テルペン
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他にも例は少ないものの様々な結合様式が存在することがわかっている[9]。ただし、head-to-tail condensation以外の結合様式は生化学的には興味深いものの、生物界における分布は多くの場合限定的である(以下に記述するスクアレン合成酵素など例外もある)。

スクアレン合成酵素(SQS)により2つのFPP分子の先端同士が結合(head-to-head condensation)するとC30スクアレンが生成する。スクアレン合成酵素はtrans型IPPSと進化上関連している(アミノ酸配列が相同)。スクアレンはホパノイドステロールコレステロールフィトステロールなど)といったトリテルペンの出発物質となる。スクアレン合成酵素は真核生物ではsqs遺伝子、細菌ではsqsまたはhpnCDE遺伝子にコードされている[10]。head-to-head condensationではtrans型の立体配置しか見つかっていない。一方、ゲラニルゲラニル二リン酸合成酵素(CrtB)はFPPとIPPからジテルペンの基本骨格となるC20ゲラニルゲラニル二リン酸 (GGPP) を合成する。さらに、2つのGGPP分子が結合するとC40フィトエンが生成し、テトラテルペン(カロテノイド)の出発物質となる。GGPP分子の結合はFPP分子の結合と同様先端同士が結合する。実際、スクアレン合成酵素はフィトエン合成酵素から派生したと推測されている[11]各種テルペンの生合成
環化

スクアレンに至るまでテルペンの基本骨格が構築されたのち、各テルペンはさらに他の酵素によって修飾され様々なテルペノイドへと変換されてゆく。特にイソプレノイド鎖の環化によって様々な立体構造が可能になる。テルペン環化酵素(テルペン・シクラーゼ)は大きく3つのグループが知られている。1つ目の酵素グループはプレニル基転移酵素(trans型)やスクアレン合成酵素とアミノ酸配列に相同性が見られる(共通の祖先からそれぞれ進化している)。これらの酵素はC20ジテルペンまでの環化を触媒する。この酵素グループを特にテルペン合成酵素(terpene synthase)を呼ぶ場合もある。2つ目の酵素グループは1つ目の酵素群とは相同性がなく、C20ジテルペン以上のイソプレノイド鎖の環化を触媒する(現在C40イソプレノイド鎖までの環化が知られている)。詳しく研究されている例としてC30スクアレンおよびC30オキシドスクアレンの環化酵素がある。オキシドスクアレン環化酵素(ラノステロール・シンターゼなど)は真核生物において重要な役割をもつステロイドの炭素骨格を合成するのに対し、スクアレン環化酵素(スクアレン・ホペン・シクラーゼなど)は一部の細菌においてステロールと類似の機能を担うホパノイドの炭素骨格を合成する。スクアレン環化酵素がスクアレンを直接環化するのに対し、オキシドスクアレン環化酵素はスクアレンをエポキシ化したオキシドスクアレンを環化する。1つ目および2つ目のテルペン環化酵素グループは(互いに相同性はないが)進化の過程で密接な関係をもっている(αおよびβγモジュール)[12]。3つ目の酵素グループも他の2つの環化酵素グループとは相同性はなく、C40テトラテルペンの環化を触媒する。

真核生物および細菌では様々な環状テルペンが広く分布しているが、古細菌では一部にしか存在しない(カロテノイド)。古細菌ではイソプレノイド鎖(FPPやGGPPなど)は広く利用されているが、そこから誘導されるテルペンおよびテルペノイド類はほとんど見つかっていない。
分類

一般的にイソプレン単位の数によって分類される。イソプレン一分子は5つの炭素をもつため、基本骨格であるイソプレノイド鎖は5の倍数の炭素数をもつ。炭素数が5個のものはヘミテルペン (hemiterpene)、10個のものはモノテルペン (monoterpene)、15個のものはセスキテルペン (sesquiterpene)、20個のものはジテルペン (diterpene)、25個のものはセステルテルペン (sesterterpene)、30個のものはトリテルペン (triterpene)、35個のものはセスクアルテルペン (sesquarterpene)、40個のものはテトラテルペン (tetraterpene) と呼ばれる。接頭辞はギリシャ語に由来し、それぞれモノ (mono-)、ジ (di-)、トリ (tri-)、テトラ (tetra-) は1から4、ヘミ (hemi-) は半分、セスキ(sesqui-) は1と1/2、セステル (sester-) は2と1/2[注 1]、セスクアル (sesquar-) は3と1/2[注 2] を意味する。ただし、生合成が進み各種テルペノイドに誘導される過程で、炭素原子が付加されたり取り除かれることもあるため、炭素数が5の倍数にならないテルペノイドも多数ある。


