時計の広告であり、1965年の東京時計製造パタパタ時計の新聞広告には「東京デジタル」とあり、1968年にソニーが「デジタル24」という名称のパタパタ時計式の時計ラジオ一体型製品を発売。どうやらメディアで広く宣伝するために1955年の文部省資料のガイドラインに沿った表記にしたと見られる[18]。1970年代後半にはデジタル腕時計のブームで広告には「デジタル」の文字が踊り、1978年にカシオ計算機山口百恵を起用したCMで山口が歌う「デジタルはカシオ」のフレーズが流行し、この結果、学術分野以外ではデジタルの語で急速に固まった[18]

広辞苑第三版(1983年)及び第四版(1991年)はデジタルがディジタルを参照させるようになっていたが、逆になったのは1998年の第五版であった[18]

なお、上述の複雑な経緯により「デジタルネイティブ」のような異なる時期の表記法が同居している複合的な外来語も出てきた[18]。(「デジタル」のほうは原音から離れた表記だが、「ネイティブ」のほうは1980年代以降に1955年版資料のガイドラインの影響を受けずに原音に沿った音で広まった外来語である[18]
脚注[脚注の使い方]
注釈^ たとえば書籍名でいえば、亀山充隆『ディジタルコンピューティングシステム』朝倉書店、2014年 / 鈴木博 『ディジタル通信の基礎』数理工学社 2012 / 伊原充博, 若海弘夫, 吉沢昌純『ディジタル回路』コロナ社、1999年 等々。他にもコンピュータ用語辞典や通信用語辞典の類の巻末の索引を見ると、「ディジタル・○○○○」などという用語がいくつも並ぶ。
^ 「デジタル」という表記のほうが今の日本で優勢であり、一般向けの百科事典の表記法として妥当であり、また技術者も「デジタル」と表記されることに慣れており特別な違和感などは感じず文章を読めるため。
^ デジタルコンピュータも、種類によっては、たとえば音響処理用のコンピュータなどでは、回路群の一部にDSPなどアナログ信号処理の回路を持つ場合があるので、コンピュータ内の全回路すべてがデジタル方式だけとは限らないが、一般にCPUの演算器やレジスタがデジタル方式になっていれば、たとえ一部にアナログ信号処理用のチップが含まれていても、デジタルコンピュータと呼ばれる。
^ つまり8ビットコンピュータ/16ビットコンピュータ/32ビットコンピュータ/64ビットコンピュータである。デジタルコンピュータのCPUの内部では、限られた桁数でしか数を表現できない。つまり無限の桁があるような実数はCPUの内部では表現できない。無限の桁の実数を扱えないのでしかたなく代用で使う《浮動小数点》という手法や、そのデメリットについては後述。
^ 出典の「まつもとゆきひろ」氏が指摘していることは、情報技術者の教科書の第一章の「誤差」の章に書かれていることと基本的に同じである。


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