ヒュームは経済思想家としての側面も持つ。古典派経済学の祖とされるアダム・スミスとは信頼関係に結ばれた友人であった。経済評論家の中野剛志によれば、ヒュームは自由貿易の擁護はしていてもドイツが未発達の工業製品に関税をかけることは間違いではないとし、ヒュームが自由貿易を奨励したのは、海外とのコミュニケーションを盛んにすることで知識が交換されたり、海外から入る知識や技芸によって、国内の文化が刺激されて豊かになるという話であって、資源配分の効率化の話ではなく、海外市場を取りに行くべきではないとされる。また中野によれば、ヒュームは、単なる自由貿易をコマースではなく、コミュニケーションとして捉えており、コミュニケーションが上手くいき、文明が発達するためには大体同じ程度の文明水準でなければならないと言っていたとしている[7]。ヒュームをはじめ18世紀の頃の啓蒙思想家たちが注意深く見ていたのは世界の成り立ちであり、経済システムがいかに文化・制度・法律・政治体制により異なっていくかということであり、経済システムが国ごとにいかに違うかというのを強調するのが政治経済学、社会科学の始まりであったと、中野は評している[8]。 ヒュームは白人を至上のものとし、黒人や黄色人種など他の人種を劣っていると考えていたため、人種差別を正当化する人種主義であると批判されている。「国民性について」の注で、ヒュームは次のように述べている[9]。わたしは、黒人と一般に他の人間種のすべてが生まれながらに白人より劣っていると思っている。白人以外に、どんな他の肌の色を持つ文明化された民族もまったく存在しなかったし、行動であれ思弁であれ、卓越した個人でさえもまったく存在しなかった。かれらのあいだにはどんな独創的な製品も、どんな芸術も、どんな科学も、決して存在しなかっ た。
人種差別主義
著作
『人間本性論』A Treatise of Human Nature
香原一勢訳「人性論」(抄訳), 『世界大思想全集』春秋社, 1930年
大槻春彦訳『人性論』全4巻 岩波文庫, 1948-1952年
山崎正一他訳「人間本性論」(抄訳)-『世界大思想全集』河出書房, 1955年
土岐邦夫訳「人性論」(抄訳)-『世界の名著 ロック・ヒューム』中央公論社, 1968年
『人性論』中公クラシックス, 2010年。改訂版(一ノ瀬正樹 解説)
木曾好能訳『人間本性論 1 知性について』 法政大学出版局, 1995年、新装版2011年、普及版2019年
『2 情念について』伊勢俊彦・石川徹・中釜浩一訳, 2011年、同上
『3 道徳について』伊勢俊彦・石川徹・中釜浩一訳, 2012年、同上
神野慧一郎・林誓雄訳『ヒューム 人間本性論 道徳について』京都大学学術出版会「近代社会思想コレクション」, 2019年
『人間本性論摘要』An Abstract of a Book latety published entituled a Treatise of Human Nature
斎藤繁雄・一ノ瀬正樹訳『人間知性研究?-付・人間本性論摘要』(法政大学出版局)所収
『道徳政治論集』Essays Moral and Political
小松茂夫訳『市民の国について』岩波文庫 全2巻, 改版1982年
福鎌忠恕・斎藤繁雄訳「迷信と熱狂について」、『奇蹟論・迷信論・自殺論 ヒューム宗教論集3』法政大学出版局, 1985年、新装版2011年
田中敏弘訳『ヒューム 道徳・政治・文学論集 完訳版』名古屋大学出版会, 2011年
『エディンバラ書簡』A Letter from a Gentleman to his Friend in Edinburgh
福鎌忠恕・斎藤繁雄訳「一郷士よりエディンバラの一友人に宛てた一書簡」、『奇蹟論・迷信論・自殺論』所収
『人間知性研究』An Enquiry Concerning Human Understanding
福鎌達夫訳『人間悟性の研究』1948年
福鎌忠恕・斎藤繁雄訳「奇跡について」、「特殊的摂理と未来〔来世〕の状態について」、『奇蹟論・迷信論・自殺論』所収
渡部峻明訳『人間知性の研究・情念論』晢書房, 1990年
斎藤繁雄・一ノ瀬正樹訳『人間知性研究』 法政大学出版局, 2004年、新装版2011年、普及版2020年
神野慧一郎・中才敏郎訳『ヒューム 人間知性研究』 京都大学学術出版会「近代社会思想コレクション」, 2018年
『道徳原理研究』An Enquiry Concerning the Principles of Morals
松村文二郎・弘瀬潔訳『道徳原理の研究』春秋社, 1949年
渡部峻明訳『道徳原理の研究』晢書房, 1993年
『政治論集』Political discourses
小松茂夫
田中敏弘訳『経済論集』東京大学出版会, 1967年
田中敏弘訳『ヒューム 政治経済論集』御茶の水書房, 1983年
田中秀夫訳『ヒューム 政治論集』京都大学学術出版会「近代社会思想コレクション」, 2010年
『四論集』Four Dissertations、『宗教の自然史』The Natural History of Religion
福鎌忠恕・斎藤繁雄訳『宗教の自然史 ヒューム宗教論集1』法政大学出版局, 1972年、新装版2011年
『私の生涯』My Own Life
福鎌忠恕・斎藤繁雄訳「自叙伝」、『奇蹟論・迷信論・自殺論』所収
『二試論』
福鎌忠恕・斎藤繁雄訳「自殺について」、「魂の不死性について」、『奇蹟論・迷信論・自殺論』所収
『自然宗教に関する対話』Dialogues Concerning Natural Religion
福鎌忠恕・斎藤繁雄訳『自然宗教に関する対話 ヒューム宗教論集2』法政大学出版局, 1975年、新装版2014年
犬塚元訳『自然宗教をめぐる対話』岩波文庫, 2020年
『わが生の思い出』 A Kind of History of My Life
1734年
『イングランド史』 The History of England
1754?62年、全6巻
参考文献
大槻春彦責任編集『世界の名著32 ロック、ヒューム』中央公論社、1980年
評伝
ニコラス・フィリップソン 『デイヴィッド・ヒューム 哲学から歴史へ』永井大輔訳、白水社、2016年
脚注[脚注の使い方]
注釈^ David Homeとも。
出典^ ジャック・レプチェック著、平野和子訳『ジェイムズ・ハットン ?地球の年齢を発見した科学者?』春秋社 2004年 135-136ページ
^ ラッセル『西洋哲学史 II』(みすず書房)
^ 千葉雅也、『動きすぎてはいけない――ジル・ドゥルーズと生成変化の哲学』、河出書房新社、2013年、85頁?126頁、第二章「関係の外在性――ドゥルーズのヒューム主義」。
^ 千葉雅也、『動きすぎてはいけない――ジル・ドゥルーズと生成変化の哲学』、河出書房新社、2013年、87頁。
^ 日本語訳は、『経験論と主体性―ヒュームにおける人間的自然についての試論』、木田元、財津理共訳、河出書房新社、2000年、など。
^ 日本語訳は、『無人島 1969-1974』、小泉義之他訳、河出書房新社、2003年、など。
^ 中野剛志・柴山桂太 『グローバル恐慌の真相』 181-182頁。
^ 中野剛志・柴山桂太 『グローバル恐慌の真相』 182-183頁。
^ 高田紘二「ヒュームと人種主義思想