構造によって非環式、単環式、二環式、三環式のように分類される場合がある。それぞれ分子内に0個、1個、2個、3個の環状構造を含む。さらに細かく骨格構造によって分けられることもある。左側がhead、右側がtail

また、イソプレン単位が繋がっている向きによって、「head-tail」「head-head」「tail-tail」のように分類される。メチル基が2個ついている側がhead、エチル基の側がtailである。
ヘミテルペン左からプレノール、3-メチル-3-ブテン-2-オール、チグリン酸、アンゲリカ酸、セネシオ酸、イソ吉草酸

イソプレン単位を1個だけ持つものはヘミテルペノイドと呼ばれる。よく知られているものはおよそ25種あるが、天然に見られるのはごくまれである。アルコール誘導体のプレノールや、カルボン酸誘導体であるチグリン酸アンゲリカ酸、セネシオ酸、イソ吉草酸が例である。
モノテルペン

モノテルペノイドは900種類以上知られており、すべてモノテルペン合成酵素によってゲラニル二リン酸から生合成される。反応は複雑なものであり、多様な構造を持つモノテルペノイドが作り出される。三環式のものはほとんど存在しないが、ボルナンの2,6位が架橋したトリシクレン、甲虫が分泌するカンタリジンが知られる。セスキテルペノイドとともに植物によって作り出され、精油の主成分を構成する。針葉樹の落葉などからなる森林の土には1立方メートルあたり1リットル程度のモノテルペノイドが含まれる。これは山火事が広がりやすいことの主な理由のひとつである。
非環式コリアンダーの種子にはリナロールが含まれる

代表的なモノテルペンはミルセンオシメン、コスメンである。ミルセンは月桂樹、オシメンはラベンダーの精油に含まれる。

リナロールバラ、ラベンダーに含有される。コリアンダーの葉やパルマローザ油ゲラニオールネロールを含む。シトロネロールシトロネラ油から、ミルセノールタイム油から得られる。ラベンダー油にはラバンジュロールもみられる。イプスジエノールはランの花の香り成分である。これらはモノテルペノイドアルコールである。

モノテルペノイドアルデヒドのネラールとゲラニアールはシス-トランス異性体であり、まとめてシトラールと呼ばれる。香料の原料として利用され、例えばアセトンと縮合させたのち環化させるとイオノンの2種の異性体が得られる。これはスミレのような香りをもつ。イオノンはカロテンやレチノール(ビタミンA)の原料でもある。シトロネラールは防虫剤として使われる。

フラノイドモノテルペンとしてペリレンやローズフランが知られる。ローズフランはバラ油の香気成分で、ペリレンは精油中に含まれる防御フェロモンである。

カルボン酸としてはゲラニル酸が知られる。
単環式リモネンはオレンジやレモンなどの柑橘類の果皮にみられるチモールの名称はハーブの一種、タイムに由来する

単環式のモノテルペノイドはほとんどがパラメンタン骨格を持つが、シクロプロパンシクロブタンシクロペンタン骨格を持つものも存在する。クリサンテモール(シクロプロパン)、グランジソール(シクロブタン)、ジュニオノン(シクロブタン)が例として挙げられる。におい閾値がもっとも低い化合物として知られるチオテルピネオールも単環式モノテルペノイドである。

シクロペンタン骨格を持つモノテルペノイドはおよそ200種ほど知られており、イリドイドやセコイリドイドに分類されている。イリドイドはイリドミルメクス属 (Iridomyrmex) のアリからはじめて単離された(数少ない非植物由来のテルペノイドである)ことからその名が付けられた。シクロペンタンにピロンが縮環した骨格を持ち、炭素数が5の倍数でないものも含まれる。イリドイドは月経困難症の手当てに使われるセイヨウニンジンボクの果実や、リウマチに効くとされるライオンゴロシなどに含まれる。

シクロヘキサン環を持つ単環性モノテルペンはさらにいくつかのグループに分けられる。炭化水素としてはメンタンリモネンフェランドレン、テルピノレン、テルピネンシメンが最もよく知られている。


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