ディーゼルエンジンにおいて燃料噴射が着火と燃焼の制御手段なので、噴射装置は重要な部品となる。現在2,000 bar(約2,000気圧)程度の高圧と多段噴射が必要とされており、かなりの高額部品になっている。自動車用ディーゼルエンジン・コストの半分は燃料噴射系で占める。
初期から50年ほどは大型エンジンの起動用と共有する圧縮空気で燃料を噴射する「空気噴射」もあったが、効率が悪く圧力を高められないために廃れた。燃料だけを高圧噴射する「無気噴射」になった後の経緯を以下に示す。 かつてはプランジャーポンプの一行程の加圧と吐出だけで一回の燃料噴射を実現する「ジャーク式」ポンプだったので、多段噴射できなかった。噴射量は機械制御によるプランジャーの有効ストローク量で決まった。従来のジャーク式ポンプはエンジン回転数や負荷によって燃料圧力と噴射量が変化する欠点がある。燃料噴射弁は燃料圧力の増減で従属的に自動開閉するものだった。いずれも噴射ポンプと噴射弁の間にある長い噴射管を毎回低圧に戻す影響のため、噴射圧が低く、近年では使われなくなってきた。列型噴射ポンプの一例分配型噴射ポンプの一例 1990年代後半から以下の方法で高圧燃料噴射を電子制御している。基本的にポンプで加圧だけを分担し、従属弁との間に配置した電子制御弁が噴射量とタイミングを分担する。電磁式噴射ポンプ ディーゼルエンジンではガソリンエンジンとは異なる特性に応じた装置が必要になるため、かなりの高コストになる。上記の燃料噴射装置や後段の排ガス対策用の後処理装置が代表例であるが、これら以外でも、原理的に振動と騒音が大きくなるため、ディーゼルエンジンでは2次バランサーを追加したり、防振ゴムによる固定に高度な技術が使用され、また大型車に圧縮開放ブレーキも使用される。 燃料油清浄機はC重油から不純物を取り除く装置。1950年ごろ舶用大型ディーゼルエンジンで安価なC重油を使うために開発された燃料の前処理装置。それまでディーゼルエンジンは一定水準以上のグレードにあるA重油までしか使えなかった。C重油は製油残渣といえる劣悪な燃料で、不純物の混入が前提となる。燃料油清浄機は残渣油を加熱して流動性を高めてから、水分や固形分を遠心分離機で取り除き、さらにフィルターで濾過して細かな混入物の除去を図る。 安価を求める残渣油は軽質油を蒸留した残り物なので、製油技術が向上し、利用価値のある各種成分を高度に分留できるようになるにつれ、残渣部は相対的に低質化していく。したがって一定品質に止まらないため、燃料油清浄機も高性能化を求められる。1970年以降に製油法の進展によって導入された接触触媒分解装置からアルミナ、シリカ微粒子が残渣油に混入するようになり、ピストンリング、シリンダーライナー、燃料ポンプを短時間で損傷する事故が多発するようになった。燃料油分析サービスと併用して事故の防止を図っている[4]。 火花点火のような着火機構を持たず、着火には空気の断熱圧縮による高温を利用しているため、寒冷地での長時間停車後など燃焼室が冷え切った状態からの始動や、標高が高く空気密度が小さいところで始動する場合は、吸気が着火に必要な温度に達しないことがあり、「予熱」が必要となる。燃焼室内に頭部を露出させた「グロープラグ」で予熱を行ったり、場合によりインテークマニホールド直前に置かれた「インテークヒーター
従来の方法
列型噴射ポンプ
一つのプランジャーポンプが単気筒の燃料加圧と吐出を担当し、気筒数分のポンプが一列に並んでいる構造。ジャーク式ポンプの中では低速回転から噴射量が安定するので大型車に用いられた。噴射ポンプと噴射弁の間にある噴射管を毎回低圧に戻す影響のため実現できる燃料圧力は200 bar強まで。それ以上に高めようとしても噴射管内で衝撃波を発生させるなど損失が大きくなり現実的でない。
分配型噴射ポンプ、別名ロータリーポンプ
一つのプランジャーポンプが全気筒の燃料加圧と吐出を実現する。プランジャーが1サイクルに1回転しながら気筒数倍の往復運動をする、プランジャーの外周に気筒の分配のための切り欠けがあり該当位置の吐出ポートと重なったときに噴射される。プランジャーポンプは全気筒に共有されるが、毎回、加圧と吐出を繰り返すので、コモンレールのように蓄圧しない。
近年の動向
コモンレール
サプライポンプが共通(コモン)の圧力管(レール)に高圧燃料を蓄えてから、気筒ごとに電子制御弁を内蔵した噴射ノズル(インジェクター)が噴射する。電子制御弁が噴射のタイミングと噴射量を分担し、高圧で多段噴射を実現する。ソレノイド式インジェクターは1,800気圧で1サイクルあたり5回ほど噴射できる。2012年現在のピエゾ式インジェクターは2,500気圧の超高圧で燃料を1サイクルあたり9回噴射できる[3]。
ユニットインジェクター
噴射ポンプと噴射弁が一体式の噴射装置、1930年代から機械式のものが存在し、1990年代に電子制御化された。気筒ごとにユニットインジェクターを設置する。すなわち高圧パイプを引き回さなくても済むため大型エンジンに適する。単純な構造のため、高圧化はコモンレールよりも先行した、ただし多段噴射は不得意で、対応するには二つの電磁弁を併用するなど複雑な構造になる。OHCがユニットインジェクターのプランジャーポンプを駆動し、第一の電磁弁がポンプの加圧の開始と終了を精密に制御し、1サイクル毎の噴射量を決める。多段噴射するには加圧行程の内部で第二の電磁弁が噴射弁の開閉を制御する。したがって大まかな噴射タイミングに制限がある。
補機類
燃料油清浄機
予熱機構
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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
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